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オークを食べよう!①

※今回も他パーティ視点の話です

「アコさん……いいよなぁ」

「ああ、彼女は素晴らしい人だ」


 チョップマンのパーティに助けられて以来、デュランパーティの男連中はすっかりとある少女に夢中だった。もちろん、あの”白銀”とでも形容すべき彼女のことだ。


 魔術師のダンテは頻繁に教会へ趣き、仕事を手伝おうとしていた。

 同じ神官のポールなんかは頻繁に教えを請い、余力があるときは答えてもらっている。


 デュランパーティは蘇生の代わりに、しばらくこの村の警護をすることになったのだ。

 本当は学都へと向かうつもりだったのだが、命の代金と言われてしまっては仕方ない。リザードマンの肉という対価もあったが、あれはチョップマンたちが差し出したものに過ぎない。


 なにより冬が近く、周辺の魔物が活発になっているともあって、チョップマンたちもが冬はこの村で過ごすことにしたのだ。命の恩人たちがそう決めたのに、自分たちだけ無視はできまい。


 と言っても、デュランたちの仕事は近隣に出た弱い魔物を討伐したり、村の仕事を手伝ったりすることぐらいなのだが。今だって、冒険者の宿屋に集まり、暇そうにあのあこがれの先輩に関してあーだこーだと言っているだけだった。実際はどういう人物かも知らずに。


「なーによ、デレデレしちゃって」


 面白くないのはパーティの紅一点である。

 盗賊のリャイ。栗色の髪をポニーテールにした彼女は、飯さえ与えておけば大してこういう話に関わろうとしないデュランを捕まえ、愚痴を吐いていた。


 肝心のデュランはというと、宿で出されたステーキを食べている。

 リザードマンのステーキだ。今、この村は食糧難にあり、魔物を食べるしかない状況だった。


 理由というのは、街道に魔物が溢れ、満足に機能していないことがある。

 自分たちで育てている家畜や、農作物もあるが満足な量ではない。街道の魔物さえ倒せば、なんとかなる……と言いたいところだが、冬になると運搬の量もガクッと下がってしまう。


 結局、村にいる冒険者がとってきた魔物を食うしかないのが現状だった。

 今はまだいいが冬になれば、魔物も減る。狩るなら今しかない……と言っても、デュランたちはまだ駆け出しであり、街道を支配するような魔物狩りには満足に参加できていないのだが。


「でも、いい人っすよ。二人は」

「ええ~、あのチョップマンって人怖くない? 魔物を捌いたりしてるし」

「まぁ、それはオイラも思うけど……」


 背に腹は代えられない。チョップマンはそう言っていた。

 好んで魔物食を食べているわけではないと思いたいが、あまりにも手慣れている。

 まるで日々、ああして魔物を食べてきたかのようだ。


 きっとこの村のように飢えに困っている集落に、アコさんの申し出で施してきたのだろう。

 ――と、デュランは肯定的に考えることにした。


「リャイは二人がデレデレしてるのが気に食わないだけっしょ」

「うるさいわね! あのアコって人、いかにも聖女ですって立ち振舞いをしてるけど裏にあるに決まってるっ!」


「そんな……助けてもらったんだからさぁ」

「うるさいうるさいっ!」


 パーティ内に溜息が漏れる。その意味はそれぞれで異なっていた。

 そろそろ食事が終わったかというぐらいになって――。


「大変だぁ!! 村に魔物が!!」

「なんですって!?」


 まともな冒険者は皆、街道の整理に向かっている。

 いま村で戦えるのはデュランたちだけだった。互いに顔を見合わせ、頷く。

 それぞれ今こそ自分たちの出番であると、確信していた。


 呼びに来た村人に連れられ、村の入口に向かうと。

 そこには200CM(センチネル)はありそうな魔物がいた。


 二足歩行で、熊みたいな図体をしている。

 全身が毛むくじゃらだが、鼻は豚みたいで口から尖った牙が生えている。


 あれは――オークだ。豚獣人とも言う。

 人、とついているがやはり人族とは認められていない。


 理性もあるわけではなく、デュランに言わせれば熊の仲間のようなものだった。

 とはいえ、その恐ろしさは実際の熊と相違無い。


 ひとまず、戦士であるデュランが前に立つ。

 しかしはっきり言って、駆け出しのデュランが太刀打ちできる気はしなかった。


「ぐぅるるるるるる!!」


 四足歩行になり、突進してくる。人とは言うが、熊と猪の混ざり物のようなこの魔物が力を発揮するのは、こうして四足歩行で突進するときなのだ。


 まっすぐとデュランに向かってくる。

 当然、止められるとは仲間たちも思っちゃいない。


「”聖壁(シルズ)”!!」


 神官のポールが杖を構え、何やら唱える。

 するとデュランたちとオークの間に見えない壁ができた。

 ガツゥン、と大きな音がする。


「ぐっ……!」


 一見、有益な魔法に思えるが、その壁を支えるのは術師の魔力と精神力だ。

 一発は耐えられても、二発は耐えられない。オークは衝撃を受けてもピンピンとしていた。


「”炎掌(インガナク)”!!」


 魔術師のダンテが掌から炎弾を撃ち出す。

 ”炎掌(インガナク)”は駆け出しから熟練者まで、幅広い術師が扱う魔法だった。


 しかし練り込む魔力、イメージの差と習熟度によって、その威力は大幅に変わっていく。

 ダンテの”炎掌(インガナク)”では、オークをひるませることしか出来なかった。


「いくわよ!」


 壊れた”聖壁(シルズ)”を打ち破って、リャイとデュランが飛び出す。

 そのまま怯んだオークにナイフと刀剣の斬撃を食らわせる!


 ……ものの、分厚い毛皮に弾かれ、大した負傷にはならなかった。


「ゴギャアアアアア!!」


 オークが立ち上がり、腕を振るう。

 とっさにデュランがそれを盾で防ぐも、馬鹿力で吹き飛ばされてしまった。


「デュラン!!」


 気を取られたリャイに向かって、もう片腕での爪撃。

 肩口から大きく切り裂かれ、鮮血が吹き出す。


「ぐあっ……!」

「リャイ!!」

「こいつぅ!!」


 ポールが駆け出し、ダンテが二発目の”炎掌(インガナク)”を撃ち出そうとする。

 だが周りの仲間達が邪魔でダンテは魔法を撃てなかった。


 なんとか立ち上がったデュラン。

 しかしオークはよろめくリャイにのしかかろうとしていた。

 このままでは危険だ。そう思った最中――。


 遠方から肉包丁が飛んできて、オークの背中に突き刺さった。


「ガァアアアアアア!?」


 突然のことに振り向くオーク。

 そこには先程デュランたちが宿屋で噂していたチョップマンがいた。


 どこかから拾ったのか、肉包丁の代わりに斧を装備している。

 背後には白銀の少女――アコがいた。


「あの一撃で倒れてくれれば良かったんだけど」

「私がいつものように”震打(ライグル)”を使いましょうか」


「いや、あの大きさじゃあ直接当てないと厳しいよ」

「当てますよ」


「危ないから下がってて」

「はい」


 睨み合うオークとチョップマン。

 普段のおっとりした空気はどこへやら傷に似合った凶相へと変わっている。

 仕掛けたのはオークから。四足歩行になり、チョップマンへと突っ込んでいった。


 チョップマンもそのまま駆け出し、ぶつかるかと思いきや――。

 まず斧を投擲。それに”炎掌(インガナク)”の炎を纏わせる。


 しかしオークはその一撃を頭蓋で弾いた。

 だが、炎の余波で飛び跳ねるチョップマンは見えなかったのだろう。

 チョップマンはオークの背中を踏むと、突き刺さっている肉包丁を掴み――。


「”炎掌(インガナク)”ッッ!!」


 そこから炎を、オークの体内に流し込んだ。


「ガァアアアアアアアアア!?」


 苦しみながら起き上がり、腕を振り回すオーク。チョップマンはそれを盾で容易くいなしつつ、回収した肉包丁に”炎掌(インガナク)”の炎を纏わせ、オークの片腕を切り飛ばした。


 その一撃が大勢を決したのだろう。

 よろめき、倒れかかったオーク。その首に燃えたままの肉包丁を添わせ――。

 まるで処刑人のようにその首を跳ね飛ばす。


「す、すごい……」


 少し離れてみていたデュランはすっかり腰を抜かしていた。

 状況が落ち着いたのを確認したポールが、治癒魔法をリャイにかける。


「ああ、駄目ですよ。そんな乱暴にしちゃ傷が残ってしまいます。私にお任せください。貴方はデュランさんを。おそらく腕が折れています」


 ニッコリと微笑み、リャイに近づくアコ。

 そのまま、その傷口に手を当てて癒やしの光を流し始めた。

 すると、負傷した部位がみるみるうちに治っていく。


 その後には傷跡も何も残らなかった。


「あ、ありがとう……本当に傷跡も残ってない」

「努力しましたから!」


 自信満々にふんす、と腕を曲げ力こぶを作って見せるアコ。

 リャイはこんな人に「裏がある」なんて言ってしまい、申し訳ない気持ちになってしまった。


「アコさん、こっちも出来れば治してあげてくれない?」


 デュランを治しているのはポールだ。

 その腕を掴み、治癒の光を当てている。

 しかし上手くいっていないようで……。


「痛っ痛ぁあああああ!? 回復下手くそなんすよ、ポールは!!」

「仕方ないだろ!?」


「あ~~~……」


 治癒魔法は下手な人間がかけると、回復痛を生み出す。

 その痛みは負傷した時の数倍とも言われており、熟練の治療師はありがたられた。


「練習です、練習」

「……だってさ」


「痛ぇええええええええええええ!?」


 澄み渡った青空に、駆け出し冒険者の悲鳴が響き渡った。

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