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第10話 「ボスモンスター&宝箱」 【5/21 17:41 新規投稿】

まったく新しいダンジョン攻略回です。5/21に割り込み投稿しました。

 緩やかにカーブした洞窟の中を進んでいくと、暗闇の中から古ぼけた両開きの扉が現れた。扉は木製で、年季が入ってささくれ立っている。

 扉の両脇の壁には松明を刺すための金具が打ち付けられていたが、松明は見当たらなかった。

「この先が最深部ってことか?」

「おそらくそうだ。二人とも、準備はいいな?」

 俺とルティアがうなずくと、ステインが両開きの扉を開けた。

 中には円形の空間が広がっていて、ランタンの光が差し込むと同時に壁沿いに設置された松明に火が灯った。

 その明かりによって、中にいたボスモンスターが照らし出される。

「大型のウルワイドか?」

 そこにいたのは通常より二回り以上大きいウルワイドで、二体のウルワイドを従えて待ち構えていた。ボスモンスターのステータスウィンドウには『番犬 ウルワイド Lv.8』とある。

「そうみたいね。Lv.8なら簡単だわ!」

「一応ボスモンスターだ。攻撃は俺が引き受ける。ルティアは後衛のままでいてくれ」

 ここでも冷静なステインの指示が飛び、ルティアは少し不満げな表情を浮かべて一歩下がった。

「来るぞ!!」

 ステインの声が反響する。番犬ウルワイドの両サイドにいたウルワイドが口を左右に開いて首を振りながら突進してきた。

「げっ、口が横に開くのか。気持ち悪いな」

 さっきまでほとんど瞬殺だったので気がつかなかった。

「イシュ、右のウルワイドを頼む」

「了解っ」

「うぉぉっ!!」

 ステインが大声を上げると二匹のウルワイドの動きが鈍った。ステインのスキルのようだ。

 俺はひるむ右のウルワイドの側頭部を短剣で切りつけ、ステインは左のウルワイドを両手斧で殴り飛ばす。

「水の球体(ウォータースフィア)!」

 手下の二匹が傷ついている隙に、ルティアの水魔法が番犬ウルワイドに飛ぶ。

『グァルルッ!!』

 ルティアの放った水球を顔面に喰らい、番犬ウルワイドが逆上した。

『ワオオォォーーーーォォンッッ!!』

 番犬ウルワイドが雄叫びを上げると、手下のウルワイドを半透明の赤い煙が包んだ。

「おそらく攻撃上昇のバフだ。イシュ、かましてやれっ!」

光放出(ライトブラスト)!!」

 数歩下がってランタンを構え、光魔法を炸裂させる。強烈な光が瞬間的に広がり、番犬ウルワイドとその手下を飲み込んだ。

「ステイン、今だ!」

「おおぉぉっ!!」

 光が晴れる瞬間は俺が一番わかっている。俺の言葉を信じ、両手斧を振りかぶりながらステインが走った。ほとんど同時に光が晴れ、目がくらんで混乱状態の手下ウルワイド二体をステインの両手斧が強襲する。

『ギャン!』『ギャウン!?』

 従えていた二体の断末魔を聞き、番犬ウルワイドが激怒する。

『バウウゥゥーーーーンンッ!!』

「水の(ウォータースパイク)!」

 引き裂けそうなほど開いた左右に広がる口目がけ、ルティアが水魔法を詠唱。杖から打ち出された水の塊は鋭い針状に変化し、番犬ウルワイドの口の中に命中した。

『ヴァウン……!』

 相当応えたらしく、番犬ウルワイドは弱々しく吠えてから横たわった。同時に、番犬ウルワイドのステータスウィンドウが消える。討伐成功だ。

「やった、倒したわ!」

「やったな!」

 飛び上がって喜ぶ俺たちを見て、ステインも少し笑っていた。

「二人ともよくやったな。あとは宝箱の中身を回収すれば、このダンジョンは攻略完了だ」

「……あぁ、そうだったっけ」

 すっかり忘れていた。ステインが教えてくれなければあやうくこのまま帰ってしまうところだった。

「宝箱?」

「今回のダンジョンはボスモンスターのドロップアイテムとは別に、最深部に宝箱があるんだよ」

「だから”番犬”ってついていたの?」

「多分な。……俺もよく知らないけど。ほら、あれだよ」

 番犬ウルワイドが倒れたことで、その奥に置かれた木製の宝箱が見えた。松明の火に照らされて闇の中にぼんやりと浮かんでいる。

「へぇ。……なんだか屋敷の宝箱よりボロいわね」

「そりゃあな。ルティアが開けていいよ」

「本当!?」

 花が咲くように笑顔を浮かべるルティアに、ドキッとした。

「あ、あぁ、俺もステインも傭兵だしな」

 顔に出ているかもしれない。俺はさりげなくルティアから視線を外した。

「そう? じゃ、お言葉に甘えて」

 とことこと宝箱に走り寄り、ルティアは重そうにフタを開ける。

「よいっ、しょ!」

 ぎぃと古めかしい音を立てて箱が開く。

「あら? なにこれ」

 後ろから覗き込むと、中には綿の塊が入っていた。

「お、多分それはスキルシードだな。発芽しないように綿にくるんであるんだろ」

「スキルシード? それって楕円形の木の実じゃなかったかしら」

 ルティアが不思議そうに綿を広げると、親指の爪くらいの大きさの種が出てきた。

「ほらやっぱり。スキルシードだ」

「こんな小ぶりだったかしら」

「ルティアが言ってるのはスキルの実のことじゃないか? スキルシードが成長するとスキルの実が成るんだよ」

「……ふーん」

 ダンジョンのお宝を見つけたというのに反応が薄いルティア。ステインも戦闘中以外基本無口なので、フォローを入れてくれる気配はない。

「ルティアにはあんまり馴染みがないかもしれないけど、スキルシードってこのレベルのダンジョンにしては結構レアアイテムなんだぜ? レベルアップ以外でスキルポイントを増やせる数少ない手段なわけだし」

「……そう。成長するのにどれくらいかかるの? 十分くらい?」

 言いながらルティアは手にしたスキルシードを近くの地面にぐりぐり突き刺して植えようとする。

「いやなにしてんだよ貴重なスキルシードを!!」

 慌てて奪い取り、土がかかってしまった部分を服で拭いて綺麗にする。

「なによ、いいじゃない別に」

 口を尖らせるルティアをぶん殴りたくなる衝動を抑え、俺は丁寧に説明する。

「いいか? スキルシードは適切な生育環境を保ちつつ毎日適量の水を与えて、三週間くらいかけてやっと身を結ぶんだ」

「三週間? そんなにかかるの? なら商人からスキルの実を取り寄せた方が早いわね」

 ルティアのお嬢様発言にキレそうになり、俺は自分の太ももを叩いて堪える。

「ルティアお嬢様にはそうかもしれませんが、一般庶民の俺たちには希少なんだよっ!!」

 いや、やっぱり無理だった。我慢にも限界というものがある。


 その後口論になりかけたところをステインが仲裁に入ってくれてなんとかその場は収まり、スキルシードは俺がもらえることになった。

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