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第71話 裁かれる


「モンスターハウスだとぉ……!?」


 俺の背後で焦りに震えるアサトの声が響く。


《モンスターハウスってなんぞ?》

《いわゆるトラップの一つ。モンスターが大量に出現する部屋のこと》

《モンスターハウス自体はダンジョンではそう珍しくもないものだけど、ここのはちょっとレベルが違う》

《そうそう、出現モンスターのレベルが狂ってるのよね》

《A級、S級はザラ。ハッキリ言ってイレギュラーレベル》

《しかもモンスターは音に敏感。こんな場所で大音量で音楽なんか鳴らしたら神経逆撫でもいいとこよ》


 俺が説明するまでもなくリスナーのコメントが情報を補足してくれる。


「――ということです。アサト社長、さてどうしましょうか」

「どうするもこうするもあるかっ! 脱出するに決まってんだろぉが!」


「無駄ですよ。モンスターハウスは一方通行。俺たちが今入ってきた扉はすでにロックされています。ここから脱出したかったら、このモンスターの群れを潜り抜けて、フロアゲートまで辿り着くしかありません」


 現在地からフロアゲートまでの距離はおよそ一〇〇メートル。

 その間には狂奔に駆られたモンスターが列をなして待ち構えている。そのすべてがイレギュラー級だ。


 そう、六本木ダンジョンが十三層で探索が止まってしまっている意味。


 この通路を抜けられた探索者(ダイバー)は、未だかつていないのである。


「正気じゃねえぞテメェ!? 自殺にオレを巻き込むんじゃねえ!」

「何言ってるんですか? ここからがコラボ配信の本番です」

「コラボ配信だと……!?」


 アサトがそう戸惑いの声を上げた瞬間――


 俺たちを取り囲んでいたモンスターの群れの中から、先陣を切るように、一体のモンスターがこちらに向かって突っ込んできた。


 肥大化した二本の牙を持つ猪型のモンスター、マッドネスボア。


 体長二メートルはゆうに超える巨体に、凶暴な形相。

「ヴォオオオオオオオオオオオオッ!」と獰猛な雄叫びを上げるそいつは、その巨躯を躍動させながら俺とアサトの元へと真っ直ぐに向かってきた。


「――ふっ!」


 俺はマッドネスボアの突進が直撃する寸前に、横っ飛びで回避する。

 マッドネスボアの突進は止まらない。勢いそのままアサトの方へ突っ込んでいった。


「――ひッ!? くるんじゃねえ!」


 あわや直撃というタイミングで、アサトが身にまとう光の障壁がまばゆさを増す。


 激突と同時にバチュンと炸裂音が周囲にとどろき、マッドネスボアの身体が、水風船みたいに粉々に弾け飛んだ。

 《絶対不可侵領域》のオート反射が発動したのだ。


「――ックソ!」

「流石ですね社長。でも気を抜かないでください。まだまだ来ますよ」

「……っ!?」


 俺の言うとおり、マッドネスボアを皮切りに、モンスターの群れが次々とこちらに向かって突っ込んできた。


「魔眼バロル・動体視力強化(ファーストアイ)六倍がけ(セクスティプル)――!」


 俺はスキルを発動し、ククリナイフを構え直した。


「――ふっ!」


 短く息を吐いてから、俺へと飛びかかってきたモンスターの攻撃をかわし、すれ違いざまにナイフで斬り裂く。


 もちろん一体処理しただけでは終わらない。

 次々と襲いかかってくるモンスターの攻撃を紙一重でかわし続け、カウンターで急所をえぐって確実に仕留めていく。


「――社長! ボーっとみてないで手伝ってくださいよ!」


 俺はそう叫んで、飛びかかってきたモンスターの身体を掴んで、背負い投げの要領でアサトに向かって投げ飛ばした。


「テメッ――がっ……!」


 俺が投げ飛ばしたモンスターは、アサトのバリアに直撃。

 バリバリバリと激しい音を立てて、ぶち当たったモンスターの体躯が四散した。


「さすが無敵の上級技能(ハイスキル)ですね!」

「う、うるせえっ! 殺すぞ……!」


 俺もアサトも、有無を言わさず乱戦に巻きこまれる。


 息つく暇もなく、次から次へと襲いかかってくるモンスター。

 この狭い通路の中で、これだけの大群を捌き続けるのは至難の業だ。


 俺はククリナイフを振るって、アサトは《絶対不可侵領域》の障壁を張り続けて、敵の猛攻をしのぎ続ける。


《やべえよ、やべえよ》

《この量のモンスターとたった二人で渡り合うって》

《アサトはクソオブクソだけどやっぱスキルはエグいな》

《つーかさ、元々アサトとクロウのデュエル配信だったよね?w なんなのこの状況www》


 怒涛の勢いで流れていくコメントを横目に、俺は思わずほくそ笑んでいた。


 なぜなら今のこの状況は、はじめから俺の想定していた通りの展開だったからだ。




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