【6】
《登場人物紹介》
◇白山茶花 桃椿-シロサザンカ モモツバキ-
…中学生
◆黒檀 未恋-コクタン ミレン-
…転校生
◇嫁入 朔-ヨメイリ サク-
…中学生
◆卯花腐 春時雨-ウノハナクタシ ハルシグレ-
…中学生
×××
☆マジカルカメリア
…白の魔法少女
★マジカルエボニー
…黒の魔法少女
camellia[意味:椿]
†
「朝8時待ち合わせっつったら普通誰か遅く来たり、早く来てたりするもんだろーが。何で四人とも8時ジャストに来てんだよ、気持ちわるっ!」
「時間通りに来ただけなのにすごい言われ様だね」
「8時集合って言ったら、普通に8時に現地に着くように来ません?」
「未恋ちゃんの意見が普通かどうかは別として間違っちゃいないよね」
夏休み。
今日は四人でプールに行く予定だ。
「っていうか、久しぶりに会って第一声がそれ? 他に何か言うことない?」
「時雨もツバッキーもレンレンも久しぶり! 会いたくて死にそうだった!」
「重っ! ウサギかよ」
「ウサギは大好きです」
相変わらず嫁入はテンションと距離感がおかしいし、未恋ちゃんはマイペースだ。
うん、落ち着く。
「モモ、なんか落ち着くって顔してるね」
いつの間にかハルっちが隣にいた。
「心を読まれたか」
「いや、ワタシも同じこと思ってたから」
「おそろーい!」
イェーイ、とハルっちとハイタッチする。
「ボクも混ぜろよー!」
嫁入が割って入ってきた。
…前にもこんなことあったな。
「嫁入さんは私と〝ろーたっち〟しましょう」
未恋ちゃんが変なこと言い出した。
「ロータッチってなんだよ」
「こう、下に下げた手を合わせる感じです」
こう、とロータッチを嫁入にレクチャーする未恋ちゃん。
「言っちゃあれだけど、未恋ちゃん最初の頃と比べて変な子に育ったよね」
「保護者として責任を感じざるを得ないね」
ハルっちも同意見か。
「そこ夫婦みたいにしてんじゃねー!」
「ところでろーたっちの〝ろーた〟ってどういう意味なんでしょうか。はいたっちの〝はいた〟の対義語か反対語でしょうか?」
場がメチャクチャになってきた。
深刻なツッコミ不足だ。
「取り合えず、暑いからバス乗ろうか」
ナイス、ハルっち愛してる。
♪
取り合えずプールに着いた。
…のはいいんだけど。
「ツインテールと眼鏡がないと嫁入が誰だか分からないな」
「人を記号で判断するんじゃねー!」
ゴーグルとキャップにまとめた髪でもう誰が誰やら。
「嫁入らずさん」
「誰が嫁入らずじゃー!」
このツッコミは嫁入でしかないな。
「そして、みんな普通の水着着てる中で一人ビキニ着てきたハルっちはすごいな」
度胸というか空気読めなさというか。
「どう?」
「超素敵!」
「メッチャ似合ってる!」
…嫁入と被ってしまった。
「ありがとう二人とも愛してる」
「ぐはっ」
「ぎゃあっ」
嫁入と一緒に倒れる。
「どうかな? レンちゃん」
あたしら二人を仕留めたら次は未恋ちゃんかよ、この女たらしめ。
「うーん」
未恋ちゃんは何やら考え込んでいる。
「深緑色なのが何だか、こう、エッチですね」
「真顔で何言ってんの未恋ちゃん」
この子ホント何考えてんだよ。
「深緑は秘密の色、ってね」
そして未恋ちゃんの天然発言にも余裕で返すハルっち改めてすごいな。
「なるほど。つまりその水着の下に秘密があるってことですね」
マジで何言ってんだよ未恋ちゃん。
♪
「流れるぷーるってホントに流れてるんですね! もう一度流されてきましょう、嫁入さん!」
「何故ボクっ!」
未恋ちゃんに引っ張られて流れるプールに連行される嫁入。
おお~、流れてる流れてる。
「何か鯉の滝登り思い出すね」
「登ってはないけどね」
あたしとハルっちは普通のプールで適当に泳いでいる。
「水の中っていいよね」
「浮力があるからね」
そうそう。
「地上より落ち着く」
「前世が魚だったのかもね」
ありうるな。
「あたし一個夢があるんだけどさ」
「いきなりだね」
夢とはいきなりなものだよ、ハルっち。
「こう、お姫様だっこしてもらいたいんだよね」
「何故いま……、ああ浮くからか」
察しがいいな。
流石ハルっち。
「やってくれない?」
「いいよ」
「やったー!」
嫁入がいると迂闊にこういうの頼めないからな。
「顔だけ出す感じでいい?」
「そんな感じでお願い」
ハルっちに抱き抱えられる。
「はい、お姫様」
きゃー、ハルっちの顔が近い!
超照れる!
「ありがとう、王子様」
「どういたしまして、姫。…よっと」
降ろし方までイケメンだ。
「ところで、さ」
「なになに?」
今ならなんでも聞いちゃう。
「サクとレンちゃんはまだ流れてる?」
「んー? ああ、流れてる流れてる」
かなり遠くだ。
あたしは視力がいいから見えるけど。
「なるほど、ね」
ハルっちがちょっと斜め下を見ている。
なんだろう?
「ワタシも一個夢があって、さ」
ひょっとして。
「…ワタシのこともお姫様だっこしてくれない? モモ」
だから、イケメンなのに可愛いのはズルいって、ハルっち。
♪
結局、あのあと嫁入が乱入してきて未恋ちゃんも含めて四人で水上鬼ごっこみたいになってしまった。
(因みにハルっちのお姫様だっこはやった。調子に乗ってお姫様ごっことかしてたら、見つかってしまった。)
今は夕方、帰宅中だ。
「楽しかったねー」
「ツバッキーの抜け駆け野郎」
「まだ言うか」
そんなしつこいところも可愛いんだけど。
「さっきの流れでは言いそびれたんですけど、流れるぷーるだけに言いそびれたんですけど」
「別に上手くはないけど何さ、未恋ちゃん」
「私もお姫様だっこして欲しいです」
おおー、お姫様願望三人目。
「お願い出来ますか、嫁入さん」
「だから、何故ボクっ!」
未恋ちゃん一番嫁入と距離あるから仲良くなりたいんじゃないかなぁ。
それはそれとして。
「嫁入の身長じゃ無理でしょ」
「誰がチビだ、コラー!」
あたしは158センチでハルっちはあたしより若干低め。
そのハルっちより未恋ちゃんは一回り小さくて、嫁入は更に一回り小さい。
「駄目ですか…」
「やってやるよ!」
「いや、陸じゃ怪我するって」
未恋ちゃんを無理やり持ち上げようとする嫁入をハルっちが止めている。
あの感じじゃハルっちも無理そうか。
だったら。
「あたしが未恋ちゃんをお姫様だっこしてあげよう!」
「本当ですか!?」
「平気なの? モモ」
多分いける。
「ちょっとそこの公園寄っていこう。道でやってたら変な人に思われそうだし」
「公園でやってても十分変な人だけどな!」
嫁入は無視だ。
♪
「じゃあ、やろうか」
「はい!」
「ホントに大丈夫、モモ?」
平気平気。
「じゃあ、モモが倒れそうになったら支えられるようにサイドにつくよ」
「ありがとう」
ハルっちは意外と心配症だ。
「じゃあ、ボクはそこで写真撮ってるな」
嫁入は、もうなんというか嫁入だ。
「じゃあ、いくね」
「はい!」
カシャッ、と。
あたしが未恋ちゃんを抱えると同時に携帯のシャッターが切られた。
♪
「なんかよく考えたらボクだけ写真に写ってなくて仲間外れ感あんだけど!」
「よく考えなくてもサクは仲間外れになってるね」
「うわーん、時雨のバカー!」
嫁入が泣き出した。
しかもガチ泣き。
「まあまあ、嫁入さんもこっちにくればいいじゃないですか」
「ボクもそっちに行っていいのか?」
そっちも何も一人で離れて写真撮りだしたの嫁入だけどな。
「サクもおいで」
「うわーん、時雨愛してるー!」
「何この茶番」
嫁入を含めた四人で抱き合う。
ホントなにこれ?
「さあ、このまま嫁入さんを胴上げしましょう!」
「は!? なに言ってんのレンレン?」
「わかった」
「わからないでよ、時雨!」
更によくわからないノリになってきた。
でも、楽しい!
「助けてツバッキー!」
「じゃあ、せーので行こうか」
「ツバッキーに助けを求めたボクが馬鹿だった!」
恨むなら日ごろの行いを恨むが良い。
「「「せーのっ」」」
「ぎゃああああっ」
この後、メチャクチャ胴上げした。
♪
「…という訳でみんなでプールに行って楽しかったよ!」
「オイラもその話が二周目に入るまでは楽しかったニャン」
リンクスと話しながら異界獣を蹴散らす。
因みに話は今三周目だ。
「…にしてもさ」
「なんニャン? もうプールのプの字も聞きたくないニャン」
相変わらず辛辣なツッコミだ。
あたしも安心してボケれる。
…じゃなくて。
「明らかにこの辺異界獣多いよね」
この辺、というのはあたしとリンクスが初めて会った場所であり、あたしが異界獣と初めて戦った場所のことだ。
「確かに。公園周りは異界獣が多いニャン」
「神庭公園、っていうらしいよ」
何故か看板が見当たらないから調べたけど。
「ニャーン?」
「ふうん、みたいな発音で言われてもね」
興味無さそうだな、おい。
「人間がなんて付けようとオイラたちにも異界獣にも関係ないニャン」
「それはそうなんだけどね」
ちょっと引っかかってることがあったり。
「そんなことより…」
「うん、わかってる。リンクスは下がってて」
リンクスを下がらせ後ろを振り返る。
「黒の魔法少女〝まじかるえぼにー〟!」
ポーズを決める黒い魔法少女がいた。
♪
「久しぶりですね、お久しぶりですね。まじかるかめりあさん」
「やっ、エボニーちゃん」
軽く左手を挙げて挨拶をする。
「最近現場で見なかったけど何やってたの?」
「まあ、いろいろと。昨日は友だちとぷーるに行ってましたね」
昨日は気づかなかったけど、プールの発音すらおかしいな。
どんだけ横文字苦手なんだろうか。
「他には?」
「夏休みの宿題を片付けていました。友だちからちゃんと早めにやるように言われてたので」
「偉い偉い」
絶対やってないと思ってたのに。
「本当はやる必要ないんですけどね」
「ん?」
どういう意味だろう。
「だって、もう〝扉〟は見つかっていますし。かめりあさんの邪魔さえ入らなければ後は〝開ける〟だけなんですから」
「それと、宿題やる意味がない、ってのがどう結びつくのかな?」
嫌な予感がするんだけど。
「〝異界〟の扉を〝開けた〟私が無事なわけないでしょう? そして、この人間世界も終わりである以上、宿題なんてやる意味がありません」
仮面の下、見えている口元だけで笑うエボニーちゃん。
…今思うことじゃないけど、ちょっとセクシー。
「一個」
「え?」
「質問残ってたよね。聞いていい?」
「ええ、どうぞ」
エボニーちゃんは右手のひらを上に向けた。
「何でエボニーちゃんは異界獣に協力してるの? 何か利があるの?」
「〝利〟ですか? かめりあさんにしては的外れなことを言いますね」
エボニーちゃんはあたしを馬鹿にしたように笑った。
…そういう笑い方は初めてみたな。
「何かをする理由なんて〝頼まれたから〟に決まってるじゃないですか」
「誰に?」
「黒ウサに。家族も友だちも目的も生きがいもありませんでしたから断るなんて選択肢はありませんでしたね」
「なるほど、ね」
割と最悪な回答だ。
つまり、選択肢の無い時に与えられた一択が〝それ〟だった訳ね。
「選択肢がある人はいろいろ選べていいですね、楽しそうでいいですね」
「そうでもないよ」
過剰にある選択肢が人を迷わせる時だってある。
「問答はお仕舞いにしましょうか」
「あたしが黒ウサとやらよりも先にエボニーちゃんに会いたかったよ」
「案外いいお友達になれたかもしれないですね」
そうだね。
「〝異界の扉を開く〟って言ってたけどさ。今は一緒に遊びに行くような友だちいるんじゃないの? それはいいの?」
「先に黒ウサに頼まれましたから」
エボニーちゃんの律儀な性格からしたらそうだろうね。
宿題だって友だちに〝やるように言われたからやる〟。
「先に友だちになった順、って訳ね」
「いえ、別に黒ウサは友だちではありませんよ」
「え?」
「友だちっていうのは一緒に笑って遊んで楽しんで、喜びを共有するものでしょう? でしたら黒ウサは友だちではありませんでした。……ただ命令を出してるだけの友だちなんていませんもんね」
「だったら、そんなのに従う必要はないんじゃない?」
まあ、どんな返しが返ってくるのかは分かってるけどさ。
「先着順です。何もなかった私に会ってくれた」
「予想通り過ぎて気分悪いよ」
「なら、また今度にします?」
相変わらず優しくていい子だな。
「いや、今日決着をつけよう」
拳を構える。
「そうですね…。降臨せよ〝異界神獣 9番〟!」
エボニーちゃんは黒い結晶とカンペを取り出した。
結晶が巨大化して黒いオーラでエボニーちゃんと繋がった。
「〝える! とわいらいとぞーん! びこーん!〟」
漸く聞き取れた。
「〝トワイライトゾーン〟ね」
〝夕暮れ時〟または〝怪異の時間〟。
黒い影のような二角獣が現れた。
♪
「〝黒馬双角〟!!」
黒い二角獣が突っ込んできた。
左右の角からは直線に黒いオーラが出ており、下手にかわすと逆に直撃しそうだ。
だったら。
「〝ギガスタンプ〟!!! …ぐっ!?」
正面から二角獣の額に張り手を打ち込んだが、逆に吹っ飛ばされた。
「降参するなら…」
「しない!」
したら〝異界獣〟の出入り口開く宣言してるのに、誰が降参するか。
「…そうですか。貴女が死んだら泣きますから、しっかり恨んで下さいね。〝黒馬双角〟!!」
「〝ペタナックル〟!!!」
二角獣の鼻面にカウンターで拳を叩き込んだ。
「ぐぅっ…!!」
二角獣が怯み、エボニーちゃんが呻き声を漏らした。
ひょっとして。
「ダメージが連動してる系?」
「ええ、そうですね。だからと言って私を倒したところでこの子は消えませんけど…っ」
エボニーちゃんが血を吐いた。
「エボニーちゃ…」
「〝黒馬双角〟!!」
-ドカッ、と。
真正面から吹っ飛ばされた。
…イッテェな、クソ!
「痛い思いをさせたくないので降参してはくれませんか?」
それはこっちも一緒だっての。
〝ヨタカメリアレイ〟なら遠距離から倒せそうだけど、エボニーちゃんを道連れにしちゃうからナシだ。
だったら。
「マジカルカメリア最終奥義…」
両手を開いて構える。
「〝黒馬双角〟!!」
突っ込んできた二角獣の角を両手で掴む。
黒いオーラのせいか手が火傷したかのように痛い。
-リンクス、あの時異界獣の群れに投げ込もうとしてゴメン。
「〝ファイナルカメリア・ヨクトピュリファイ〟!!!!!!!!」
白いオーラが影の二角獣を包み込み昇華させた。
♪
「い、〝異界神獣〟が……」
呆然とするエボニーちゃん。
…そして、こっちも限界か。
変身が解ける。
「え? あれ? ……桃ちゃん?」
「バレちゃったか、、、未恋ちゃん」
エボニーちゃんの表情が呆然から愕然に変わり。
二言呟いて走り去った。
♪
〝騙してたの?〟
〝友だちだと思ってたのに〟
と。