表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

×××話 生誕祝辞その3

 そんなことがあったから。


 そのとき、《人柱臥処》に押し入る存在がいても、ルーウィーシャニトは決して驚きはしない───なんてことはなく、普通に唖然とした。


 そんな蛮行をやらかすとすれば、なるほどその男(・・・)くらいしか候補はいないだろう。しかしだからと言って、まさか本当に事に及ぶとは思わないものだ。


 落ち着いたかと問われれば頷くだろうが、平和になったかと問われれば首をかしげるような、そんなご時世。外の世情に聡くないルーウィーシャニトとて、《人柱臥処》の外ではその男(・・・)は大罪人で、ほうぼう逃げ回っていると聞く。その男(・・・)がこんなところに顔を出すはずがないと決めてかかっていた。どうやらそんな考えは甘々だったらしい。劫の流転を控えた聖都イムマリヤに突っ込んですべてを台無しにするような大馬鹿者ならば、彼女(・・)の幼馴染と聞く()ならば、それくらいやらかすだろうと身構えておくべきだったというのだろうか。


 流石に無理があると思った。


「……よく顔を出せたものだ。ユヴォーシュ・ウクルメンシル」


「良かった、覚えてもらってたか。ニーオの一件でちらっと縁があったきりだったから、自己紹介が要るか不安だったんだ」


 何を寝惚けたことを、とルーウィーシャニトは歯噛みする。この《人界》の聖究騎士で、彼を知らぬ者など居るはずがない。神の定めた運命に逆らったことだけでもありえないのに、その上でこうして健在な彼という存在を《人界》は許容できない。けれどかつて、万全とはいかないまでもかなりの戦力が揃っていた信庁に正面から喧嘩を売って勝った彼に、今の(・・)信庁では太刀打ちできない。


 体面を保つために追ってはいても、本腰を入れてどうにかしよう(・・・・・・・)とは出来ていないのが現状だ。それくらいあの戦いの傷痕は深く、五年が(・・・)経った(・・・)今でも(・・・)癒えていない。


 そんな惨状を引き起こした当人が、何を平然と。


「今度は何をしに来た。またぞろ戦争を所望するか───度し難いな」


「いやいやいや、そんなことしねえって。そんなヒートアップするなよ、最近の俺は大人しくしているだろ?」


 ルーウィーシャニトは眉をひそめた。


 確かに《光背》のユヴォーシュはここ一年ほど《人界》で何か騒動を起こしたという話を聞いてはいない。だが、それはあくまで《人界》に限った話だ。信庁は彼が《魔界》ならびに《妖圏》でそれぞれやらかしたことを把握していて、外交的爆弾が野放しになっていることに頭を抱えているのだ。


 《人界》でやらかさなくなったと思ったら今度は他所で。一体どうすれば奴は大人しくしてくれるのかと悩んでいたところに、今回のこの訪問である。


 ルーウィーシャニトは臨戦態勢を取ってはいたが、それもどこまで通用するか。この《人柱臥処》の中の彼女は無敵と自負していたが、それも彼女の想像の及ぶ範囲に限られる。その枠外、驚天動地の《真なる異端》を相手にするとなれば、いったいどれだけ時間を稼げるだろうかとか、そんなレベルの差なのだから。


 その気になればルーウィーシャニトをバラバラにして、《人柱臥処》の奥の奥まで暴いて、小神の神体を残さず砕き尽くせる───《人界》を終わらせられる存在が、その気になったのか。


 冷静に対処しようと努める彼女は、しかし自分の終焉の予感に指先が震えているのに気づいた。


 この緊迫が続くのに耐えられない。


「ならば一体、何の用だ」


 ユヴォーシュはこりこりと頭を掻くと、


「いやな、《冥窟》って……どうやって作んだ?」


「はあ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ