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×××話 生誕祝辞その4

「……つまり、何だ? 貴様はいい加減住所不定のままでいるのに耐えられなくなって、落ち着く場所が欲しくなったけれど、ただそこいらに家を建てても信庁の追手が来るのが面倒だから、《冥窟》にしてしまえばいいと考えた、と?」


「……はい、それで《人界》で一番《冥窟》に詳しいと思って来ました、済みませんでした……」


 ふざけたこと抜かしていた自覚はあったのだろう。


 緊張の糸が解けた勢いのまま、《人柱臥処》の持てる総力でユヴォーシュを攻め立てた後、ようやく呼吸が出来る程度に平静を取り戻したルーウィーシャニトの前で、ユヴォーシュは正座をして弁明をしていた。


 敵対の意志がないことは斯くして確かめられたわけだが、ルーウィーシャニトは少しばかり激しく怒りすぎたかなと反省しつつあった。といっても別にユヴォーシュに対して申し訳ないとかではなく、もしもあれでユヴォーシュが仕打ちに耐えかねて反撃してきたらその時こそ《人柱臥処》の終わりだった、という点でである。


 彼女は決して己の身の在り方を自由に決めて良い存在ではなく、自己の感情や何かよりも常に小神の神体を守る聖殿の管理が優先されるのだ。


 まだまだ未熟だなと自嘲しながら、対話のために態度を軟化させる。ユヴォーシュについて信庁が扱いあぐねているのは事実で、あるいはそれをどうにか出来る絶好の機会でもあるから。


「当初は小神カストラスに訊ねるつもりだったと言っていたな。無論それは許可しない」


「ですよね……」


 聖都イムマリヤでの決戦で魔術師カストラスはあるべき位置に収まった。即ち小神の座であり、彼と小神シナンシスの神体はあの事件を機に《人柱臥処》の最奥へと安置されている。他の小神と同じであり、これで小神が《人界》へ干渉する手段はなくなったが、彼女はこれでいいと考えている。これまでのように、信庁が迂闊に手出しできない神聖不可侵なる存在が、独自の意志で行動するよりはよほど健全だ。


 まあ、小神が彷徨い歩くことがなくなった代わりに、ユヴォーシュが闊歩しているのではむしろ後退なのだが。


 《人界》のことは信庁がどうにかするのがあるべき姿。小神たちやユヴォーシュのような連中は、どこかかかわりのない場所にでも隠居してくれればそれに越したことはない。昨今の弱体化した信庁は正直、敵対的でないユヴォーシュまで追い回している余裕はないのだ。


 ルーウィーシャニトはいかにも渋々といった様子で、腰に手を当ててバカでかい溜息をひとつ。


「……仕方あるまい。それで貴様があちこちウロつくことがなくなると考えれば、心底面倒だが教示するしかないだろう」


 ルーウィーシャニトが直々に教えれば、いざというときに《冥窟》を解体するためのバックドアの一つを仕掛けることも叶うはずだ。むしろ知らないところで奇天烈な《冥窟》を作り上げられて信庁が手を焼かされるよりも、こちらで管理してしまった方が確実だというふうに自らを納得させて、ルーウィーシャニトは酷く面倒な仕事に取り掛かることにした。

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