第48話 ヴィラン《side黒末アサト》
「合格おめでとうユキちゃん。どう? 厳しいオーディションをくぐり抜けて、ダンチューバーとしての一歩を踏み出した気分は」
「あ、ありがとうございます、アサトさん。でも、私……まだ実感がなくて……」
「ふふ、自信を持って。雪代ユキ……キミは応募人数三千人以上の中から選ばれたんだから。これからキミは忙しくなる。有名配信者とのコラボ、TVメディア出演、企業案件だって……個人勢として細々とやっていた昨日までのキミとはまったく違う華やかな世界が待っているよ」
「ほ、本当ですか……?」
「本当だとも。ブラックカラーのバックアップがあれば、キミはスターになれる」
「スターに……わたしが……」
「実はここだけの話しだけどね。今、巷で有名な“ククリーマン”こと皆守クロウ……彼だって元々はうちに所属していたんだ。アイツにダンジョン配信のイロハを教えたのは俺といっても過言じゃない」
「あ……ありがとうございます! アサトさん! 私……これから頑張ります! ダンチューバーとして……!」
「ふふふ……これから俺のことは社長と呼ぶようにね」
「……」
「ん? どうしたの? ユキちゃん。緊張してる?」
「……えっと、はい。少しだけ」
ぺろっ。
ふふ……
「大丈夫。何も心配することはないさ。いわばこれはオーディションを締めくくる最終試験だとでも考えてくれればそれでいい」
「最終……試験……」
「ユキちゃん。ダンチューバーはカメラの向こうにいる沢山のリスナーを楽しませなくちゃあいけない。ダンジョン探索を通じて、極上のエンタメ体験を届けるのが、俺たちの仕事。それは理解しているね?」
「は、はい……」
「リスナーの欲望は底なし沼さ。彼らの要望は、どんどん多様化して、エスカレートしている。それに答えるために俺たちもドンドン過激に、先鋭的に、進化しないといけないんだ。ますます競争が激化するこの業界、そうしないと生き残っていくことはとっても難しい。この理屈わかる?」
「わかります……!」
「いい子だ。だから、これからすることは、キミがその覚悟をキチンと持っているかを試す最終試験だ。キミにとって初めてのリスナーとなるこの俺を……ちゃんと楽しませることができるかどうか、厳しくチェックさせてもらうよ」
「でも……こんな……学校の制服を着て……」
「もしそれができないというなら、残念ながら君の採用は……考え直さないといけないなぁ。他のスターの卵を探すことになる……ね?」
「…………」
「どうする? 別に俺はどっちでもいいんだ。自分の未来を決めるのはユキちゃん自身だからね」
「私の未来……」
「掃いて捨てるほどいる個人勢ダンチューバーのまま生きていくか。企業のバックアップを得て、本物のダンチューバーとして、スポットライトを浴びて生きていくか――選ぶのはキミだよ」
「ダンチューバーになるのは……子どもの頃からの夢でした……でも……これまでは全然上手くいかなくて……」
ぺろぺろっ。
「ダンチューバーになって有名になるためなら……私……なんだってします」
ぺろぺろぺろっ。
「ふふっ、その決意を聞きたかった。ようこそ、ブラックカラーへ」
RECボタン……オン。
録画開始。
「さあ、じゃあまずは制服を脱いでもらおうか。ああ、全部じゃなくて、スカートから」
「わかりました……」
「靴下は最後まで脱いじゃだめだよ。そう……いい子だ……じゃあこっちにお尻を向けて……」
ぺろぺろぺろぺろっ。
ふふ、ふふふ。
16歳の純潔――
まだ汚れを知らない真っ白い身体。
それを思いきり汚すこの瞬間。
何度経験しても……病みつきだ。
黒末アサトはこれから行われる情事が待ちきれないといわんばかりに、舌なめずりを繰り返した。
***
最終試験を終えたアサトは、都内某所のホテルから、ブラックカラーの事務所に戻ってきていた。
社長室で一人、ついさっきまで耽っていた痴態の一部始終を収めた動画の出来を確認する。
『いやッ――社長――ダメ、そんなところ、いやぁ――』
撮れ高は十分。カメラワークも悪くない。
自動で自分の顔にモザイク処理ができているし、声もノイズキャンセリング機能を使って完全カットされているから、自身のプライバシー保護は完璧。
AIを利用した昨今の自動撮影技術は馬鹿にできないモノだ。
「なかなか悪くない。バッチリ取れているな」
画面の中で乱れる雪代ユキの姿を見ながら、アサトは満足げな表情でつぶやいた。
それから彼は動画データを専用のクラウドストレージに保存する。
「これでよし、と」
ストレージには同じような動画がいくつも保存されていた。
定期的に新人ダンチューバーのオーディションを開催し、その都度、社長としての立場を利用して採用候補の少女と関係を結ぶ。
アサトはこの行為をずっと繰り返してきた。
平たく言えば枕営業だが、必ずその行為の場面を撮影するのがポイントだ。
動画は私的なコレクションとしても活用できるし、いざという時の脅迫の材料としても活用可能。
そのタレントのダンチューバーとしての商品価値が落ちてきたときに、最後の花火として、ポルノサイトに流出させることでスキャンダラスな話題を生み出す効果もある。
対象は容姿に優れていて、未成年であること。
それ以外の要素は、正直なところどうでもいい。
ダンジョン配信黎明期に配信者として名をはせたのち、株式会社ブラックカラーを立ち上げて華々しい実業家の業界に飛び込んだアサト。
富と地位を得て、数えきれないほどの女性を抱いて、快楽をむさぼりつくした彼の欲望がたどり着いたのが、まだ汚れていない少女の純潔だった。
(真っ白な体を黒く染め上げる瞬間。その瞬間がたまらなく気持ちいいんだ。くくくっ……)
アサトの心に罪悪感はない。
(確かに俺は所属タレントに手を出している。だけど手を出したタレントには、社長として全力でプロモーションしている。仕事を与えてやってる。何が悪い?)
アサトは決して自分を疑わない。
(タレントはダンチューバーとして売れてハッピー、会社は儲かってハッピー、俺は色んな女が抱けてハッピー。みんなハッピーだ)
自分が有能で、選ばれた人間だということを知っているから。
自分は人生における絶対的な成功者だと理解しているから。
人を支配する側の人間であることを確信しているから。
『アサト社長――失礼いたします。ブラックカラーの経営状況について、報告があります』
そんな彼に、社長室の片隅で待機していたダンジョンドローン――HAL・9999が声をかけた。
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