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オークを食べよう!②

※今回からチョーくんに話が戻ります

 ふぅ、ビビった!!

 オークなんて厄介な魔物だよ、まったく。


 一匹、二匹ならともかく群れることもあるってんだから困ったものだ。

 まぁ、群れた場合はそれこそ村の一つ二つは滅ぶらしいけれど……。


 さて、今回の一件。

 デュランたち以外は怪我人もいなかったそうだ。

 それは良かったと一安心するのもつかの間。


 アコさんがぎょろりとした目つきでこんな事を言い始めたのだ。


「熊手というのは珍味だそうですよ」

「オークの手が食べたいって暗に言ってる???」


 パンッ、とにこやかに微笑みながら手を叩くアコさん。

 それが俺には天使のような悪魔の微笑みに見えた。


「流石です、チョーくん! 作ってくれるんですか!?」

「オーク肉が食べたいなら、作ってあげるからそれで満足しなよ、ね?」

「作ってくれないんですか?」


 きょとん、と首を傾げるアコさん。

 今回はおそらく、食欲もあるだろうが味の好奇心から言ってる!

 確実にそうに違いない!!


 別に弱みを握られてるわけでもないし、命の危険が今回はあるわけじゃないけれど……。

 じぃ~~~っと見つめてくる。この目に弱いんだよな。


「わ、わかった。暇を見て作っておくよ……」

「わぁい!! 最近、チョーくんの手料理を食べてないから楽しみです!!」

「数日ぐらいの話でしょ!?」


 宿の飯を食っていたけど、それじゃあ満足しなかったようだ。

 たしかにちょっと……味が薄いと言うか、調味料が少ない感じはしたけれど!

 まったく……熊手ってたしかめちゃくちゃ調理法面倒じゃなかったっけ。


 まぁ、試しにやってみるか。

 まず取り切れなかった毛を抜かないと……。

 ……魔法で焼くか。


 というわけで、俺は宿屋の厨房を借りることにした。


「”炎掌(インガナク)”」


 魔法の炎というのはけっこう便利なもので、燃やしたくないものは燃やさないでおける。

 それには多少練度が必要だけれども、”炎掌(インガナク)”の扱いにはたけている。

 数分もしない内に、毛は燃やし尽くすことが出来た。


「なにやってるんですか?」


 デュランくんと……たしかダンテくんだっけか。

 気になったのか、カウンターの向こうからこっちを覗いてきた。

 まぁ、既にオークは解体したのに、その手に苦心してるとは思わないよな。


「ああ、オークの手だよ。肉球があるでしょ」

「爪もありますね」

「美味いんすか?」

「ああ、珍味だと言われてる。アコさんに食べさせようと思って」


 へぇ~~~、と感心する二人。

 既に二人は魔物食に抵抗がないようだ。


 魔物を食う、と村人たちに提案したときは大層嫌がられたが。

 結局食糧難だし、俺達が率先して食ってたら、皆、最後には食べ始めた。


 背に腹は代えられないしな……。

 まぁ、このオークの手は完全な好奇心と趣味嗜好で調理しているわけだけど。


 ダンテくんが何やら本をカバンから取り出してきた。

 俺も読んだことがある奴だ。”いざという時の魔物食のススメ”。


 それにオークの手の調理法が書いてあったんだよな……。

 もううろ覚えだけど。


「数時間煮るとか、三日三晩流水につけるとか書いてありますね」

「調理が難しそうなんだよなぁ……、あ、そうだ。あの魔法を使ってみよう」


 なんか覚えたはいいけれど、使い道が難しくて実戦だとろくに使ってない魔法だ。


 まず、鍋に水を入れて、そこに数種類の実を投入。

 そこにオークの手をイン……して、蓋をする。

 これで準備完了。


「”圧撃(ペシャニル)”!!」


 ……見た目の上には変わらない。

 これは対象の圧力を変えるという魔法で、対象には薄い膜のような物ができる。


 しかしただ魔力の操作が難しく、ただ無造作に使っても魔力が霧散してしまうし……。

 そもそも対象が数分はろくに動かないことが条件なのだ。


 とてもじゃないが、戦闘には使えないと諦めていたんだけど。


「なるほど、浸透圧ですか」

「なんすか、それ」


「異界の知識を得たという高名な魔術師が提唱した理論なんだけど、まぁ、簡単に言えば……圧力が料理にかかると、美味しくなる……とかなんとか?」


「へぇ、便利な魔法っすね」


 駆け出し二人の掛け合い。俺だって浸透圧について詳しくないけれど、この魔法を鍋とかにかけると調理時間が大幅に短縮されるとか聞いたことがある。また、食材の保存にもいいんだとか。

 なんか……真空? になるらしい。条件が厳しいそうだけど。


 学都でちょっと理論を聞いたけれど、全然分からなかった。

 ともかく、これで調理時間を短縮しようというわけだ。


 じんわりと、”炎掌(インガナク)”の熱を鍋に加え……。


「……チョップマンさんって、どのぐらい”炎掌(インガナク)”が続けられるんですか?」

「え? 一晩ぐらい」


「ええ……僕は数発が限界なのに……」

「ははは、周りの魔力を使ってないからだよ」


 大気中の魔力を上手く使えば、体内の魔力なんてちょっとで済む。

 それこそ魔力が大量にある場所ならば、引火するときだけの魔力でいいぐらいだ。

 これを言うと、大体の人に驚かれるんだけど、そんなにすごいことかなぁ……。


「チョップマンさんってなんでそんなに強いんすか?」


 今度は戦士のデュランくんの質問。

 強いって言ってもなぁ。俺より強い戦士なんてごまんといるし……。


「俺はそんなに強くないよ。まぁちょっと図体が大きいのと、それに反して身軽なだけで」

「でもオークを簡単に倒したじゃないっすか」


「あれぐらい数年冒険者をしてれば、誰だって倒せるよ」

「ええ……」


 これは本当。まぁ、数年の内にけっこうな冒険者が死んで、蘇生できなくて廃業するんだけど。

 俺は幸い、アコさんと組んでたからそうそう死ぬことはなかった。


 アコさんは治癒魔法も上手いが……、ここぞという時、本当に強いのだ。

 キレてるときはオークを素手で投げ飛ばすし。


 なんだろう、バーサークしてるのかな、あれ。


 ともあれ、そんな風に駆け出しに質問責めされ数時間。

 すっかり柔らかくなったオークの手からは簡単に爪が抜けた。


 あとは同じ工程で煮詰めるだけか。

 ”圧撃(ペシャニル)”、思いの外便利だなぁ!!


 さて、翌朝。

 魔法を使いつつ寝るわけには行かないので、一晩徹夜してたんだけれども。


 アコさんが起きてきた。まだちょっと眠そうだ。

 普段の神官服ではなく、簡単なパジャマ姿になっている。


「チョーくん、徹夜してたんですか?」

「まぁね、なかなか調理が難しくて」


「す、すいません……そこまで面倒な食材と思わず……」

「いいさ、ほら! ちょっと食べてみてよ!!」


 ────というわけで完成。オークの肉球煮。

 ちょっと原型が残ってて、苦手な人は食べたくなさそうだ。


「わぁ、いただきます!!」


 さて、どうだろう。ナイフで簡単にほどけたみたいだ。

 本当に便利だな、”圧撃(ペシャニル)”。

 本だと数週間は掛かりそうな工程が一晩で出来たぞ!


 もちゃもちゃとアコさんがオークの肉球煮をほうばる。


「なんだかもっちりしてて、それでいて甘みがあって……ふぅむ」

「思ったより美味しくなかった?」


「いえ! まさしく珍味という感じです! チョーくんも食べてみてください!」


 ……と言われて差し出された肉球煮。

 フォークに刺さっているそれを一口。


 うおっ……! ぶわっと広がる肉汁!!

 オークの肉は食ったことあるけれど、味よりも感触が大きく違う!!

 まるで餅を噛んでるみたいだ!! それでいて深い甘みとコクがある!!


「なるほど、まさに珍味って感じだね」

「しかしチョーくんに徹夜させるほどかと言われると……」


「いやいや、美味しく食べてよ! そのために作ったんだし!!」

「はい!!」


 もみゅもみゅとアコさんが味わって食べていると、ポニーテルの少女が降りてきた。

 たしかリャイとか言ったっけ。


 くんくん、と香りに気づいたようでこちらに近づいてくる。


「わ! 美味しそう!! 私の分もない!?」

「………………一口食べますか」


 本当に嫌そうに言った。

 アコさん、ニコニコしながら人にあげるときと明らかに嫌そうな時があるな。

 希少かどうかか……? いやもっと食いたいかどうかなのだろうか……。

 

 う~~~む、わからん。

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