第22話 心を掴む
そのまま中層第10地区に向けて俺とリンネさんはダンジョンを進んでいく。
道中現れるモンスターを俺はサクサクと片付けていった。
「キラーホーネットですね。素早い動きと強力な毒攻撃に注意が必要ですが、身体が普通のスズメバチの10倍と大きいので的として狙うのはある意味普通のハチより簡単だと思います」
ズシュ。
「コカトリスです。石化攻撃をしてくると誤解している探索者もいますがそれは上位種のバジリスクですね。後ろから回り込むとヘビの尾で長レンジ攻撃してくるので正面から叩くのがいいと思います。ちなみに卵が結構美味しいんですよ」
グシャッ。
「タイタンベアですね。中層レベルでは一番危険なモンスターなので気をつけてください。爪による攻撃は勿論、体の大きさを活かした突進攻撃にも注意して下さいね。くれぐれもタイタンベアの前で死んだフリは禁物です。本当に死にます」
バキ。ベキボキメキ……ザシュ。
(配信はテンポが命。雑魚との戦闘みたいな地味で血みどろな絵をずっと垂れ流してたら視聴者が離れるからな)
《ね?簡単でしょう?》
《そんなわけねーだろ》
《ちなみにキラービーとコカトリスはBランク、タイタンベアにいたってはAランクモンスターなんですがそれは》
《俺たちは何を見せられてるんだ……》
《なんかそれっぽい解説してるけど結局やってることすごい速さで近寄って問答無用でぶった斬ってるだけなんだもん》
俺がモンスターを倒すたびにコメント欄が沸き立つ。
これは盛り上がっていると判断していいのだろうか?
《はいはいつよいつよい(笑)正直オッサンがモンスター倒すとこなんて配信の需要ないからあんまり調子に乗らないほうがいいと思いますよ?(笑)》
《やっぱりリンネはソロの方があってると思う。無理して男と組んで深層目指してもリンネ本来の良さが伝わらないし、何より本人がつらいだけだよね。もしリンネが声を上げづらいなら代わりに俺が声上げるよ?》
とはいえやはりガチ恋勢の反感も根強いようだ。
そして、肝心のリンネさんの様子はというと。
「はー、クロウさん……カッコいい……」
(いやいや! 冗談でもそんなファンの感情を逆なでするような反応はよくないと思いますけど!?)
《完全に恋する少女の顔してて草》
《ゼクシィ置いときますね》
《もうやめて!ガチ恋勢のライフはゼロよ!》
《ガチ恋勢顔真っ赤wwwwww》
《ソロでAランクモンスター相手に無双する配信なんて需要の塊でしかないでしょ》
《あいつら勝手にリンネの彼氏面してくるから救えねーよな》
ああ、コメント欄の雰囲気もガチ恋勢とそれを面白がって煽る人たちで対立する感じになってきてる。
この流れはよくない。
「リンネさん。モンスターの気配もなくなりましたし、この辺でフリートークを挟むのはどうですか?」
俺は流れを変えるためにリンネさんに提案した。
フリートークは彼女の配信ではお馴染みのコーナー。
コメントを介して視聴者とコミュニケーションを取っていくことで、ファンとの距離も縮められるし、その日その時の配信の流れを作れる。
なにより頭の回転が速いリンネさんはトーク力もあるため雑談を聴き流しているだけでラジオみたいに面白いのだ。
彼女の配信動画の人気を支えるコンテンツである。
リンネさんは俺の提案に笑顔でうなづいた。
「そうですね! じゃあ、今日はクロウさんのデビューということで、気になること色々質問しちゃいましょー!」
「ええ? 私の質問ですか!?」
またしても予想の斜め上の展開に突き進んでいく。
俺みたいなオッサンに誰も興味なんてないだろうに。
しかし、そんな俺の思惑とは裏腹に――
《オッサンが謎リーマンでおけ?》
《そもそも何者なの?》
《探索者ライセンスは何級はですか?》
《【魔眼バロル】の効果について教えて!》
《なんでククリナイフを使ってるの?》
ドドドドッとすごい勢いで質問コメントが流れていく。
(マジか……!)
慌ててリンネさんに視線を移すも、彼女は期待のまなざしでウンウンとうなづくだけだ。
どうやら俺が直接答えろということらしい。
配信の流れを切ってしまうわけにもいかず、俺はとりあえず重複が目立つ質問をピックアップして順番に答えていくことにした。
俺が謎リーマンなのかという質問について。
「ええと、謎リーマンっていうのはちょっと前にSNSでバズったリンネさんを助けた探索者のことでいいんですよね? でしたら確かに私がその謎リーマンです」
俺の経歴について。
「何者かと問われればただの会社員です。今はジェスター社の社員ですが、以前はダンジョン配信事務所で働いてました。ちなみに探索者ライセンスはE級です。ダンジョンに入るために取ったっきりなので……」
俺の持つスキルに関する質問について。
「《魔眼バロル》は視力を強化する下級技能です。敵と戦うときは主に動体視力を強化して戦ってます。使い勝手は悪くないですが、リンネさんが使うような派手で強力な上級技能に比べたら全然大したことない地味なスキルなんですよ」
俺が使う武器について。
「ククリナイフは私が初心者の頃から愛用してる武器です。ダンジョンの中は入り組んでいたり、狭いところで戦うことが多いので刀身が短めな武器の方が使いやすいんです。それにククリはヘッドが重いので、振るうときに遠心力が加わりやすいんです。つまりスピードが上がれば上がるほどその威力も上がるので、自分のスキルと相性がいいんですよね」
《やっぱりあの謎リーマンだったか》
《こんな人材を手放した前の会社って何考えてるの?》
《あの強さでEランクとかランク制度の意味ないよね》
《視力を強化してるんか。てことはあの超人的な身のこなしは素の実力ってことやね》
《うーんこの人外》
俺の回答に対してツッコミのようなコメントが次々と飛び交う。
「はいはい! 私も! 私も質問がありまーす!」
そんな中、リンネさんが片手をあげてぴょんぴょんと跳ねながらアピールをする。
「なんでしょう? リンネさん?」
「えっと、ハウンドウルフとエンカウントしたとき、相手の姿が見える前から位置がわかってましたよね? あれってどうしてわかったのかなって思って……」
「ああ、それはですね。魔素の揺らぎを視たんです」
「魔素のゆらぎ?」
リンネさんは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「はい。多少の個体差はありますけどダンジョン内で現れるモンスターは濃い魔素をまとっていますよね? その揺らぎを私は視ることができます。なので、ハウンドウルフがどこにいるかも事前に察知することができたというわけです」
「そそそそんなすごいことができるんですか!?」
俺の説明に対してリンネさんは過剰なリアクションをする。
「ええ、まあ……昔から。リンネさんはできないんですか?」
俺にとって魔素の揺らぎを視認できることは普通のことだ。
このワザを使ってダンジョン内のマッピングしたり、事前に罠の存在を察知したり、宝箱の安全性の確認などに役立てている。
(別に特別な能力ではないと思っていたんだけど……)
「無理ですよぉ! 魔素が濃くなったなーってゾワゾワ感を感じることはありますけど……魔素を直接視るなんてとても……」
リンネさんはブンブンと首を振る。
「それともう一個質問です! クロウさんはダンジョンでもスーツですけど、D2スーツは着ないんですか?」
「そうですね。俺は生身でも魔素濃度70パーセントくらいまでなら耐えられますし、それにD2スーツを着ちゃうと、身体の動きに違和感がでちゃって……」
正直、俺はD2スーツがあまり好きじゃない。
確かに耐久力は向上するが、身体能力については自分のイメージと実際の動きのズレが起きるのでかえって動きづらくなってしまうのだ。
だから俺はダンジョンでも基本的に生身だ。
「魔素濃度70パーセントを生身でイケるって……すごすぎません?」
「そうですか? 体質なんでしょうかね?」
「無自覚だ! 無自覚に人外だこの人……!」
俺の返答にリンネさんは驚きを通り越して呆れているみたいだった。
(うーむ、そんなに驚かれるようなことなのかな?)
《皆守クロウ、マジで何者なんだ?》
《言葉だけ聞くと妄想乙だけど、あの戦闘を見た後だと納得せざるをえない……》
《やはり天才か》
《コメ欄にダイバーいたら聞きたいんだけどやっぱクロウの言ってる魔素を直接見るってできないもんなの?》
《俺B級ライセンス持ちのダイバーだけどできるわけない。お前は空気中の酸素を目で視れるか?》
《D2スーツ着ないってのはダイバー的にはどうなの?》
《上層ならまだしも中層以降でスーツなしはフツーに自殺行為やで》
《登山で例えるなら高尾山登る装備でエベレスト登るようなもん》
《うーんこの人外》
こうしてコメントの雰囲気も幾分和やか(?)になった中、俺とリンネさんはズンズンダンジョンの中を進んでいき、本日の目的地である中層10地区に到達した。
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