表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
螺旋の記憶  作者: 睦月
第一章「悟」
1/2

プロローグ

僕は歩いている。


行く先が霞み、彼方へ続く一本道を辿っている。


淡く、濃く、すぅっとなめらかに滲んだ水彩画のような世界。


懐かしい顔や街並みが、鮮やかで禍々しい色彩の中に浮かんでは消える。


ひらひらと鱗粉をまく紫色の蝶が目や鼻先を掠めて、約束の地を示していた。


僕は知っている。


これは幾千とくり返される夢。


歌声が聴こえる。


気配を感じて振り返る。


そして、誰もいない。


手を伸ばす。


そして、何も掴めない。


トレースされる動きを俯瞰から眺めるしかない。


歌声が響く。


音階が波打って透き通る高音になる。


瞳から雫が溢れる。


これはあの人の声。


しがみつく。輪郭を抱きしめる。


蝶は群れになり、螺旋になり、僕らを深い闇へと沈めてしまう。


感じるのは肌の匂いと気配だけ。


「由紀子……。」


ループの果てに待つ孤独に怯え、僕は嗚咽する。


遮光カーテンの隙間から漏れる光が、滲んだ瞼を照らす。


朝陽の中の君は、置き去りにした姿のまま。


艶やかな黒髪。


幼さが残る瞳。


美しい音色を奏でる唇。


目覚めれば失われ、眠りとともに陥る儚い逢瀬。


ピピッ…ピピッ…ピピッ。


スマホの無機質な電子音が、僕を日常へ引き戻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ