【詩】わたしの愛した人魚姫
あなたが地上でうたいはじめたころ
わたしは世界を恨んでいた。
あなたは自分を捨てた王子へ
細い身体を張り裂くように
怒りと呪いをうたっていた。
わたしはあなたを同志だと思った。
あなたの詩を、叫びを、怒りを、絶望を、慟哭を耳にするたびわたしは泣いた。
あなたはわたしの代弁者だった。
あなたが泣きながら泡になって消えたとき
まだ世界はわたしの敵だった。
あなたが消えて、わたしは一人で戦った。
ボロボロに傷ついて、絶望して、諦めて、
ようやく世界を許せるようになったころ、
またあなたの歌声が聞こえた。
あなたは世界を愛していた。
あなたの愛を、祈りを、許しを、喜びを耳にして
あなたの無垢な子供のようで
どこか母のようなあたたかい声に包まれて
わたしは泣いた。
あなたの声は恵みの雨のように
わたしへの中へ吸い込まれていった。
あなたが再びこの世界に姿を見せてくれたこと
わたしに歌声を聴かせてくれたこと
わたしの世界に、いまあなたがいてくれること
この幸せをあなたがわたしに代わってうたってくれる
声の出せないわたしの代わりに
どうかこれからも歌い続けて
この先もわたしと一緒に生き続けて
わたしの愛した人魚姫