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×××話 生誕祝辞その1

 ───違うものは、その起こりからして違うもの。


 《人界》を守護する要、九柱の聖究騎士の一角、《冥窟》のルーウィーシャニトことルーウィーシャニト・ジェセウも、そうだった。


 彼女は聖究騎士の中でもとりわけ特異な存在だ。《人界》の小神たちを祀り守るための《人界》最古の《冥窟》───《人柱臥処》。そこの維持と管理を任ぜられている彼女に匹敵するのは神聖騎士主席くらいのもので、それだって言わば後天的に選ばれる存在と考えれば重要性は桁違い。


 彼女の生まれは、《人柱臥処》である。


 地名としてのそれではなく、比喩抜きに、彼女は《人柱臥処》を用いて生まれ落ちた。母胎からではなく、魔術的に精子と卵子を結合させ、疑似子宮を揺りかごとしてこの《人界》に命を受けたのだ。彼女を造り出したのは祈祷神官上がりの神聖騎士だったが、彼女を育んだのは《人柱臥処》だった。


 そうしたのには、明確な意図があった。───あって(・・・)当たり前の(・・・・・)もの(・・)と認知させる必要があったのだ。


 《信業》とは常ならざることをうつつに顕す超常の業である。必然その行いには代償が要求され、異能を行使し続ければ果てには死が待つのみという過酷にして厳然たる事実がある。それを誤魔化そうとする者は後を絶たず、かつて《人柱臥処》を建造した《信業遣い》も同じことを考えた。


 その答えがルーウィーシャニトだ。


 呼吸をするように当然に《人柱臥処》を維持させる。《信業遣い》が無意識的にかつ常に溢れさせている微弱な《信業》───といっても聖究騎士ともなればかなりの出力になるそれ───は、普通ならば己の肉体や精神の調律のために使われている。常に己の存在を保ち続けるホメオスタシスを《冥窟》にまで適用させようという認知の拡張実験。その成功例が彼女。生まれながらにして《冥窟》と同化したことでそれが当たり前と認識している彼女が、二つ名に《冥窟》と冠されるのも当然のことで、彼女は《冥窟》の主以外の何者でもないのだ。


 代償として《人柱臥処》から出られなくなったとして、それが何の不都合になろうか。だって《人柱臥処》とはルーウィーシャニトの身体なのだ。己の肉体から己の精神を弾き出そう(・・・・・)とするものがどこにいる? 多少なり意識を遊離させて信庁本殿に赴くことくらいはできても、結局帰ってくるのは肉の器とそこに繋がる《人柱臥処》に他ならない。そしてその《人柱臥処》は聖都イムマリヤの地下深くに掘り広げられた《冥窟》であり、《真龍》たちのようにそれを駆るようには出来ていないのだ。


 《人柱臥処》の役割とは小神の神体を守護すること。そしてルーウィーシャニトの役割とは、《人柱臥処》を維持し続けること。


 だから根本的に、彼女は特異で、孤独で、そういうものだと───それが当たり前(・・・・)なのだと思っていた。


「よう、ここが《人柱臥処》? 時化た場所だなぁ」


 ───あの日、彼女が無遠慮に踏み込んでくるまでは。

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