第61話「見た目に反して」
新作『お互いの秘密を知ってからクール美少女が仔犬のように付きまとってくるようになった件について ~アマチュア作家の僕とエッチなイラストレーターである彼女の秘密の関係~』ですが、検索除外設定になっていたので、もし検索や僕の作品一覧から飛べなかった方は申し訳ございません!
除外設定を外しましたので、もう飛べるようになっていると思います!
「やっぱり冬月君はふぶきの事が……!」
少し考えこんでいると、春野先輩が口元に手を当ててなんか変な誤解をし始めていた。
しかし、頭を優しめに叩かれそれ以上の言葉は言わせてもらえなかったようだ。
「馬鹿な事を言っていないで、あなたは自分が作ったオムライスを冬月君に食べてもらわなくていいの?」
「あっ、食べてもらう……!」
白雪先輩に言われて思い出したのか、叩かれて不満そうに頬を膨らませた春野先輩は一生懸命にコクコクと頷く。
先程言っていたように、春野先輩も他の人が出すふわとろオムライスに合わせて自分でもふわとろオムライスを作る事になっていた。
とはいっても、慣れていないので量は作れないため五皿だけという事になっていたはず。
彼女の手料理を食べる事は男にとって一つの夢であり、それはいくら俺でも例外ではない。
数が少ないだけに早く取りに行きたいところだ。
でも、ふわとろオムライスは俺もよくこの孤児院で作るくらいにここの子たちは大好きだ。
他の人たちも出しているとはいえ、春野先輩が作った分は五皿しかないとなるともうないかもしれないね。
俺はまなを抱っこし、先輩たち二人がそれぞれ一年生たちを抱っこをしてオムライスのテーブルまで移動する。
本当は何も知らない一年生の子よりまなの事を春野先輩に任せようとしたのだけど、俺が一年生の子を抱っこしようとしたらまなが凄く怒ってしまったのだ。
どうやら俺はまな以外を抱っこしてはいけないらしい。
そのため春野先輩に一年生の子を任せようとしたら、それはそれでまなは複雑そうな顔をしたけど、俺か春野先輩どちらかを選ばないといけない状況という事で渋々認めてくれた。
後は、一年生の子と仲良くなったから認めたというのもあるかもしれない。
一年生の子なら普通に歩いて移動もしているため、前までのまななら歩かせろと言っていたかもしれないからね。
早くも妹の成長を見られて嬉しいと思う。
――とまぁそんな事がありながらオムライスのテーブルに移動したのだけど、俺と白雪先輩、そして春野先輩は予想外の状況に絶句した。
というのも、オムライスのテーブルに残っていたのは五皿だけであり、全て春野先輩が作った物だったからだ。
どうして作ったところを見ていない俺が春野先輩が作った物だとわかったかというと、ふわとろオムライスの出来具合にある。
普通のオムライスならともかく、ふわとろオムライスなら多少崩れていたところで元々そういう品なため目立たない。
だから春野先輩にはこれを作ってもらう事にしたのだけど、出来ていた物はところどころ破れていてご飯が見えているし、ふわとろのはずなのに焦げている部分もある。
つまりふわとろにすらなっていなかった。
これでは他の人たちのオムライスとの差が激しすぎて手にとってもらえるはずがない。
春野先輩以外は全員プロが作っていたのだから。
「えっと……?」
さすがの俺も思わぬ出来栄えに戸惑って春野先輩の顔を見てしまう。
確か昨日までは綺麗に出来ていたはずだ。
だから今日料理をしてもらう事を認めたんだし、安心して任せていたのだから。
「そ、その、これは……」
春野先輩は何か言おうとするけど、うまく言葉が出ない様子。
すると俺と同じように戸惑っていた白雪先輩が口を開いた。
「大丈夫って言うから今日は様子を見てなかったけど……まさか、私や冬月君がいなかった事で緊張しちゃったの?」
コクリ――。
白雪先輩の言う通りだとでも言いたげに春野先輩は小さく頷く。
なるほど、普段緊張なんかしない俺はその事を見落としていた。
おそらく白雪先輩も料理に慣れているから緊張するなんて事を忘れていたんだろう。
これは完全に俺のフォローミスだ。
やっぱりちゃんと春野先輩の傍についておくべきだった。
元々俺が料理メンバーから外されたのは、会場設置のためにまなを連れ出す役が必要だったからだ。
しかしこうなるのだったら、孤児院の奥でまなの相手をしつつ、春野先輩の時だけ俺が傍にいるようにするべきだった。
先輩には本当に申し訳ないと思う。
だけど、なんだか白雪先輩は春野先輩に対して怒った様子を見せていた。
「緊張しちゃったら仕方ないけど、だったらどうして私を呼ばなかったの? それによくこんな失敗作を出せたわね?」
白雪先輩は余程怒っているのか、いつにも増して厳しい言い方で春野先輩を責める。
「ですから白雪先輩、言い方……!」
「美琴は甘やかすとその分調子に乗っちゃうタイプよ。駄目な事は駄目ってちゃんと言わないと本人は納得しないの」
まるで春野先輩のお母さんのような物言いだけど、付き合いが長い白雪先輩が言うならそうなんだろう。
それに春野先輩が甘えん坊でいろいろとまずい人だという事も少し知っている。
ましてや失敗作を出すなどありえないという気持ちは料理人である俺からしても同じ気持ちだった。
だけど、春野先輩の気持ちもわかる。
ふわとろじゃなくなったけど、要は少し焦げがある普通のオムライスが出来ているだけだ。
料理を覚えたばかりで、しかも頑張って練習をしてきた彼女がこれでも食べてもらいたいと思った気持ちもわかるんだ。
だからあまり責めないでほしい。
春野先輩は白雪先輩に怒られたせいでまたシュンとしてしまっている。
かわいそうなので、そっと優しく頭を撫でてみた。
「ふ、冬月君……」
先輩は頭を撫でられると驚いたように目を開きながらも、自分が撫でられているとわかると嬉しそうに頬を緩める。
本当にかわいい先輩だ。
しかし――そうすると、まなや一年生組も頭を撫でろと騒ぎ始めた。
この子たちはちょっと甘えん坊すぎると思う。
「一つもらいますね」
俺はまなの頭を撫でて近くの椅子に座らせた後、焦げが一番酷いオムライスの皿を手に取る。
これ一つがないだけでも見栄えは変わるだろう。
そして黙って白雪先輩もオムライスの皿を一つ手に取る。
なんだかんだ言って、白雪先輩は春野先輩に甘い人だ。
この人がこのままにしておくとは思っていなかった。
俺たち二人はスプーンを使い、オムライスを一口サイズに切った後口に含んだ。
味は――見た目とは反対に、とてもおいしかった。
「おいしい、ですね」
「本当!?」
正直味のほうも覚悟していただけに、想像を遥かに超える美味しさで驚いた。
卵はちょっと固めになっているけどこれはこれでありだ。
何より、中のチキンライスの味付けが絶品だった。
程よい塩加減に、濃い過ぎず薄すぎないケチャップの味付け。
若干ご飯も焦げてしまっているけど、石焼ビビンバのような感じでおいしい。
切られた野菜の大きさがまちまちなのはもう仕方ないだろう。
料理を覚えてすぐにこの味なら十分だ。
「分量はきちんと教えてもらった量を守っていたようね」
白雪先輩も満足そうにオムライスを食べている。
先程までの機嫌の悪さがなくなっている事がわかった。
「本当においしいですよ、春野先輩」
「えへへ……」
今度はちゃんと面向かっておいしいと伝えると、春野先輩は嬉しそうに頬を緩める。
かわいい。
あまりにもかわいいので、俺はもう一度頭を撫でようと先輩の頭に手を伸ばした。
しかし――
「にぃに、ごはん……!」
――自分にも食べさせろというまなの声により、それは阻まれてしまうのだった。