表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/85

第5話 有名配信者を助ける

「ふぅ――……」


 戦闘を終えた俺は軽く息をつく。

 周囲の安全を確認してからスキルを解除。

 ククリについた血糊(ちのり)を払った。


 そんな俺の元に、HALがふよふよと近づいてくる。


「HAL、イレギュラーは――」

『回答。高エネルギー反応の消失を確認。ファイアオーガの討伐を持って、イレギュラーの収束と判断できます』

「そうか、よかった」


 とりあえずの危機は去ったことがわかって一安心だ。

 俺はネクタイを緩める。


『システムアップデートに関する重要報告があります』

「ん?」

『たった今のHALの意思決定における深層学習アルゴリズムの一部プロセスに重大な瑕疵(かし)が確認されました』


 HALがなにやらアナウンスを始める。

 重要報告? 重大な瑕疵? なんのこっちゃ。


『原因分析。探索者(ダイバー)の戦闘能力を著しく過小評価したことが原因と推定』


『対策。只今の皆守クロウの戦闘データを反映し、探索者(ダイバー)の戦闘能力に関する期待値を大幅に上昇修正。さらに撤退推奨判断の閾値(しきいち)を大幅修正します――』

「お、おう? なんだって?」


『結論。システムアップデートのため、一時的にスリープモードに入ります』

「は? スリープ? お、おい、HAL!?」


 俺が止める間も無くHALのカメラアイから光が消える。

 そして次の瞬間、電源が切れたかのように、その場で起動停止してしまった。

 俺は地面に落下しないように慌ててHALをキャッチ。

 その後、何度かHALの名前を呼びかけてみるが、うんともすんとも反応しない。


「これ――壊れたりしてないよな? 弁償しろっていわれても俺の薄給じゃムリだぞ……」


 突然機能停止してしまったHALを抱えたまま、俺はしばし途方に暮れる。


「あのう――」

「ん?」


 背後からの声に振り返ると、先ほどまでモンスターに襲われていた探索者(ダイバー)の少女が俺のそばに立っていた。


「その! 危険なところを助けていただき――ありがとうございました!」

「いえ……大丈夫ですか? 大きな怪我とか……」

「はい。アナタが助けてくれたおかげです」


 そう言ってペコリとお辞儀をする少女。

 年齢は思いのほか若そうだ。ミクルと同い年くらい? いや、もしかしたら高校生だろうか。

 

 セミロングの黒髪で、その裏が青色というインナーカラー。

 くりっとした水色の瞳で少女はこちらを見つめてくる。


「……あれ、キミは……」


 その顔に見覚えがあった。


「もしかして掛水(かけみず) リンネ――さん?」

「あ、えっと……はい、そうです」


 掛水(かけみず) リンネ。

 チャンネル登録者数50万人を抱える超人気ダンチューバー。


 俺は仕事柄、有名ダンチューバーの動画をチェックすることが多いのだが、彼女の配信には毎回とんでもない数の視聴者が集まっている。


 現役女子高校生。いつも明るく前向きな性格。

 トーク力もあり、頭の回転の速さをうかがわせる。だけどたまにちょっと間の抜けた、お茶目な一面を見せたりして、そんなギャップも魅力的だ。

 

 なにより、()()()()()()――ド派手で分かりやすいハイスキルに裏付けされた探索者(ダイバー)としての高い実力を彼女は持つ。


 若手女性ダンチューバーという点ではミクルと同じだけど、探索者(ダイバー)としての実力も配信者としての人気もミクルのそれとは比較にならないと思う。

 

 彼女の配信を一度でも見た者は、老若男女問わず、誰もがファンになってしまうのだ。

 

「とにかく……掛水さんに大きな怪我がなくてよかったです。あ、これポーションですのでどうぞ使ってください」

「え、でも……」

「いいからいいから」


 俺は懐からポーションの小瓶を取り出して、半分押し付けるように掛水さんに手渡した。


「あ、ありがとうございます……」

「いえ。それじゃ、私はこれで」


 ポーションを受け取った掛水さんに背を向けて、フロアゲートへ向かおうとしたその時――


「あの!」


 掛水さんが俺を呼び止める。


「あの、お名前を――聞いてもいいですか?」


掛水さんは、妙に神妙な面持ちで俺の目をじっと見つめてきた。


「名前? 私のですか? えっと……」


 自分の名を名乗ろうとしたとき。


 ティロンティロンティロン。


 スーツの胸ポケットにしまっていたスマホから着信音が鳴り響いた。


「あ、すみません」


 俺はあわててスマホを取り出して電話に出る。


「もしも――」

『オイ! 今どこにいやがんだよッ!!』


 スマホ越しに怒声が飛んできた。

 社長からの電話だった。社長はキレると途端に口が悪くなる。


『イレギュラー発生だってのに、ミクルを放ってどこほっつき歩いてんだよテメェ!? 最後の最後までほんっと使えねぇ野郎だなカス! まさか一人だけ逃げようとしてたんじゃねぇだろうな!?』

「いえ、社長――そうではなくてですね――イレギュラーは私が――」


 俺は自分の行動を報告しようとしたのだが。


「言い訳は聞きたくねえんだよグズ! いいから一分以内にミクルの元へ戻れッ!! ミクルの身になんかあったらテメェを殺して内臓売り飛ばすかんな!? 早くしろよゴミッ!」


 俺の発言をシャットアウトして、言いたい放題暴言を吐いて、社長の電話はブツっと一方的に切れた。


(クソッ。なんでこの会社の人間はもれなく人の話を聞かねーんだよ……)

 

 とにかく、急いでミクルの元に戻ろう。

 スマホをしまって、掛水さんの方に向き直る。

 

「すいません。ちょっと仕事の関係ですぐに戻る必要がありまして。あの、私の名刺を渡しておきますから。なにかあったらこちらにご連絡ください」

「え、ちょ、ちょっと待って――!」

「それじゃ!」

「あ――!」


 俺は自分の名刺を掛水さんに押し付けて、フロアゲートに向かって駆け出した。

 

 それから気づく。


「あ、俺、今日で会社クビなんだっけ――」


 まあ、いいさ。

 もう彼女と二度と会うことはないだろう。

 

お読みいただき、ありがとうございます。



・面白い!

・続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマーク登録と、少し下にある「☆☆☆☆☆」をクリックしてして応援していただけると嬉しいです!


つまらなかったと思ったら星は1つだけでも結構です。


評価は、作者のモチベーション、ひいては執筆速度に繋がります。


なにとぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼小説第1巻5月30日発売!▼
予約はこちらから
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ