表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/22

第20話 「エリザベス&イレーニ」

 エリザベスは、レッドカーペットの敷かれた城内を丈の長いワンピースの裾を持ち上げながら走り回っていた。

「イレーニ?イレーニ?どこにいるの!?」

 エリザベスが声を張り上げると、体格の良い筋骨隆々な男が広間に入ってくる。着込んだタキシードは汗ばんでいて、赤い蝶ネクタイも含めて驚くほど似合っていない。

「んだよエリザベス。昼間っから騒々しい」

「お嬢様とお呼びなさいっ!? いつも言っているでしょ? ったく、これだからイレーニは」

 イレーニと呼ばれたその大男は、エリザベスの執事だった。


「はいはい、わかったわかった。で? 今度はどうした?」

「それよ! アンタ、イシュ・カーナードって男覚えてる?」

「あぁん? 誰だそいつぁ。お前のわがままのせいでパーティの男どもが入れ替わりすぎて誰が誰だかわかんねぇよ」

「悪かったわねっ。それより今はイシュ・カーナードよ! 今すぐここに呼びつけなさい?」

「だから誰だよそのアシュラなんとかって」

 イレーニはハゲかかった黒髪を乱雑に掻きむしって苛立ちを見せる。


「イシュ・カーナードよイシュ・カーナードッ!! ほら、あの没落した元貴族の短剣使い」

「あぁん? あぁ、そいやいたなそんなやつ。だが、確か役に立たなくて追い出したはずだろ? 今さら呼び出してどうすんだよ」


 イレーニがハンカチで顔の汗を拭きながら尋ねると、エリザベスは年相応に膨らんだ胸を張る。

「決まってるでしょ? もう一度婚約するのよっ!」

「はぁ!? 前からおかしな奴だとは思ってたが、お前とうとうぶっ壊れたか」

「失礼ねっ! ……いい? よく聞きなさい! イシュ・カーナードは侯爵の娘の護衛に任命されるそうよ! 今婚約してるバラハとかいう太っちょよりよっぽどいいと思うわない?」

「はぁ……」

 隠そうともせず大きなため息をつくイレーニに、エリザベスは太い眉をひそめる。

「何よ?」

「お前なぁ、そう言って何人の男を取っ替えたと思ってんだ。今度男爵様に報告してみろ? 俺のクビが飛ぶ。頼むから、今の男で我慢してくれないか? バラハは剣士としてもタンクとしても腕が立つ。なにも正攻法で権力争いしなくても、そいつを四人目のパーティメンバーにして、ダンジョン攻略で金を稼げばいいじゃねぇか」

 イレーニの言う通り、この街ではダンジョン攻略によって得た金やアイテムを国に献上することで権力や地位を手にする者がそれなりに多いのだ。


「はぁ!? イシュ・カーナードと婚約すれば、ダンジョンなんか行かなくたって富も権力も名声も、全部手に入るかもしれないでしょ!? あんたバカ?」

 そう。それこそがエリザベスの本音だった。要するに彼女は泥臭いダンジョン攻略に命をかけるのが嫌なのである。


「エリザベス、お前まさかダンジョン攻略に行きたくなくてパーティメンバーに難癖つけては入れ替えてたのか?」

「そうよ? パーティメンバーを探してる間さぼれるじゃない? 今さら気づいたの?」

 開き直るエリザベスに、イレーニは嘆息するばかりだ。

「まぁなんにせよ、もうよっぽどのことがない限り婚約破棄なんか無理だ。ダンジョン攻略に行きたくないなら、自分より優秀なやつをうまく味方に引き込むことだな」

「……なるほど? その手があったわね!」

「お、おい、まさか……」

 口を滑らせたばかりに、イレーニはまたエリザベスのわがままに付き合わされる予感がして、冷や汗をかくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ