第1話 「追放&婚約破棄」
レッドカーペットが敷かれた階段を上るドレス姿の少女エリザベス。に、泣いてすがりつく男が一人。
「待ってくれよエリザベス! そりゃパーティから外されるのは仕方ないけど、いくらなんでも婚約破棄なんて!!」
誰あろう、俺だ。
「誰に向かって口を聞いているの? この負け犬っ」
ピンヒールで蹴り飛ばされ、俺は無様に階段から転げ落ちる。
「次その汚い口を開いたら、お父様に言って極刑にしてもらうわよ」
キッとこちらを睨みつけ、最後の警告だ、とエリザベス。
そこまで言われたら没落して大した地位もない俺は引き下がるしかない。
そう、俺の家系は没落した。
そんな中父さんが残った財産と人脈をフル稼働させ、血の滲むような思いをして男爵の娘との婚約に漕ぎ着けてくれたのだが、俺の弱すぎるスキルのせいでたった今すべてが水の泡になった。
『光操作』
それが俺の唯一の適性だ。適性とは生まれ持った才能のようなもので、貴族階級なら三つ四つ持っていてもおかしくないのだが、俺には一つしかなかった。
その上『光操作』は光の強さを操れるだけのハズレスキルで、この街に多い洞窟ダンジョンの攻略においては最弱と言っても過言ではない。
しかも運の悪いことに俺の生まれたこの街では洞窟ダンジョンでいかに効率良く金を稼げるかが権力争いに深く関わってくる。そんな街で薄暗い洞窟ダンジョンにおいてほとんどなんの役にも立たない『光操作』しか取り柄がない俺は、エリザベスのパーティでとんでもなく足を引っ張ってしまった。
それはもう地獄のような時間だった。
洞窟内の光といえば松明やランプくらいのもので、俺はその光を強めたり弱めたりできるだけ。行く前は目眩しに使えると期待されていたが、甘かった。
光は四方八方に拡散するため味方まで視界を奪われてしまったのだ。
そんなわけで実質スキルゼロの完全お荷物となった俺は途中からパーティ内でガン無視され、お荷物どころの騒ぎではなかった。
それでもさすがは貴族階級。高給取りの傭兵を二人も雇っていたためダンジョン攻略はなんとか成功。エリザベスの住む城に戦利品を持ち帰ってきたところでパーティ追放&婚約破棄を言い渡され今に至る。
「参ったな。父さんになんて言えばいいんだ……」
城を追い出された俺は通行人の視線が気になってしまい、気がつけば人気のない古びた裏路地を一人とぼとぼ歩いていた。一応住宅街のようだが、煉瓦造りが主流のこの時代にむき出しになってささくれた木で作られた家をいくつも見かけるあたり、相当廃れているらしい。
「はぁーあ、なんか良いことないかなぁ」
「ーーーーきゃーーーーーーーーーーーーっっ!!??」
「なんだ!?」
突然の悲鳴に周囲を見回すと、十歳くらいの女の子が男たちに腕を掴まれ馬車の中へ引きずり込まれそうになっている。女の子はウェーブがかかった明るい茶髪に高そうなフリルのロングスカートを着ていて、みすぼらしい風景からはひどく浮いている。そのせいで狙われたのだろう。
「良いこと、なわけなさそうだなっ」
これでも元貴族階級。放っておくほど落ちぶれてはいないつもりだ。俺は腰の短剣を抜きながら屈強な四人の男達に立ち向かった。
「その子を放せっ!」
「あぁん!? 何様だてめぇ!!」
一番手前の緑のバンダナを頭に巻いた男がくすんだ剣を抜く。残る三人も一斉に武器を取り出して臨戦態勢になった。対するこちらは短剣一本。人数的にも正攻法で勝てるわけがない。
「くらえっ」
右手に持った短剣を振り下ろしバンダナの男がひるんだ隙に左手を青空にかざす。途端に太陽の光が何倍にも増幅されて、薄暗かった裏路地をまぶしいほど照らし出した。
「うぅっ」「まぶしいっ」「なんだ!?」「ちくしょう、前が見えねぇ」
男達が混乱しているうちに女の子をひったくり、俺はその折れそうなほど細い腕を掴んで大通りへ走った。