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第33話 活動方針を決める


「これより特務秘書課は、新宿ダンジョン攻略を目指す」


 会議が始まって開口一番、ヨル社長は声高らかに宣言した。

 

 しかし……


「新宿ダンジョンですか? でも……」


 俺の隣でリンネさんは目をぱちくりして聞き返す。


「どーやって?」


 ユカリさんも訝しむような目つきだ。

 

 無理もない。

 旧新宿区・第零号特別汚染区域――新宿ダンジョン。

 何人もの侵入を拒む絶対未踏領域であり、その攻略はダンジョンに関わる者にとって荒唐無稽(こうとうむけい)な絵空事にしか聞こえない。


「私たちがやることは至ってシンプルだ」



 だけど社長は不敵な笑みを崩さずに、俺たちを見つめた。


「リンネとクロウ。キミたち二人にはこれまでどおりダンジョン配信活動を続けると同時に、S級ライセンスの取得を目指してもらう」

「S級ライセンス……? 私たちが……?」


 ついで社長はその眼差しをユカリさんへと移す。


「そしてユカリ」

「ほいさ」

「キミはこれまでどおり技術開発に勤しんでくれればそれでいい」

「あいあいさ〜、って随分ざっくりしてますねぇ社長」

「なに、信頼の裏返しさ」


 ユカリさんのツッコミに社長は少し肩をすくめてみせる。それから再び前に向き直った。


「以上の特務秘書課の活動方針に対して、なにか質問がある者は?」


 社長の問いかけを受け、俺はおずおずと手を挙げる。


「なんだね? クロウ」

「えっと……S級ライセンスを目指す理屈はわかります。高難易度ダンジョンに入るために必須だからですよね」

「うむ、そのとおりだ」

 

「でもダンジョン配信をしなくちゃいけない理由は……? 別に配信をしなくても……淡々と実績を積むだけじゃダメなんですか?」

「実にいい質問だ、クロウ」


 俺が投げかけた素朴な質問を受けてヨル社長は満足げに微笑んだ。

 

「新宿ダンジョンへの侵入を阻む壁は大きく分けて3つ存在する」

「3つの壁……ですか?」


 ヨル社長は右手を前に差し出して、そっと人差し指を立てた。

 

「ひとつ目は、魔素の壁。新宿ダンジョンは全域が高濃度の魔素に覆われた深層だ。出現モンスターの脅威もさることながら、そもそもの問題として、探索者(ダイバー)は魔素に順応する必要がある。そのためにユカリにはD2スーツの改良をはじめとして、ダンジョン探索に関する技術革新に取り組んでもらう」


 社長は人差し指に次いで中指を立てる。


「ふたつ目は、法律の壁。ダンジョン法により新宿ダンジョンへの立ち入りは厳しく制限されている。唯一の例外はS級探索者(ダイバー)のみ。クロウとリンネにS級ライセンスを目指してもらう理由はコレだな」


 最後に社長は薬指を立てた。


「最後に三つ目――政治の壁。この壁を乗り越えるために、ダンジョン配信活動がカギとなる」

「政治の壁……ですか?」


「クロウも知っているだろうが、今から17年前、国が主導して新宿ダンジョン攻略に乗り出したことがあった。新宿特災から10年の節目を迎え、当時の首相が『新宿奪還』を公約に掲げて行われた国家プロジェクト。当時のSランク探索者(ダイバー)が多数参加して行われた大規模な攻略作戦・『オペレーション・ゲットバック』だ――」


 ヨル社長は一旦そこで言葉を区切る。

 会議室にいる全員の顔を見回してから再び口を開いた。


「作戦に従事して新宿ダンジョンの中に入った探索者(ダイバー)たちは、()()()()()()()()()()()()()()


()()()()宿()()()――」


 俺がそう呟くと、ヨル社長は大きく首肯した。


「この災禍の責任をとる形で当時の首相は辞任。ダンジョン攻略に莫大な額の公費を投入をしておきながらなんの成果も出なかったことで、政府に対する世間の不信感は一気に高まり、政局は不安定化。長く続いた与党政権崩壊の引き金になった」


 そこまで言うと、ヨル社長は視線を伏せる。


「以来政府は新宿ダンジョンに対する干渉を避けている。第三次新宿特災の発生を恐れているんだ。だから杓子定規に法律要件だけを満たしても、簡単には国から新宿ダンジョン立入の許可は下りないだろう――」


 社長は言葉を継いでいく。


「政治は得てして変化を嫌う。前例を踏襲して現状維持を図ろうとする力学を持つ。一度失敗を経験していたとしたら尚更その力は強く働く。抜本的(ドラスティック)な変化を起こすためには……良くも悪くも、()()()()()()()()()()を形成する必要がある」


 社長が言葉を切ったタイミングで、ユカリさんが納得顔で相槌を打った。

 

「なるほどーダンジョン配信を利用して大衆を煽動しようってわけですね社長は」

 

「そのとおりだユカリ。広く世間に私たちの力と目的を示して共感を得る。そうして得た世論の力を後押しにして国のお偉方の重い腰を上げさせる。新宿ダンジョン探索を認めさせるんだ」


 ヨル社長は口元に不敵な笑みを浮かべた。


「ダンジョン配信が持つ強いコンテンツ力と情報発信力。そのための手段(ツール)としてピッタリだ。そう思わないか?」

「なるほど……」


 新宿ダンジョン攻略とダンジョン配信。

 ようやく俺の中で点と点が一本の線につながった。


「言うは易し、行うは難し。その道のりは平たんではない。だけど……」


 ヨル社長はそう言って俺たち一人ひとりの顔を見渡した。


「天性の魅力で大衆を惹きつけ、絶大な情報発信力を誇る天才インフルエンサー、掛水リンネ――」


「その頭脳でダンジョン探索技術に次々と革新を巻き起こす万能の天才、藤間ユカリ――」


「そして、深層のモンスターを真正面からねじ伏せる最強の探索者(ダイバー)、皆守クロウ」


「この三人の類稀なる才能に加え、ジェスター社の総力を結集すれば、三つの壁を乗り越えて新宿ダンジョンを攻略することは可能だ。私はそう信じている」

 

 ヨル社長は力強くそう断言した。


 

 社長の言葉は不思議だ。

 語られることが、どれだけ荒唐無稽であろうと彼女が口にするだけで現実味を帯びてくる。

 それどころか、簡単に実現できるんじゃないかという期待すら抱いてしまう。

 

 社長の熱が伝播していく。

 

 きっとそれは俺だけじゃなくて、リンネさんもユカリさんも同じだと思われた。

 

 

 それが月夜野ヨルという人間が持つ、カリスマという名のスキルなのだろう。

 


「なにはともあれまずはダンジョン配信だ。世間に我々の実力を見せつけるために、チャンネルのコンテンツ力を上げていこう。今日はそのためのアイデア出しだ。高難易度クエストのクリア、フロアボスの討伐……なんでもいいから思いついたことをどんどん挙げてくれ」


「わかりました」

「はいはーい!」

 

 俺とリンネさんの返事が重なる。ユカリさんも楽しげに口角を上げた。

 こうして中長期的なビジョンを全員が共有したうえで、会議は本格的に動き出した。


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― 新着の感想 ―
無自覚に有名になっていくんじゃなくて、目的のために観衆の支持を得るのに有名人を目指すってのはなかなか見ないから面白いね、ちゃんと着地点のはっきりしてる物語は好き
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