プロローグ:ある男の憂鬱
子供の頃から、勉強も運動も中の下か下の上くらいだった。
要領がいい訳でもないし、人の目を引くほど見た目がいい訳じゃない。
好きだったゲームでさえも、プロになれるような能力はなかった。
自分に自信を持てるものなんて何一つなかった。
それでも、人並みにはなろうと努力はしてきたつもりだった。
なんとか、新卒で入れた会社はブラックだった。
営業職で、客先と現場の板挟みになった。
求人に書いてある時間で始まったことはなく、終わったためしはない。
なのに残業代が出たことはなかった。
時給換算して考えると、最低時給を普通に割っていた。
今は車も空を飛んでいるのに、そんな時代になってもブラック企業は淘汰されないことを思い知った。
結局、身体を壊し、精神を病んで退職した頃、まともな貯蓄はなかった。
それでも、人並になろうと努力をした。
アルバイトをしながら、生活を切り詰め、貯蓄を作った。
目標金額まで貯まれば、免許を取ってドライバーになろうと思った。
多少なりブラックであっても、給料はそれなりに出るだけマシだと思った。
だけど、目標金額まで貯まった頃になって、全車両で自動運転義務化の法案が通ってしまった。
免許など不要になってしまった。
ドライバーになろうと思っても、考えているような給与は出なくなってしまったし、
運送業者は今いる雇用を維持するのにも困っているのに、求人など出るはずもなかった。
自分の経歴で再就職が厳しくなってしまったその時だった。
そんな中、公的にオンラインゲームで生計を立てることを知った。