【5】
《登場人物紹介》
◇白山茶花 桃椿-シロサザンカ モモツバキ-
…中学生
◆黒檀 未恋-コクタン ミレン-
…転校生
◇嫁入 朔-ヨメイリ サク-
…中学生
◆卯花腐 春時雨-ウノハナクタシ ハルシグレ-
…中学生
×××
☆マジカルカメリア
…白の魔法少女
★マジカルエボニー
…黒の魔法少女
camellia[意味:椿]
†
「チクショウ、明日から夏休みだよっ!」
長期休暇前の嫁入の嘆きが始まってしまった。
「よく分からないですけど、普通は夏休みって喜ぶものじゃないですか?」
「普通はねー」
っていうか〝普通は喜ぶ〟とか言ってるあたり未恋ちゃんも大概普通じゃないよね。
「なんのためにボクが学生やってると思ってんだよ、ガッデム!」
「勉強のためでは?」
未恋ちゃんが言うか。
「学生生活をエンジョイするために決まってんだろうがー! 夏も学校行かせろー!!」
「暑苦しい子だなぁ」
夏に嫁入は良くない。
「毎度嘆く気持ちも分からないでもないけどさ。ここは前向きに夏休みの計画でも立てたらどう?」
その点ハルっちは夏でも涼しげでいい。
抱きつきたい。
「そんなこと言って一番連絡取れなくなるの時雨じゃねーか」
「確かにハルっち長期休みの時、定期的に音信不通になるよね」
電話とか一切繋がらなくなる。
「ちょっと旅に、ね」
「携帯ぐらい出ろよー」
「携帯は家に置いていく」
「携帯しろよー」
嫁入が暑苦しくハルっちを揺するがハルっちは涼しい顔だ。
「そういえば未恋ちゃんは携帯持ってないよね」
「苦学生なので」
「苦学生なら勉強しろよ」
真顔で嘘つくな。
「自宅に電話線なら引いてあると思います」
「電話線引いてない家なんてないよ」
いや、あるのか?
「時雨もレンレンもボクに夏休みの予定書いて渡せよー」
「予定は未定」
「夏休みの宿題にしておきます」
ハルっちは勿論として、未恋ちゃんもけっこういい性格してるよな。
そんなとこも好きよ。
♪
「という訳で明日から夏休みだから毎日リンクスに連絡するね」
「止めるニャン!」
今日も今日とて異界獣退治。
雑魚異界獣を蹴散らしながら、リンクスと話す。
「暇ならその寂しがってる友だちに連絡してあげればいいニャン」
「いやー、意外と一番忙しいのが嫁入なんだよね」
なんか長期休み毎に仕事してるっぽいんだよな。
「まあ、四人でプール行く予定とか立てたし。それなりに楽しく過ごすつもりだよ」
「それは良かったニャン。是非オイラを巻き込まないで楽しんで欲しいニャン」
友だち甲斐のないネコだなぁ。
「普段、リンクスってなにしてんの?」
「いきなりプライベートの詮索ニャン? 妖精界で掘ったり耕したりしてるニャン」
ネコかよ。
「っていうか妖精界ってそもそもなんなのさ」
「それは前にも話したニャン」
リンクスと話しながら蹴りで雑魚異界獣を霧散させる。
「人間界の自然と地続きのお隣さん。それが妖精界ニャン」
「お隣さんの割には人間のこと避けてない?」
「人間は自然を破壊するから大半の妖精族は人間が苦手ニャン」
「なるほどね」
一理ある。
「でも、あたしとリンクスは友だちだよね」
「異界獣の群れに投げ込まれたこと忘れたことはないニャン」
「執念深いネコだなぁ」
いや、ネコだからこそ執念深いのは当然か。
…と、気配を感じて上を見る。
「黒式恋化!」
「黒の魔法少女〝まじかるえぼにー〟!」
出たね、エボニーちゃん。
「リンクス、下がってていいよ」
「頑張るニャン。マジカルカメリア」
そう言ってリンクスは草むらに姿を消した。
♪
「派手な登場だね、エボニーちゃん」
空からとはね。
「明日から夏休みなもので」
はしゃいじゃってる訳ね。
「着地に失敗して足を痛めました」
「はしゃぎすぎだよ!」
足痛めるの癖にならなきゃいいけど。
「ですが、戦うのは私ではないので。現れよ〝異界超獣〟!」
エボニーちゃんが取り出した異界石が巨大化した。
…そして、いつも通りカンペを読むエボニーちゃん。
「ひぐ! とわいりとぞん! でえる!」
相変わらず緊張感が台無しだ。
だけど、最近エボニーちゃんがなんて発音しようとしてるのか分かるようになってきてたり。
「〝異界鹿〟!」
黒い影のような牡鹿が現れた。
♪
「〝黒鹿突撃!!〟」
「〝アトラック!!〟」
牡鹿の突進を加速してかわす。
先ほどまであたしの後ろにあったコンクリート塀が牡鹿の突撃で粉々になっている。
「ふふふ、どうです? 〝異界超獣〟の力は」
「やばいね」
当たったらね。
牡鹿がこちらに向けて角を構え直す。
あたしも拳を構える。
「〝黒鹿突撃!!〟」
「〝アトラック!!〟」
牡鹿の突撃をかわし(今度は樹が犠牲になった)、側面に回りこむ。
「あっ…!」
「〝ゼタアタック!!!!〟」
止まった鹿に横から全力のタックルをブチかます。
牡鹿は黒い靄となって霧散した。
♪
「…またもやられてしまいましたね。やられてしまいましたね」
最近気づいたけど、同じ言葉繰り返すの癖なんだろうか。
「まあ、パワーはやばかったけど攻撃が単調だったね」
「そうですか」
前の人狼の方が強かった。
「修学旅行前に下見として鹿を見ておきたかったんですが、失敗しましたね」
「ホントなにやってんの!?」
そんな理由で異界獣選んでたんかい。
「発情期の牡鹿は強暴だから近づかないよう書いてありましたが、この分なら問題無さそうですね」
「問題しかねーよ!」
「鹿だけに」
「ぶっ飛ばすよ?」
ふふ、と可愛く笑うエボニーちゃん。
図太く育ったなぁ。
♭
《とあるアパートの一室》
『まーた負けたウサ。マジカルエボニー』
黒いウサギの影が嘲るように少女に話しかけた。
『使えない奴ウサ』
「使えないのは黒ウサの寄越す〝異界獣〟でしょう。普通の〝異界獣〟はまじかるかめりあさんに触れるだけで霧散しますし、〝異界獣〟で彼女を倒すのは不可能なのでは?」
異形のウサギの罵倒を何でもない風に少女は受け流した。
『オマエ、図太くなったウサな』
「元から図太い黒ウサに言われたくないです」
少女の言葉を受けて異形のウサギは嗤った。
『まあ、いいウサ。〝扉〟はとっくに見つかってるし、後は〝開ける時〟に邪魔さえ入らなければいいウサ』
そういって異形のウサギは二つの黒い結晶を落とした。
「新しい〝異界獣〟ですか」
『ウサササ。〝6番〟と〝9番〟をくれてやるウサ。これでマジカルカメリアとやらを再起不能にしてやるウサ』
そういって異形のウサギは影となって消えた。