第9話 「洞窟&ダンジョン攻略」 【5/21 12:12 新規投稿】
ダンジョン攻略までがあまりにも遅すぎたため、5/21に第9話を大幅に修正して割り込み投稿させていただきました。
ダンジョン攻略当日。流儀なのかなんなのか、ステインは驚くほど無口だった。話しかければ普通に答えてくれるし、ダンジョン攻略に関連する話題ならしっかり答えてもくれたが、逆に俺とルティアが普段しているような雑談を振ってもほとんど会話が続かなかった。
ステインを放置して二人だけで会話するのはさすがに気まずかったので、そのうち自然と誰も喋らなくなった。陣形など、攻略に必要そうなものの打ち合わせは昨日のうちに済んでいるが、こんな調子で大丈夫だろうか。
「……いよいよだな」
入り口の前で一旦立ち止まる。洞窟の中は薄暗く、奥がどうなっているのかうかがうことはできなかった。
ランタンにマッチで火をつけ、タンクのステインが先頭、その後ろに俺、最後尾にルティアの順で列になって入っていく。
「ん、なんだ? 天井が……」
入って早々、壁や地面は照らせるのに、天井だけはランタンを向けても暗いままなことに気がついた。
「イシュ、お前の『光操作』の出番だ」
前を歩くステインがなぜか声をひそめてつぶやく。
「わかった」
どうせなら新しく習得したアクティブスキルを試そう。俺はランタンを高く掲げ、詠唱した。
「光放出!」
途端にランタンの光が強くなり、鋭い刃のように天井に向けて放たれた。
『キィ!?』『キィキィ!!』
「うわっ!」
暗い天井の正体は低級鳥モンスターのコーリモの群れだった。天井を黒く埋め尽くすように張り付いていたのである。コーリモの群れは慌てた様子であちこちを飛び回ったあと、急降下してばたばたと地面に落ちていく。
「どうなってるんだ?」
「コーリモは闇属性、つまり光に弱い。イシュの『光操作』で習得したスキルを喰らって弱ったんだ」
「そういうことか……」
「やるじゃないイシュ!」
自分のことのように喜ぶルティアを見ていると、俺まで嬉しくなってしまった。
「そうか、光放出、結構使えそうだな」
今までの『光操作』は敵味方構わず視界を奪ってしまう実用性皆無なスキルだったが、この光放出は特定の方向にだけ光が放出されるようで、その上与えるダメージも『光操作』より大きいようだ。
「あ、そういえば」
ステータスウィンドウから残りのMPを確認する。天井の割と広範囲を照らしたにも関わらず、ゲージはまったく減っていなかった。パッシブスキル、軽負荷のおかげで消費量を大幅に削減できたようだ。
「なんだか楽勝な気がしてきたわ! この調子でどんどん行きましょ?」
「いや、このダンジョンには土属性のウルワイドもいる。そっちは光放出だけでは倒せないだろう。油断するな」
あくまでも慎重なステインを先頭に、俺たちは奥へと進んでいった。
「ーーーー光放出!!」
ランタンを向けて光を放つ。下級犬モンスターである三体のウルワイドは目を痛めてのたうち回った。
「光安定!」
追い打ちをかけるように、もう一つのアクティブスキル光安定で放たれる光の量を固定。これで光放出の強烈な光を一定時間維持できる。ウルワイドは止まない光の雨に苦しみ、身動きを取ることができない。
「今だルティア!」
「任せて。水の球体!」
ルティアが唱えると、杖の先から現れた水滴がウルワイドに向かって放たれる。水滴はどんどん膨れ上がっていき、最後には大きな塊となってウルワイドにぶつかる。
『キャイン!?』
断末魔を上げて倒れ伏すウルワイド。はじけた大量の水飛沫が両隣のウルワイドにぶつかり、残る二体も倒れた。
「やったわ!」
「うまいじゃないかルティア」
「楽勝よ!」
先頭を歩くステインが攻撃を引き受け、中衛の俺が光放出でモンスターの動きを止め、ルティアの魔法で倒す。このやり方に慣れるころには、早くもダンジョンの終盤に差し掛かっていた。
「かなり奥まで来たな。そろそろボスモンスターが現れるころだ、一旦休憩しよう」
「わかったわ」
駄々をこねずに従ったあたり、ルティアも休憩が必要だと感じているのだろう。……なにせルティアは魔法を撃ちまくってたからな。
三人で洞窟の小ぶりな岩に腰掛け、俺とルティアはMPポーションを、ステインはHPポーションを飲んで各々ゲージを回復する。
「……はぁ、生き返るわぁ」
「ははっ、おっさんみたいだな」
俺がツッコむと、ルティアはほほを膨らませて不満そうにする。
「なによ、イシュだってさっき座るときどっこいっしょぉって言ってたじゃない!」
「まぁな」
変なところでむきになるお嬢様だな……
「そんなことより、ボスモンスターについてだが、HPが高い分、おそらくさっきまでのようにはいかない。俺やイシュも攻撃することになる。とくに俺の両手斧はリーチが長い、味方の攻撃に巻き込まれないよう注意しよう」
「わかった」
「私の場合、さっきまでより後ろの方から魔法を撃った方がいいのかしら?」
「いや、それだとボスモンスターの手下のモンスターからの攻撃を受ける可能性がある。今まで通りの位置どりで、俺が斧を振るうときだけ離れるようにしてくれ」
「わかったわ」
俺もルティアもここまでまったく苦戦していないため浮き足立ってしまっているが、ステインはここでも冷静だった。傭兵として、雇い主たちを無事に帰すことを強く意識しているようだ。
「そろそろ行くか」
十五分ほどの休憩を終え、ステインの一声で俺たちは立ち上がる。まだ疲れは完全には抜けていなかったが、さっきまでより断然動けそうだ。
「あぁ、せっかくここまで来たんだ、ボスモンスターを討伐しよう」
「そうね。どんなやつだか知らないけど、私の魔法で蹴散らしてやるわ!」
気合充分なルティアの声が、薄暗い洞窟の中に響いた。