第6話 『戦闘開始』
「僕に索敵しろって言うのね……? はぁ……いや、やるけどさ……何しろ成体のライアーだと思うし」
一歩踏み出した。いつも通り、利き足である右足から。周りへの警戒だけは怠らないように気持ちを切り替えて。
そう、たった一歩踏み出した。
別に月に人類が初めて降り立った時のような偉大な一歩ではない。
しかし"やつ"にとってそれは、たった一歩"だけ"ではなく、やつにとってはとても利益のある、偉大な一歩だった。
ここで一つ。音源探知とは知っているだろうか?
出された音から敵または自分の位置を把握すること。あるいは自ら音を出して、返ってきた音からどこにいるか把握すること。
それは主に鯨やイルカなどの『音で探知しなければならない環境下の存在』がやること。
つまり…………。
「うわぁっと!?」
ガタガタと周りが揺れたかと思えば、道路を突き破って現れる太い深緑色のツタ。
目に映る前に、反射神経で半身を逸らし、そのまま地面を蹴って後ろに飛び退くことで、何とか避けることには成功する。
「地中にいた!? ……この引きこもりめッ……」
——つまりは、やつは地中にいる何かだってこと。
僕は即座に自らの胸部に手を当てる。
「来いッ…!! 僕の『鎌』ッ!!」
『ココロ』という思念を武器に変える器官が思念体にはあるらしい。
別に心臓辺りからしか武器取り出せないってわけじゃないけど、腕から鎌生えてるって気持ち悪くない?
そんないわば僕の心の具現化たる『鎌』の柄を胸部から掴み、引き抜く。
まさに【死神】の鎌。
思念だからなのか、自分の背丈以上でもそれは軽い。振りにくくもなく、振りやすくもない丁度良い重さってところ。
「コードネーム【塔】。今回のライアーは植物型だよ。作戦はある……?」
ライアーに存在する型。僕たちが勝手に呼称しているだけではあるけれど、弱点や動作などがその型に依存していることが分かっているため、当てにしている。
そして僕は、何とか更なるツタの乱撃を避けつつも思念通話で【塔】こと彼方に連絡を取る。
「はいはーい☆【死神】のご存知の通り、このライアーは振動を感知して動いています。加えて、ツタの形状から推測するに体長はそれなりにあるかなーってとこです」
「しかもこいつツタに触れると永遠に追尾してくるんだよね……ッ!!」
無数に地面から生えて出てくる深緑の鞭を遠慮なしにザクザク切り刻みながら返答する。確かに暗闇の中で感触がしたらそこには何かあるってことだし……。
「それに関してなんですけど、俺に名案があるんです」
その時察したんだよ。あっ……絶対ヤバイ案だって。僕、さりげなく彼方に無理多めのプランをいつも提案されるからなぁ。もはや慣れの範疇なんだけどね。
とりあえずと、僕はふと思ったことを実行に移す。周りの小さな瓦礫を出来る限り掴んで、全て違う方位へと投げる。
こうすれば、作戦を聞く程度の時間は稼げるだろうと踏んだわけで。案の定、瓦礫の着弾地点に移動したと思ったのかツタがそこへ殺到する。今ならば。
「【死神】……あのツタに捕まっちゃって下さい☆」
…………………………?
「は?」
「あのツタに捕まっt……」
「……分かったから。そこは聞いたんだよ。そこじゃなくて理由だよ!?」
え、何? 僕の扱い酷くない?
ハラスメントの一種か何か??
「ライアーには成長段階があるのはご存知ですよね?」
「もちろんだよ」
大きく分けて4つ。
昼の間に溜まった負の思念が集まり夜に具現化した幼体。
その幼体が人に取り憑くことによって嘘咲人を生み出し、その人の思念を吸い取って、人間関係及び自我を破壊する憑依体。
まるで羽化するかの如く、吸い取り終わった憑依先を捨てて成長しきったのが成体。
そして、一度しかなかった事例だそうだけれど、その成体がなんらかの原因でさらに成長を遂げた完全体。
この完全体となると、その思念のせいで現実が書き換えられ歪み、結界内で起こった事象が現実に影響するようになってしまう。
つまり、結界内の戦いでガラスが割れれば、現実でも同箇所のガラスが割れる。
これらの要素は、僕たちしか知らないけど、これが理由で『嘘狩り』はライアーを放置できない。
ひとまず閑話休題。
「それで、今回確認された植物型ライアーなんですけど……俺の分析結果は成体です」
「それは昼に出現してるし、【塔】には思念の波長で分かるんだろうけど……何故?」
「成体なら、人を結界に招いて自らの子どもとなる嘘をつきたい……とかの感情を暴発させる思念を生みつけるでしょう?」
いわば拉致。幼体を作らせるための行動。
「でも、その結界……【死神】とさっき結界に入った【星】しか生体反応がないんですよね〜☆」
つまりは僕と雷牙だ。
成体は自分の結界におびき寄せて、嘘をつきたいという人間の感情や思考を暴発させる思念を埋め込む。
不幸中の幸いは、蚊が針を抜く時に痛くならないよう人間にとっては痒くなる成分を出すように、招いた人の記憶はまるで夢を見たかのような感覚であまり残らないことってところ。
「つまり……【死神】、先輩が狙いではないかと☆」
僕が……狙い?
ライアーには個体差はあるものの、そのほとんどが知性を持たない。嘘にまつわる負の感情が混ざった存在だから……当たり前ではあるけれど。
「知性がないライアーが何故……?」
「簡単ですよ☆仕組んだ誰かがいるんです。差し詰め、【星】から聞いた、先程の襲撃者あたりかなーって」
「……いろいろ疑問はあるけど、とりあえず捕まれば良いんだね?」
いや……納得いかないけどさ。
確かに危険で賭けに見える作戦でも、【塔】は根拠を持って立てている。それに僕が雑に扱われているのは近距離で行動できるのが僕だけだからだろうと容易に想像はつくし。
念話の最後についた、僕のため息とともに植物型ライアーへの作戦が開始された。
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