目立ちたくないから魔石研磨職人始めます
俺は神である。
名前を天之御中主といい、日本人の転生者を見守るのが仕事である。
ある時、後輩の天照くんに突然頼まれてしまった。
「すみません先輩!ちょっと一年ほど宇宙一周旅行に出かけるんで、私の仕事、代わりにお願いできませんかぁ?」
天照くんのやっていた仕事は、日本人が死んだ後、天国に行くのか転生させるのかを決めて、転生させる場合には転生先を用意する事だった。
これがまた面倒な仕事で、転生先はある程度死者の要望を聞いてやる必要があった。
俺は必要ないと思うんだよ?
死んだらみんな天国でいいと思っているし、要望なんて聞くの一々面倒だからね。
でも天照のヤロー‥‥いや、女神だからヤローというのはおかしいけれど、あえて言わせてもらう。
天照のヤローは日本人を愛しているから、そんな面倒な仕事をあえてやってきたわけよ。
それなのに『なんか疲れちゃったー』とか言って、仕事を俺に押し付けて、返事も聞かずに宇宙旅行に行っちまいやがった。
残された俺はどうしたらいいの?
死者は毎日いるわけだし、このまま放置したら日本人の魂が世界に溢れちゃうわけよ。
そしたらお化け騒動とか騒ぎになるし、結局俺が処理するしかなくなったわけ。
でもさ、日本人の死者って年間百万人を超えるんだよ。
一日二千五百人以上対応しないといけないわけ。
その内転生を希望する者は年々増えててね、約五パーセント、つまり年間五万人も転生させる必要があるの。
五万もの転生先を用意するって、そんなの俺でも無理っていうか、そもそも見守る仕事もあるんだよ。
ただ見てるだけだけどさ、これ割と大変なんよ?
天照のヤローは一々要望を聞いて、ステータスはどうだの!職業はどうだの!!世界観はどうだの!!!
魔法の条件は?!モンスターは?!!
細部までちゃんと決めて、面倒すぎてできるわけねーだろ!!!!!
だから僕ちん、もう嫌になっちゃったわけ。
ステータスなんて、みんなチート魔力持ちでいいじゃねぇか。
職業は好きにしとけ。
世界はどうせRPGなファンタジー世界が好みなんでしょ?
魔法は何でもありでいいじゃねぇか。
モンスターもいないと刺激がないだろ?
そんな転生先を一つ創って、後はみんな同じ世界に行けばいいよ。
転生者はその世界に一人だけだとか天照ルール、そんなの知ったこっちゃない。
そんなわけで俺は一年間、約五万人の日本人をその世界へと転生させた。
転生した日本人は、最初はファンタジーな世界で冒険を始めたわ。
みんな生き生きとしていてな、僕ちん良い事しちゃったなって思ってたわけ。
でもみんな次第に飽きてきたのか、冒険者を辞めて日本人の転生者同士集まって暮らすようになっていった。
日本人の同調圧力もあってさ、気が付いたらみんなで大陸の中心に町をつくってさ、日本国の建国を宣言するに至るわけよ。
ただこの国をつくった場所が問題でさ、この大陸に元々あった四つの帝国が丁度交わる所でさ、全ての帝国から疎まれる存在になっていった。
とはいえ日本人転生者は皆チート魔力持ちだからさ、どこの帝国も手が出せないわけ。
日本人も穏やかな国民性を持っているからさ、他国をどうこうしようというのはなかったけれど、他とは一線を画して生きるようになっていったのよ。
半分鎖国みたいな感じかな。
日本人は自分たちの世界の中で、魔法を使って携帯電話とかパソコンとかテレビとか、そういうのをドンドン作って快適に生きるようになった。
不老の薬なんかも作っちゃって、『日本国は永久に不滅です!』みたいなノリがこの大陸中に広がって行った。
そこまでならまだ他の帝国に住む人々も我慢できたのかもしれない。
でも日本人は次第に、自分たちは何もせず、他国の人に仕事をさせて楽するようになっていった。
これで他国の人たちはブチギレて、密かに日本打倒計画が進められる事になっちまった。
やっぱね、自分たちはしんどい仕事しているのに、他人が悠々自適な生活をしていたらむかつくのが人間なんだよね。
他の四帝国は、集められる全ての魔法使いの力を結集させて、日本の町を全て包むように『魔力無効化の結界』を張り一気に攻めてきた。
魔力の使えない日本人はただの人、なすすべなく全員が殺される事になった。
まあそういう事もあるよね。
ちょっと残念だったけど、仕方ないわ。
俺はこの世界を静かに閉じようと思った。
でもちょっと待て。
一人だけ日本人が生き残っていたのだ。
あまり日本人の同調圧力に流されず、度々町を出てはやりたい事をやっていたヤツが。
名前は宝統拳魔で歳は十五歳。
モンスターを倒した時に手に入る、魔石にめっぽう興味を持っているヤツだった。
ぶっちゃけ俺自身、その辺りの設定は適当に世界を創っちゃったから、何が楽しいのかも分からないけれど、とにかく魔石研究に没頭していた。
それが幸いして、日本打倒計画からただ一人逃れて、この世界に生き残ったわけよ。
そうすると、俺は転生者を見守るのが仕事だし、こういう特別なヤツには興味も湧くわけでさ、それからずっと拳魔の動向を追う事になった。
拳魔が町に戻ってきた時には、町は大勢の魔法使いの共同魔法によって、完全に焼け野原にされていた。
核ミサイルが落とされた感じだな。
拳魔はそれを見て、ショックで‥‥いや、見る限りショックはなさそうな感じで、特に何を思うわけでもなく、西へ向かって歩き始めた。
拳魔は日本人だから、当然不老の薬によって歳はとらないし、食事をしなくても生きていける。
それでももちろん食べる事はできるし、完全チート魔力持ちだから、トイレに行く必要もない。
物は全て異次元に収納できる能力もあったし、空だって飛べた。
何でもできる理想のチート人間だと思ってもらえれば大丈夫だろう。
そんな拳魔は、空も飛ばず、魔力で速く走る事もなく、ただただ歩いて西へ向かった。
西遊記かっての。
歩いているのは森の中とか荒野とか関係なく歩くもんだから、当然モンスターもいっぱい出てくるんだけど、拳魔は強いから全部倒して魔石を回収しながら進んでいった。
それでたどり着いたのは西の端、この辺りは『エロッピア』帝国領で、ナゴナゴ村っていうのどかな所だった。
ちなみにこの大陸は四つの帝国が支配していて、北西に『エロッピア』南西に『チョイーナ』北東に『オソロリア』南東に『メリーベン』ね。
名前は俺が適当に決めてるから、センスがないとか否定するなよ。
これはこれで分かりやすいんだから。
それでナゴナゴ村はメッチャ和む村だから、住んでる人も皆良い人でさ、拳魔もすぐに受け入れられるわけよ。
もちろん拳魔は、自分が日本人だってバレるとまずいかもしれないって意識はあったから、チートな魔力や強さは隠していたけど、それでも他に普通じゃない能力は持っていたから、それで次第に村になくてはならない存在になっていった。
一年もすればナゴナゴ村のみんなとは家族同然になっていたわけだけど、村のみんなは拳魔のその能力をこの村だけに埋もれさせておくには惜しいと考えるようになった。
そしてある日‥‥
「拳魔。お前は町にでてその技術をもっと生かした方がええ」
「そうそう。誰にだってできる事じゃないんだから、モウトイテの町で仕事したらどうかね?」
「でも、僕はこの村にいっぱいお世話になって、この村の人たちの役に立てればそれでいいかなって」
親代わりになってくれていたおやっさんとおかみさんが、拳魔に町に出るよう勧めた。
でも拳魔はそんな気持ちにはなれなかった。
何故なら今も十分幸せだったからだ。
やりたい魔石の研究はできるし、それによってみんなにも喜んでもらえる。
拳魔はそれで良かったんだ。
でも能力のある者は、能力相応の働きをするのが当然だという考えもある。
拳魔はこの後も説得され、モウトイテの町に出る決心をした。
こうして拳魔は、次の週には町で『魔石研磨職人』として働きだすのだった。