表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

第8話 『正義を振りかざす科学者』


「そうですね……【星】のグレランをロードローラー作戦みたくばら撒くのが手っ取り早いですね。ですが、【星】の思念の摩耗を激しくしてしまいます」


 グレラン……グレネードランチャー。確かに、地面から大きい音ばっかり鳴っていたら、驚いて顔を出すかもしれない。けれど——


「確かに、僕たちの武器は思念……つまりは精神力そのものだからね」


 けれど、思念体の武器は、その人の『ココロ』から生み出される。そこに弾薬という例外はない。


 つまり、僕のような近接武器使いは相手と近くで戦う分、危険が増すけど、武器の生成はほぼ一回で良いに対して、遠距離武器使いは安全ではある分弾薬に精神力を割かなければならない。


「……思念を使い過ぎると一時的に廃人になっちゃいますし、【正義】到着まで後もう少し時間を下さい☆」


「え……? まじか……あの濃い人来るんだ……」


 けれど、この状況でこの引き籠り植物を、打破できるのは確かに【正義】だけ。……毎回反応というか、コミュニケーションに困るんだけど。


「なので、捕まらないでおいて下さいね☆」


「……はいはい、捕まれ、捕まらないでって今日も忙しい日だよね、やれやれ。了解はしたよ、オーバー」


 念話をし出したあたりからずっと手短な瓦礫(がれき)を投げて相手の注意を逸らしているけれど、まったくもって縄跳び状態。


 寧ろ注意を逸らしてそれだから、逸らしていなかったらと思うとゾッとする。たぶんミンチにされてただろうね……こう、ビタビタ叩かれてさ……。


 そんなこんなで、気怠い口調で念話を切る。

 気怠いとは言っても任務面倒くさいとかの意味ではなくて、地面に引き篭もってツタだけ伸ばす今回のライアーに向けての面倒くさい、だ。


 とりあえずの当面の目標は時間稼ぎ。


 右足に力を込めて、軸にしながら、鎌を横向きにして、身体を回転させながら振り抜く回転斬り。


 どうしても、例えば斬り上げや斬り下げの直後などの——動作の速度的に斬れないものは鎌で逸らし。


 動作と動作を繋げていく。

 勿論、念話をしていない分は精度が高い。


「あぁああ!! もうッ!!」


 既に空いている穴、あるいは新しく地面に穴を開けて飛び出す太いツタ。


 それらは時に地面スレスレに向かってきたり、時に空中に伸びたと思えばそのまま鞭のように唸って向かってくる。


 それらを避け、伝わらない愚痴を含んだ叫びを上げた後、僕はふと肉体だったら逃れられないだろうなと考える。


 例えば、雷牙なら射撃の精密性。彼方なら感知能力。そして僕なら反射神経などの運動能力。


 思念体はその人が使用する武器に合わせて一部能力が肉体よりも特化する。だから、極端な話、肉体の方より思念体の方で訓練を積んだ方が早い時もある。


 加えて思念を使いこそすれ、肉体で言うところのスタミナの概念がない。


 裏を返せば、思い込みと集中切れがそのまま隙に繋がる……。


 大抵どんなものでもメリットとデメリットは両立されると言うけど、この現代に現れた、まるでファンタジーな能力もご都合主義ではないらしい。


「くそッ!! 【正義】は早く来ないのかよッ!?」 


 何故だろう。考えたことはあるだろうか。

 自分が愚痴のように吐いた言葉が、吐いた瞬間に現実となってしまうのは何故かと。


「この僕のッ! ことを呼んだかい?」


 あーーー……呼んだ。


 好意的に日頃から呼ぼうとは思わないけど、状況的に呼んだよ。


「ハッハッハッハ!! つまりッ! この僕のッ!! 正義が必要なわけだァ……」


「いつもはともかく、今は必要だよッ!」


 前に言ったと思う。

 僕の周りには何故濃いキャラしかいないんだ、と。いや……正確に言えばいつもそう思っているわけだけれど……うーん。


 高らかな笑い声がするけど、生憎ツタの相手で僕は忙しい。僕が思うに一番理不尽なのは、この植物型ライアーが空気を伝う音——声を拾わないこと。


「そーぅかァ……つまりッ! この僕の正義を下す時なのだなッ!!」


 まだ壊されてない家屋の屋根から大声で叫ばないで、念話使おう?

いや、ツッコミどころはそこじゃなくてさ——


「早く助けてって!!」


 そう、これに限るよ。というか本当に支援で来た……んだよね?


「【死神】クン。とりあえずはそこから4カウントで前方に離脱してね?」


 やっぱり【正義】はエスパーかって。

 なんで念話をそこで使うのさ?なんて思いながらも、彼の計算力を信頼して。


「カウント。4……3……2……1……」


 ……今!! 今向かう一通りのツタを鎌で薙ぎ払ってから、地面を踏み飛ばして前方へ。


 とは言えさっきチラッと見た限りだと、前方にしろ後方にしろ、まるでレスリングのフィールドでも作るかのように僕を囲むツタが攻撃用とは別であったはず。このままだと、ツタにぶつかるオチ————


 ふと。ふと、僕がそのツタの壁にぶつかる前に、既に僕より先にツタに到達していたものが見えた。


 ……あ、これはありがたいけど、まずい……!


 そのペットボトルのような形のそれが何かを見る前に、おそらくはと思い腕を胸の前でクロスさせ。


 ドカーーンッッッッ!!!!


 直後に爆発音。視界を赤色が染め上げる。しかし、その爆発で空中にあった僕の身体は押し戻されるわけではなく、タイミング良く、その爆発を切り抜ける。


 そして、爆発でツタの壁に空いた空間から、勢いそのままその外側へと転がり出る。


 あっつ!! ……僕も燃やす気かよ!? 僕を可燃ゴミか何かだと思ってない?


「【死神】、もう一度ロケットランチャーを撃って錯乱させる。その間に屋根伝いに来い」


 もはや、撃った犯人は明確だった。その直後、轟音が僕の元いた場所に響く。……まぁ、確かに逃げるなら今のうちだよね。


 そのまま出来る限り音を立てないようにして、【正義】と【星】のいる屋根に移る。


「【星】……まったく乱暴な脱出方法をさせるよね」


 ロケットランチャーを肩に担いだ雷牙がそこにいた。でも、【(らいが)】も僕と同じように戦っていたはず。なら、おそらくはーー


「【星】はッ! この僕がッ! 先に助けさせてもらったよ?」


 推測は合ってたけど、いちいちポーズを取るあたりが煩い。相変わらずだ。


 男性ではあるけれど、サイドテールやポニーテールにしている辺りは女性っぽさがある。


 髪の色自体は黒。自体と言うのは、髪先を銀のメッシュにして染めているからだ。


 それでいて整った顔。銀縁の眼鏡。僕のように思念体だからってわけじゃなくて、現実でもかけている。

 そして、その眼鏡の奥に宿らせている鋭い眼は明るいブラウン。


 服装はシンプルに白衣とジーパン。科学者だからなのか手袋もしている。


 って、思念体もほぼいつもと同じ格好じゃないか。

 チラッと流し見てそんな格好なのが、コードネーム【正義】こと凛導真(りんどうまこと)


「さてと。このライアーチャンにも正義の判決を与えてあげないとねェ……?」


 真は白衣を風にはためかせながら、仰々しく両腕を開き、続けてこう叫ぶ。


「今から判決を下そうッ! この僕のッ! 【正義】の名の下にッ!! 右手には罪を測りし天秤ッ!! 左手には裁きを下す剣ッッ!! 現れよッ! この僕のッ! 美しき女神ィ……【ユースティティアの女神】ッ!!!!」


 ゴーン。ゴーン。


 教会などで聞くような、そんな鐘の音が聞こえた気がした。すると、それと同時に真の側に出現した光の粒子のようなものが形を成して真の3倍ほどもあるであろう『女神』を作り出す。


「……【死神】に対しての攻撃した時間、及び攻撃し、逃がさないという意思の存在。ふむふむ……【死神】は正当防衛だし、君の罰は酸性雨でどうかな?」


「……酸性雨って……そうか!」


 一瞬、そんなので倒せるの?と思ってしまったけど。


「その通りだよ。植物型ライアーチャンはせっかくのコンクリートという地面を壊し、土を露わにしてしまった。酸性雨は土壌汚染も引き起こす上に植物は酸性に弱い」


 科学者だからってのはあるんだろうけど、それでも彼の発想力には目を見張るところがある。けれどただ一つ文句を言って良いというのなら。


「ふざけている時と真面目な時のテンションの差をもう少しどうにかできない?」


「ふふふ。無理なのだよッ! いざ何か出来ると分かってしまうとッ! あぁ!! ゾクゾクしてしまうからねェ……」


 科学者ってこんなんだっけ?


 天才と馬鹿は紙一重と言う。けれど僕が(まこと)を見ていると、それを超えた天才は天才からも馬鹿からも馬鹿馬鹿しく見えたり、理解ができなかったりするものだと思う。


「さぁて、トドメは【死神】クン、君がお願いね?」


 そして彼は自分はこれでも非戦闘員だからと告げる。勿論、嫌ではなく、ライアーの本体が出てくるなら喜んで鬱憤を晴らそう。


 そう決めて、僕はいつになく笑顔で首を縦に振った。そうなる程、僕はライアーの引き篭もって一方的に攻撃という行動をどうやら無意識にウザいと感じていたらしい。


 新たな助っ人のおかげで戦闘は終盤を迎えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ