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第10話 社長と会う

 俺たちを乗せたエレベーターは高層フロアに向けてドンドン上昇していく。電子パネルに表示される階数が1、2、3――と増えていき、10や20を超えても止まらない。

 そのうち、空気圧の急激な変化で耳の奥が詰まったような感覚を味わった。


 やがて、チンッという音とともに扉が開く。


「さあ、着きましたよ。コッチです!」


 到着したのは地上40階の高層階だった。

 そのまま連れられたのは臙脂色(えんじいろ)絨毯(じゅうたん)が敷かれた廊下の突き当たり、『社長室』と書かれたドアの前である。


(いきなり、超大企業の社長と面会とか――落ち着け俺、いつもどおり、平常心で――)


「社長、失礼しまーす! 掛水です! 皆守さんを連れてきましたよー!」


 俺の緊張なんてつゆ知らず、掛水さんはノックもそこそこに社長室のドアを開けた。


「し、失礼します――」


 慌てて、俺も彼女の後を追うように入室する。


 中に入り、まず目に飛び込んできたのは、正面の壁一面を占める大きな一枚窓と、そこから望む青空と(かすみ)かかった高層ビル群のコントラストが美しい東京の大パノラマだった。


「うおぉ……スゲェ景色……」

 

 思わず感嘆の声を上げる俺だったが、すぐに視線を引き戻される。

 なぜならば、窓のやや手前に置かれた両袖机(りょうそでつくえ)(かたわ)らに、とある人物が立っていたからだ。

 

 年齢は50代くらいだろうか? 長身痩躯(ちょうしんそうく)の身体をダブルのスーツで身を包み、白髪の頭髪をオールバックに撫でつけている初老の男性だ。

 口元には穏やかな笑みを浮かべているけれど、その眼差しは周囲を射抜くような鋭い光を放っている。

 その(たたず)まいはなんとも言えない気品と迫力に満ちていた。

 

 間違いない。この人がジェスター社の社長だろう。

 社会人の基本、まずはキチンと挨拶をしなければ。


「あ、あの――私、皆守クロウと申します! 本日はお忙しいところ、このような貴重な機会を設けていただき本当にありがとうございます! 本日はよろしくお願いいたします!」


 そう言って腰を90度に折り曲げて深く一礼する俺。


 しばしの沈黙の後。


「はじめまして、かな。皆守くん。まぁそう硬くならないでくれ。まずは頭を上げてくれるかな」


 頭上から声が降ってきた。

 なんというか、初老の男性にしてはずいぶんとソプラノボイスだ。若い女性のような……もっとハッキリいうと女の子の声そのものというか。


(なんか違和感が――)


 俺は言われるままに顔を上げる。


「さあ、立ち話のままでは申し訳ない。どうかこちらの応接席へ掛けて楽にしてくれたまえ」


 その声に応じて、俺は部屋の一角に置かれる応接スペースに目を移した。

 大理石製の高級そうなローテーブルを挟んで、これまたお高そうな革張りのソファが二脚並んでいる。


 その一方に、()()()()()()が腰掛けていた。


 白雪のような色をした銀髪に、同色をしたくりりと大きな瞳。

 色白の肌と相まって、その面立ちはどことなく西洋人形を思わせる。


(なんだこの子? 社会科見学中の小学生か? にしたってなんで社長室に――? しかも一丁前にスーツなんか着て……)


 俺はその子を(いぶか)しみ目をパチクリとさせる。


(ああ、そっか。もしかしてこの子、社長の娘さんか。それならここにいる理由も分かる――けど。これからビジネスの話をしようってのに子供がいたままでいいのか?)


 とりあえず俺は促されるままに女の子の反対側に座った。

 それに続き掛水さんも隣にちょこんと腰掛ける。


 それから社長がソファにかけると思いきや、彼は直立不動のままで、その代わりに俺の前の女の子がテーブル越しに握手を求めてきた。


「皆守くん、まずはお礼を言わせてほしい。リンネのことを守ってくれて本当にありがとう。心からキミに感謝を」

「は、はぁ……どうも?」


 俺は戸惑いながらも握手に応じる。

 

(この子は掛水さんの知り合いなのか? どういうこと? なんか混乱してきたぞ。この女の子は一体誰なんだ?)


 頭の中を大量のクエスチョンマークで埋め尽くされた俺はこの状況の説明を求めて、すがるような視線を掛水さんに寄せる。

 そんな俺の当惑した様子を見て、掛水さんは口元にイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「ふふふ、皆守さんが混乱してます。そろそろネタばらししてあげたほうがいいんじゃないですか? ()()――」

「え? 社長――?」


 俺は驚きに目を見開いて、握手を交わす女の子の顔を改めて見た。

 

「ふふ、すまない。名乗るのが遅れてしまったね。改めて挨拶をさせてもらおう――」


 そう言って、目の前の少女は大人びた表情で微笑むと、スーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、そこから一枚の名刺をそっと差し出した。


 俺は両手でそれを受け取り目を通す。

 券面には驚くべき情報が記されていた。


 代表取締役――社長――?


 

「私がジェスター社代表取締役社長――月夜野(つきよの)ヨルだ。よろしく、皆守クロウくん」

 


「え? ええ――っ!?」


 俺は思わず大声を上げてしまった。


 


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