魔法ネットワーク争奪、領地別チーム対抗バトルロイヤル大会後編
十分に眠れた拳魔たちは、二日目の戦いも強かった。
オソロリアの少女集団にも、こちらの少女たちは容赦がなかった。
映里は顔面を平気で殴るわ、恵美は防具等衣服を刀で切り刻み、戦闘不能状態へと持って行った。
「女の子は顔を殴られると怯むのさ」
「裸にされると流石に戦えないわよね」
拳魔は『恐ろしい子たち』と心底恐怖に震えた。
そんな感じで拳魔のチームは活躍し、オソロリアのチームは次々と減って行った。
午後になる頃には、既に合計十チームを切っていた。
「エロッピアで残ってるのは私たちだけみたいね」
「やはり今年もメリーベンは強敵ですか」
「チョリーナもかなり強いのさ。油断したらやられるのさ」
ここまでは大方の予想通りの結果と言えた。
さてしかし、ここまで減ってくると、各国協力して戦おうと画策してくる。
当然こちらにも協力の要請をしようと、チョリーナの者たちがやってきた。
「すみません。我々はチョリーナ帝国の者です。このままだとメリーベンにやられてしまいます。此処は我々で手を組み、先にメリーベンを倒しませんか!?」
岩の陰から少しだけ頭を出して、こちらに声をかけてきていた。
拳魔は、話をする価値ありと判断し、そちらへ歩み寄ろうとした。
しかしやっぱり拳魔チームの女子二人は容赦がなかった。
映里は相手が喋り終わる前に、既にスタッフを向けて魔法を発動していた。
それに合わせるように恵美は岩の横へと回り込んでいた。
「攻撃してくれと云わんばかりなのさ」
「アホなのよ。どうせ最後は戦うのだから、倒せる時に倒しておかないとね」
拳魔は、『アホはどっちだ?』と疑問に思ったが、それを口には出さなかった。
戦い方も何もあったものではなかった。
そして、こんな戦い方はチームが減ってくると目立つものである。
残り全てのチームが、まずは拳魔たちのチームを倒す事で手を組んできた。
「全員でくるなんて卑怯よ!どうしよう映里ー!」
「どうしようもないのさ。もう玉砕しかないのさ」
泣きつく恵美に対して、潔く死を選ぶ映里だった。
「それにしても、完全に囲まれていますね。まだ距離は遠いですがこのままだと我々は集中砲火を浴びる事になります」
流石にそれはまずかった。
いくら拳魔たちが強くても、此処まで残っている相手も強い。
そんな者たちが一斉に攻撃してきたら、拳魔以外はやられてしまう可能性がある。
もちろん拳魔が本気を出せば、全く全然超問題はなかったのだが、拳魔はなんとか自分が力を使わずに勝つ方法を考えていた。
「こういう時の戦い方は各個撃破だ。包囲網は完成しつつあるが、まだ完全に包囲されたわけじゃない」
どこかのアニメで聞いたようなセリフを、拳魔はビシッと指を突き付けて皆に告げた。
「おおー」
「よくわからないけど、拳魔がなんとかしてくれるのさ」
「何か策があるのですね。やりましょう」
偉そうに言ってみたが、包囲は既に完成し、各個撃破などできる状態ではなかった。
それでももうやるしかなかった。
「とにかく一番弱そうなオソロリアの所から全力攻撃し、時計回りに敵を殲滅していこう。敵もみんな強いし、全力でやっても死にはしないでしょ。映里!頼んだぜ!」
拳魔はこの状況、割と楽しんでいるようだった。
普段のキャラと少し違っていた。
それに対して、映里もノリノリだった。
「任せて欲しいのさ!私の抑えていた力を開放する時がきたのさ!はっはっはー!」
拳魔は此処で一気に召喚できるモンスターを全て召喚していった。
ガーゴイルはもちろん、ゴブリンやオーク、リザードマンまでいた。
「後ろからくるヤツは、こいつらが抑えて多少時間を稼いでくれるはずだ。とにかく前へいくぞ!」
「こうなったらやってやるわ!」
「恵美さんお供します」
恵美と一茶が敵へと突っ込んでいった。
映里は魔法で援護する。
敵ももちろん対抗手段をとってくるが、映里の魔法の威力は半端なかった。
拳魔はもちろん、映里の行く先々で石ころをマジックミサイルで除去っていた。
主人公は地味に戦っていた。
「右へ向かうぞ!」
さてここからは、右手と背後から挟撃されるおそれが出てくる。
とにかく早く敵を倒していかなければならない。
迫りくる敵との距離を測りながら、拳魔はどうするか考えていた。
一旦逃げるのも手だ。
上手く敵を誘い込み幻術で惑わせば同士討ちも狙える。
しかしこのメンバーでできるとは思えなかった。
「仕方ない。同士討ちは無理でも、最後は敵になる相手同士だ。きっとスルーはしないと信じよう」
拳魔は懐に手を入れ、異次元魔法でドラゴンの魔石を一つ取りだした。
「ははは!ドラゴンの魔石には大量の魔力が貯められてある!この魔力を使って大魔法をぶっ放してやるぞぉ!」
拳魔は悪役さながらに鬼畜演技で敵を脅した。
すると敵は少し警戒し、追いかけてくる足も鈍った。
拳魔は少し笑った。
何故なら、拳魔の云った事は嘘であったから。
ドラゴンの魔石は、ただのドラゴンの魔石だった。
そこから魔力を取りだして使っている風を装い、自分の魔法を使えば、拳魔の力ではなく魔石の力で魔法を発動したと周りに思わせられる。
自分が強いと思われないで魔法を使う為に用意していた策だったが、それが脅しとして足止めにも使え、一石二鳥となった事に笑った。
それでも召喚モンスターはやられ、前方の敵を打つ間に後方の敵は近づいてくるわけで、敵が背後から攻撃しようとする所まで近づいていた。
これ以上は無理と、拳魔は強力な魔法を放った。
敵を倒す為のものではなく、動きを封じる為の電撃系魔法だった。
流石に拳魔の魔法は強力で、後方から近付いてきていた者十人ほどが一気に行動不能へと陥っていた。
しかしここで背中を三回叩いている暇はない。
「倒れてる人はあなたの敵でしょ?背中叩いて拘束しておいた方がいいですよー!」
拳魔はそれを仲間割れさせる策として利用した。
目の前に『今なら簡単に倒せる敵』を転がして、今だけのチームメイトの絆を切らせる作戦だった。
拳魔の目論見通り、敵は少し足を止めて今だけのチームメイトを拘束していった。
後方で仲間割れが始まった。
「今はそんな場合じゃないだろ!」
「何言ってんの?お前らも俺たちから見れば敵なんだぜ?ここで今だけ同盟は解散だ!」
「ちょっ!おまっ!」
「そんなあなた方をまとめて屠らせていただきます」
場は一気にバトルロイヤルらしくなっていった。
しかしそんな中で、一際飛び抜けた空気を放つ者がいた。
昨年優勝したメリーベン帝国の代表の男だった。
その者が魔力を放つと、そこにいた全ての者が一瞬足を止めざるを得なかった。
もちろん拳魔にとってはどうって事ない魔力だったが、目立たぬよう皆に合わせて足を止めた。
「そろそろ終わりにしようか。数もいい具合に減ってきた」
男はそう言いながら、手近な者から背中を叩き始めた。
「姉小路さんは動けますか?!」
拳魔が声をかけると、一茶はかろうじて歩けるようだった。
「なんとか‥‥」
「だったら、恵美を抱きしめてあげてください。この魔法は恐怖によって行動を制限させるものです。安心させられると動けるようになります!」
「分かった‥‥」
拳魔の言葉に、一茶は必死に恵美へと歩み寄った。
拳魔はすぐに映里に近づいて抱きしめた。
「ほーら大丈夫でちゅよー」
「私は赤ちゃんじゃないのさ!」
安心以外にもこうして冗談を言って恐怖から逃れる方法もあった。
要は恐怖から意識が解放されれば良かった。
「よし!映里は大丈夫だな」
「本当なのさ。もう大丈夫なのさ」
「あいつは最後にやるとして、この隙に他のヤツら全員拘束しておこう」
拳魔と映里は、動きが封じられ自由に動けない者たちを、素早く拘束していった。
気が付けば拳魔と映里、そして昨年優勝チームの四人だけがこのフィールドに立っていた。
「あれ?恵美と姉小路さんは?」
見ると二人はキスをした状態で拘束されていた。
「どうやら盛り上がっちゃってやられちゃったみたいなのさ」
「うん。あの二人にとっては大勝利な気がする」
婚約者の二人だし、別にキスしようと盛り上がろうと全然かまわない。
それでも拳魔は、なんだかスッキリしない気持ちだった。
「こっちが必死にやってるのに‥‥」
「じゃあ私たちも盛り上がればいいのさ」
「おい!それはおいおい、まあ、よろしくだけど、ちょっと待て!今は敵を倒すぞ!」
あっけらかんととんでもない事をいう映里に動揺する拳魔だったが、なんとか邪念を払って敵に向かい合った。
敵は既にこちらに向かって魔法を放ち、先ほどの恐怖を振りまいた男はこちらに跳んで向かってきた。
拳魔は咄嗟に映里を抱えて横へと跳んだ。
映里が石ころに躓きそうになっていたので、これは仕方がない退避だった。
しかしこの手は悪くなかった。
映里は何も心配する事なく、最大呪文に集中する事ができた。
この杖の効果は、別に一回切りの効果ではない。
魔法同様複数回重ねる事も可能だった。
「おい映里!マジでそんなの撃つのか?!」
「拳魔がいるから安心して魔法を重ねられるのさ」
映里が魔力を重ねている間、拳魔は映里を抱えて敵の攻撃をかわしていた。
拳魔にとっては造作もない事だったが、ギリギリでかわして必死さをアピールしていた。
「さあ!今まで放った事のないレベルの魔法なのさ!誰も生かして返さないのさ!」
「ちょっ!これ殺しちゃ駄目な大会だから!映里落ち着け!」
「もう止められないのさ!」
「止めてー!」
映里が放った魔法は、確実に敵の四人を飲み込んだ。
完全に即死状態だった。
「くっそ!」
拳魔は昨日と同様に、閃光魔法を発動し辺りを光一色に染めた。
素早く死んだ敵の四人を蘇生させた。
そして背中を三回たたいてから、回復魔法を順番にかけていった。
映里は拳魔に抱えられながらグッタリとしていた。
流石にこれだけの魔法を疲れた体で放てば、いかに映里でも体力の限界だった。
さあ後は判定を待つだけだった。
既に閃光は収まり、映里を抱えて立っているのは拳魔だけだった。
「結果を発表します!優勝はモウトイテ領地チームです!」
「おー‥‥」
ただ一人で手を上げて喜びを表現した拳魔だったが、一緒に喜べる仲間がいなかったので、今一盛り上がれなかった。
戦いは終わった。
それからしばらくして、意識を取り戻したメンバーと、軽く喜びを分かち合った。
「本当に優勝するなんて思わなかったわ」
「全くです。流石は映里さんの魔法ですね。それに宝統さんの作戦のおかげです」
「はっはっはー!あんな魔法を撃てただけで私は満足なのさ!」
「僕はただ夢中でやっただけで、皆さんの力の勝利です」
拳魔は、皆が喜んでいるので、これはこれで良かったと思った。
本当はあまり目立ちたくはなかっただろうし、その割に最後はメチャメチャ目立っちゃったけどね。
「モウトイテの町に戻ったら、クラーケンの魔石は拳魔にプレゼントするわね」
「えっ?恵美さん、そんな約束をしたのですか?あの魔石は一族の宝じゃないですか?!」
一茶はその約束に驚いていた。
その慌て方から、クラーケンの魔石が多賀家にとってどれほど大切なものなのかが拳魔には伝わってきた。
だからやっぱり辞退する事にした。
「そんな大切なモノ、やっぱもらえない。家宝は大事にしてよ」
「そんなわけにはいかないわ。もうあの魔石は拳魔の物よ。これは絶対に譲れない」
恵美は頑固だった。
「だったらこうしないか。僕はあの魔石を好きにカットして研究したいだけなんだ。その結果できたものは恵美に上げるよ。二束三文のゴミになる可能性もあるけどね」
「でも‥‥」
恵美はまだ納得していなかった。
そこに横から、突然映里が割って入ってきた。
「恵美ちゃんそうするのさ。拳魔にはこれを上げるのさ」
映里はそう言って、拳魔にいきなりキスをした。
「えっ?」
見てる恵美が少し驚いていた。
当然突然キスされた拳魔はもっと驚いていた。
ヤバい、なんかいい感じになってきた。
拳魔は少しエクスタシーを感じていた。
少しの時が流れた後、二人の唇が離れた。
「恵美ちゃんと一茶さんのキスを見て、拳魔もやりたそうにしてたのさ」
映里は相変わらずあっけらかんとしていたが、少し頬が赤かった。
照れていたが、どういう態度をとっていいか分からず、いつも通りに振る舞っているといった感じだった。
そんな映里を見て、拳魔は『マジやべぇ!キスしたら映里がメッチャ可愛く見えてきたぞ!なんじゃこりゃー!』と思った。
もちろんそんな所は見せないよう、精一杯平静を装っていた。
だけどこちらもやはり頬が少し赤かった。
「分かったわ。できた物は貰う事にする。その代わり‥‥」
恵美はそこまで言ってから一笑すると、拳魔と映里の肩を叩いてから歩き出した。
太陽は少し傾き始めていた。
こうして、なんやかんや起こった大会は幕を閉じた。