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拳魔の魔石研磨の仕事

魔石というのは、モンスターを倒し消滅した時に、ドロップされる石の事である。

それは拳魔曰く『生きた宝石』なのだそうだ。

適当に設定した神の俺でさえも分からない事を、拳魔は研究して発見していた。

魔石には、それぞれ違った特徴があった。

同じモンスターの魔石でも、個体の違いで色や能力が違っていたのだ。

更にその魔石にある力は、その魔石を研磨(カット)する事で変化した。

良くなったり、悪くなったり、全く効果が無くなってしまったり。

拳魔は効果が無くなってしまう事を『魔石の死』と表現していた。

それとは逆に、『魔石の生まれ変わり』という効果も見つけていた。

例えば蛇モンスターの魔石には、雷系の魔法と少しの魔力が付与されている事が多い。

でもこの魔石をカットする事で、その効果が無くなったり、弱くなったり、逆に強くなったり、全く違う炎系の魔法が使えるようになったりもした。

つまりどんな魔石でも、カット次第で色々な事ができるようになるという事だ。

俺はそんな設定した覚えはないけれど、細かい事は自動設定されるからね。

そのおかげというか、それによって拳魔がモウトイテで魔石研磨職人をやる事になったわけだ。

拳魔の店は、十六時開店十九時閉店の三時間営業だ。

って短っ!

どうしてそんなに短くなるかというと、まず朝が苦手なので、魔石研磨を依頼する冒険者が訪れやすい朝八時には開けられない。

冒険者がいなくなれば、基本的には暇な時間が続き、次に客が来るのは夕方以降となる。

そして酒を飲むような時間になれば客は来なくなるので、十九時には店を閉めるわけだ。

まあ客は冒険者だけでもないけれど、拳魔の生き甲斐は研究だから、そっちにより多くの時間を割くのは当然って所か。

その時作った魔石は店頭に並べて売ったりもするし、日本の町で暮らしていた頃に金は十分に蓄えてある。

今更金が欲しくて店を出しているわけでもないし、拳魔にとってはこれで十分だと思えた。


この日も拳魔は十六時に店を開けた。

するとすぐに一人の客がやってきた。

客は割と金を持ってそうな、見た感じ貴族といった感じの男だった。

「すみません。こちらで魔石のカットをしてくれると聞いてやってきたのですが」

貴族っぽい男だが、割と物腰の柔らかい人だった。

「はい。やってます。すべての要望に応えるのは無理ですが、簡単なモノなら大丈夫です」

拳魔は自分がどの程度できる職人なのか、自分でもよく分かっていなかった。

何故なら、比べる対象がほとんど‥‥いや多分この世界にはいないからだ。

宝石を研磨する職人は結構いるのだが、魔石を専門に扱っている人はおそらくいない。

「えっと‥‥簡単なモノというのは、こちらはプロではないので分からないのですが、とにかく綺麗に見えるようにカットしてほしいのです」

「綺麗に、ですか‥‥」

拳魔は別に、綺麗に見せる為にカットしているわけでは無かった。

魔石の能力を最大限に発揮させるか、違った効果を発揮するように変える事が主な目的だった。

綺麗にと言われれば、普通に宝石研磨職人に頼んだ方がいいのではないかと拳魔には思えた。

俺もそう思う。

しかし男は更に一つ付け加えた。

「少し珍しい魔石でして。魔石はほとんどが紫色をしていますが、今日頼みたい魔石は緑が混ざったような色なのです」

その男の言葉に、拳魔は一瞬にして心を惹かれた。

完全にレア魔石であると考えられたからだ。

「見せてください!なんの魔石ですか?!」

拳魔は体を乗り出して目を輝かせた。

本当に魔石が大好きといった感じだった。

「えっと‥‥これなんですが、オーガの魔石と聞いています」

男が差し出してきた魔石を受け取ると、拳魔は夢中でその魔石を解析し始めた。

拳魔の目は、魔石の中にある魔力やその流れ、付与された魔法を見抜く事ができた。

鑑定の目、とでもいったらいいか。

「この魔石は、かなりの魔力を持っていますね。凄い!流れのラインが十本以上存在する。付与されている魔法は‥‥身体強化系みたいですね」

拳魔は魔石を調べながら、その魔石がどういうものなのかを説明していった。

「それでですね。これは一度宝石研磨職人に持って行ったのですが、魔力が邪魔をしてカットできないと言われまして‥‥」

「そうなんですか‥‥」

拳魔は返事を返しつつも、夢中で魔石を鑑定し続けた。

「この魔石だと魔力が強いので、好きにカットするというのは無理ですね。魔石を殺してからなら可能ですが、正直それはもったいないです。僕ならスクエアカット辺りが良いと思います。綺麗に見せるならブリリアンカットでしょうが、この魔石ではやりたくないですね」

拳魔は生前から宝石研磨には多少知識があった。

親の仕事がそういった関係だったからだ。

ただそういった知識からくる言葉は、この世界では通じなかった。

「えっと、スクエアカットですか?ブリリアントカットとか、専門的な言葉はちょっと分からないので説明していただけますか」

拳魔は一通りその魔石を鑑定すると満足したのか、とりあえずそれを男に返した。

そして男の質問に答える為、展示してある魔石の方へ歩いていった。

「この魔石がスクエアカットを施した魔石です。そしてこっちに色々あるのがどれもブリリアントカットですね」

「ほうほう、なるほど」

拳魔の説明に、男は納得したようだった。

「その魔石をブリリアンカットすると、まず魔石を殺す必要がありますので、無駄にカットする部分が出てきます。さらにそれをカットしていきますから、大きさが少し小さくなるでしょう。しかしスクエアカットなら、魔石を殺さず元の形を生かした形でカットできますから、大きな状態で残しておけます」

「先ほどから言っておられますが、魔石を殺すというのはどういう事でしょうか?」

「その魔石にある魔力や付与魔法を失くすという事です。魔石がただの安い宝石になるといった感じでしょうか」

男も拳魔の云っている事がだんだん分かり始めてきた。

つまり、綺麗な安い宝石にカットするのか、それほどではなくとも魔石としてカットするのか、どちらが良いかという話になる。

「この魔石の価値として、珍しい色の綺麗な魔石であるよりも、効果を優先した方が良いと思いますか?」

拳魔はその男の質問に少し考えた。

自分は当然効果がある方を優先したいが、人の価値観は色々である。

付与された身体強化も、着飾る人のアクセサリーに使われるのなら意味はないわけで、使い方次第なところもあるからだ。

拳魔は一つ頷いてから答えた。

「この魔石はレア物ですから、どちらにしても相当な価値はあると思います。ただ、効果を優先して僕に任せてもらえれば、価値としては一番高い所に持って行ける可能性があります。カットはオリジナルカットになりますが」

魔石のカットは、ある程度決まった形でカットする事も可能だけれど、その魔石の効果を最大限まで引き出すのなら、当然その魔石にあったカットが望ましかった。

それで綺麗に見えるかどうかはその魔石にもよるが、今回はある程度良い物ができると拳魔は考えていた。

「ちなみにその出来上がりはどんなアクセサリーを考えておられますか?」

ただの魔石としておくことも可能だけれど、効果を期待するのなら、当然身に付けなければならない。

状態魔法か発動魔法かによっても変わってくるが、その辺りでも価値は変わってくるのだ。

一般的には指輪やペンダントが人気で、髪飾り、ブローチ、腕輪などの人気も高い。

しかしそれ以外になってくると、価値は落ちてくる。

ピアスやイヤリングも人気だが、二つそろえなければならない事から、カットしたあまり部分で作るか、元々小さなモノで作るのが当たり前だった。

「この大きさならペンダントでいかがでしょうか。余り部分でピアスかイヤリング、後は指輪を二つほど作れるかと思います。そちらは魔力も効果も無いただのアクセサリーですけれどね」

拳魔の言葉を聞いて、男は決心した。

「分かりました。お願いできますか」

拳魔は心の中でガッツポーズしているのが分かるくらい、嬉しそうな笑顔をした。

やったね拳魔。

神である俺にとって、この世界のたった一人の生き残りである拳魔は、どうも我が子のように思えてしまうのだよね。

拳魔が喜ぶ姿は俺も嬉しかった。

「では、契約ですが、万一の時は相場で引き取らせてもらう事になるのですが、相場が分からないので、二千万円くらいでどうでしょうか」

「別の店でもそれくらいを示されていた。問題ありません」

拳魔は少しホッとした。

正直拳魔にはそれ以上の価値があるものに見えていたからだ。

一億と言われても実は受けるつもりだった。

「加工費は、プラチナ、ゴールド、シルバーの加工だと相場通りになります。うちのオリジナル『ピンクゴールド』ならゴールドの倍の値段になります」

拳魔の云うピンクゴールドは、前世の世界にあったピンクゴールドとは違う。

この世界に存在する特別な金属で、魔法によってサイズを合わせたり、強度を高めたりできる特別なものだった。

でもそんな事を知る者はこの世界にはいない。

何故なら、魔法で処理しない間は、ただの岩盤のように見える金属だからだ。

それを魔法で精錬して、初めてピンクゴールドとなる。

拳魔はアクセサリーを作るにあたり、その辺りも研究して見つけていた。

「ほう。オリジナルのピンクゴールドですか」

「こちらの商品がそれで作られた指輪になります。一度お試しになりますか?」

拳魔はショーケースのロックを魔法で外し、その指輪を取りだして差し出した。

それを男は手に取り、右手中指へと通す。

少し大きいと思われたその指輪は、ピッタリのサイズへと変わった。

「これは凄い。外す時は‥‥おお。スムーズに外せました」

「自分でなら外せますが、他人には外せない仕様になっています」

「そんな事もできるのか‥‥」

男にはかなり気に入ってもらえたようで、メインのペンダントはプラチナ仕様、余りで作る指輪二つとイヤリング一セットはピンクゴールドに決まった。

「では料金は受け取りの際に。本当に明日でよろしいのですか?」

「はい。今晩中には仕上げますので」

拳魔はそういったが、魔法を使えばすぐに作れるものだった。

魔石本体のカットは、魔力の流れを確認しながら時間をかけてやる必要はあったが、他はどれも一瞬でできるのだ。

全く問題はなかった。

「では明日のこの時間に」

「はい、お任せください」

男を見送った後、拳魔は早く研磨処理したくてウズウズしていた。

残り二時間の営業時間がとても長く感じられていたに違いなかった。

拳魔は閉店を十五分前倒して、店の地下に魔法で作った工房へとすぐに入って行った。

預かっている魔石を取りだす。

「やっぱいいなぁ~」

拳魔はレアな魔石をしばらく眺めていた。

「よし!やるぞ!」

拳魔はまず、要らない部分を魔法で一気に切り落とした。

切り落としたものは、後で指輪やイヤリングになるので取っておく。

それ以外は自分のモノにする予定なので、それも大切にとっておいた。

「さてここからが重要‥‥」

魔力の流れを修正するか、それともそのままにするか。

よりスムーズに流れる方が、魔力が効率的に使われるので効果はアップする。

しかし流れを変える事で、効果自体が変化する事もある。

今回は『より価値が高くなる』というのが条件なので、魔力の流れを修正する方でカットする事になる。

カットする角度を決め、慎重に魔力効率を高めていった。

「いいぞいいぞ!この魔石ヤバい」

詰まって流れ出なかった魔力が一気に噴き出してくるような感覚を味わいながら、拳魔は絶頂エクスタシーを楽しんでいた。

拳魔は、この瞬間の為に魔石研磨職人になったといっていいだろう。

さてしかし、楽しい時間もいつかは終わりを迎える。

「ここまでか‥‥これ以上やると、見た目に問題が出てくるな」

宝石は、上下左右が概ね対称でなければ美しくない。

裏に関しては見えないので構わない気もするが、これが依頼された物である以上、これ以上は止めておく事にした。

拳魔は残念そうだったが、表情はどちらかというと満足感の方が強いように見えた。

後は欠片をアクセサリーにして、作業は終わった。

所要時間は十五分ほどだった。


次の日、男は出来上がったものを取りに来ていた。

昨日書いてもらった契約書には『姉小路一茶(アネコウジイッサ)』と書かれていたので、多分これがこの男の名前であろうと拳魔は理解していた。

姉小路家は、この地の領主の側近であり、自身も貴族の剣士家系であった。

もちろん拳魔はそんな事は知らないし、知る必要があるとも思っていなかった。

「かなり良くできたと思います。身体強化の効果は、『攻撃力強化』『防御力強化』以外に『毒耐性』『炎耐性』『麻痺耐性』が付与され、魔力値も大幅に上がりましたので、冒険者にも良い物になったと思います」

『本当はもっとやれたのに』という思いは、拳魔の心の中にはあった。

でもこれは仕事だからと拳魔は割り切っていた。

いや、割り切ろうとしていた。

「カットも綺麗で宝石としての輝きも申し分ない。しかも効果も追加されましたか」

でもやはり一応言ってはおきたかった。

「本当はもう少しやれるんですが、これ以上カットすると、形が(イビツ)になってしまいます。裏だけでもやろうかと思いましたが、魔石を外す可能性等考え、此処でとどめておきました」

本当はもっとやりたい。

やらせて欲しいい。

そういう思いを拳魔は伝えたかった。

伝えようと目で訴えていた。

しかしその思いは届かなかった。

届いていたかもしれないが、それが受け入れられる事はなかった。

「これで十分ですよ。料金以上の働きはしてもらいました。カードで支払いたいのですができますか?」

この世界では、お金のやり取りに二種類の方法があった。

一つは現金取引。

もう一つはカードによる取引だ。

ギルドカードや一般住民カードは、銀行と紐づけされていて、それを使う事で現金の受け渡しができる。

まず支払う側がカードにある数字を操作し、支払額を設定する。

両者カードに魔力を送り、支払い側はカードの裏を、受け取り側はカードの表面を接触させる。

そうする事で瞬時に支払いができるようになっていた。

「はい、確かに受け取りました。ありがとうございます」

「こちらこそいい仕事をしてもらえました。また利用させてもらいます」

本音を言うと、拳魔は自由にできないカットを、あまりやりたくないと感じてきていた。

カット中テンションは上がったが、その後の空虚な気持ちがスッキリしなかった。

しばらくは仕事がこない事を願う拳魔だった。

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