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第1話 恋に落ちる


 掛水(かけみず)リンネはその日、恋に落ちた。


 

 

 潜り慣れた渋谷ダンジョン。

 いつもどおりのダンジョン配信。


 体調よし。魔素への順応状況に問題なし。装備、アイテム、共に万全パーフェクト。

 

 ナノデバイスモニター起動。画面テスト開始。

 マップ……OK

 ダンジョンインフォメーション……OK

 コメント一覧……OK。


 最先端技術(ナノデバイス)ってほんとにすごいよね。専用のコンタクトレンズをつけるだけで、色々な情報が視界に直接表示できちゃうんだから。


 D2ダンジョン・ダイバーズスーツ……アクティブ。


 えーと、今日の衣装は……迷宮属性(ダンジョンエレメント)が火だから……うん、明るい雰囲気のこのドレスにきまり!

 

 ダンジョンドローン起動。

 カメラテスト完了、マイク感度良好……今日も撮影よろしくねっ。

 

 チャンネルの配信待機者数、3万人。

 みんな、いつも来てくれてホントにありがとう。


 さあ、配信をはじめるよ!



「みんな、こんにちはー! 掛水リンネです! 今日もダンジョン探索――張り切っていこー!」



《こんりんりーん!》

《こんりんり〜ん!》

《キター☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆》

《今日も楽しみ!》



 ダンチューバーであるリンネにとって、ダンジョン探索は日常である。

 今日もいつもと同じ1日が過ぎていく――はずだった。

 


 ダンジョン中層に差し掛かったタイミングで。


「グオオオオオッ――!」


 周囲の魔素濃度が一気に高まる感覚と同時に、巨大なモンスターが現れた。

 

 それは炎に身を包んだ巨大な怪物だった。

 

「ファイアオーガ!?」

 

 その姿を見てリンネは()()()()()()に思い至る。


《リンネ! ()()()()()()だ!》

《逃げて!》

《ファイアオーガとか下層のバケモンじゃんwオワタwww》

《リンネ逃げて!》


 コメント欄が騒然となる。

 だが、リンネはそれに目を通す余裕などない。


(こっちはソロ……絶対勝てない。逃げなきゃ!)


 そう判断し、死地からの退却を試みる。

 しかし――


「グオオッ!」

「――ッ!」


《うわあ!》

《オイオイオイ死ぬわリンネwww》


 ファイアオーガは巨体に見合わないスピードで距離を詰めてきた。

 

 ゴゥッ――!


 ファイアーガの剛腕が振るわれる。

 リンネはバックステップで直撃を避けるが、そこから放たれる炎をまともに浴びてしまった。


「あっ――! クッ――!」


《マジでヤバイ。誰かリンネちゃんを助けて!》

《こんがり焼けました~^^》

《↑コイツが代わりにタヒればいいのに》


「スキル発動! 《アクアフォーム》!」


 リンネは咄嗟にスキルを発動して全身に水をまとう。

 なんとか火だるまになるのは避けられた。


(だけど、このままじゃ……)


 リンネの実力では、ソロでファイアオーガに太刀打ちできない。

 だからとるべき選択はただ一つ。この場から退却することだけ。


 だけど、それも難しい。

 気が付けばリンネは壁際に追いつめられてしまっていた。


(ダメもとでも……! やらないよりはマシ!)

 

 彼女はファイアオーガに向かって右手人差し指を銃口のように構えた。


「スキル発動! アクアバレット――マシンガン!」


 彼女の指先から無数の水弾が機関銃のように放たれる。

 それらはすべて命中したのだが、相手はまったく意に介さない様子でにじり寄った。


「イャッ! 来ないで……!」


《ああ! ヤダヤダヤダ!》

《伝説の事故配信期待》

《誰か……! 誰でもいいからリンネを助けて……!》


 ダンジョン配信は、人の生死すらも娯楽へ変えてしまう。

 コメント欄が悲喜こもごものカキコミで踊った。


 迫りくる圧倒的な力。

 それを前にして、リンネの脳裏に過去の思い出がよぎる。


 物心つく前に両親を亡くし、施設で過ごした幼少期。

 ダンジョン配信にハマり、自分も探索者(ダイバー)になりたいと強く願った夜のこと。


 初めてダンジョンに潜ったときに覚えた恐怖と興奮。

 ソロでモンスター討伐できたときに味わった達成感。


 今の配信事務所にスカウトされたときの驚き。

 それから今日まで過ごしたダンチューバーとしての充実した日々。


(これってもしかして、走馬灯(そうまとう)ってやつなのかな。死ぬ間際に見るっていう)


 そして最後に脳裏をよぎったのは――



 リンネ。キミはほかの誰にもない、人を惹きつける才能(タレント)を持っている。

 ワタシの夢のため、どうかその力を貸してくれないか。



 忘れもしない。それはリンネが社長と初めて出会った日にかけられた言葉。

 今でも彼女の胸の中で、宝石のようにキラキラと輝いている言葉だった。


(社長――ごめんなさい。リンネはここまでです)


 リンネは諦念(ていねん)ゆえに、瞳を閉じる。


 しかし――



「大丈夫ですか!?」



 予期せずかけられた声を聞き、リンネは瞳を見開く。


 眼の前に広い背中があった。

 ダンジョンに似つかないスーツ姿の男性。リンネのことを守るように、その人が絶望の前に立ちはだかっていた。


《助けにきてくれた!?》

《誰?》

《なんでスーツ?》


「え――? アナタはッ――!?」


《エサが増えたよ。やったねオーガちゃん》

《有名な探索者? 後姿で顔がみえね》

《どんだけベテランでもファイアオーガソロ討伐は不可能だろJK》

《誰でもいいからリンネを助けて!》


「ここは私が引き受けますので今のうちに早く逃げてください!」

「え? で、でも……アナタはッ!?」


 その人は答えを返さずに駆け出す。

 一瞬だけ見えたその人の瞳は。

 ()()()()()()()()()()()()()()


 


 その後は目の前に繰り広げる光景に、リンネはただただ目を奪われた。

 


 

「し、信じられない……! イレギュラーモンスターを……たった一人で……!?」


《ちょwww人間の動きやめてるwwww》

《ワイヤーアクションかな?》

《あっちゅう間に首チョンパwwwうはwwwマジかwww》

《凄すぎでしょ》

《つーかマジで誰だ?》


 リンネの驚きに同調するようにコメント欄も沸き立つ。

 結局その人は、たった一人で敵を瞬殺してしまった。


 戦いを終えたその人に向かって、リンネは話しかけようとする。


(そ、そうだ! まずは配信切らないと――! 勝手に顔とか写したら、迷惑かけちゃうかも)


 そう思いいたり、リンネは慌てて配信を終了した。

 それからおずおずとその人に声をかける。


「あのう――」

「ん?」


 リンネが話しかけると、その人が振り返った。

 初めてまともに顔を見て、目と目が合う。


「――ぁっ」


(あ、アレ? えっとどうしたんだろう。は、早くお礼を言わなきゃいけないのに……!)


 リンネはコミュ力には自信があった。

 持ち前の明るさと人懐っこさで、どんな相手でもあっという間に仲良くなれる。


 だけど、なぜだろう。

 なぜか今は、うまく口が動かない。


「その! 危険なところを助けていただき――ありがとうございました!」


 それでもなんとかお礼の言葉をしぼりだす。

 

 リンネが無事だったことを確認してホッとしたのか、その人は柔らかく微笑んだ。

 さっきまで鬼神のような様子で戦っていた人とは思えないくらい、そのまなざしは優し気だった。


(あ――――)


 リンネの心臓は自分自身で自覚できるくらい、ハッキリと高鳴っていた。


(わたし、な、なんでドキドキしてるの……!? 名前――! 名前を聞かなきゃ――! あとでちゃんとお礼をしなきゃいけないんだから――!)


 だけど、名前を聞く間も無く、その人はその場から立ち去ってしまった。

 一枚の名刺だけをリンネに残して。

 


「株式会社ブラックカラー……皆守(みなもり)クロウ……さん」



 リンネは、自分を窮地から救い出してくれた恩人の名前をそっと呟く。

 胸の高鳴りは未だ続いたままだった。

 


 

 


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