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第5話 『警鐘は鳴る』

 

「……この感じ……ライアー!?」


「【死神(たどる)】、【(かなた)】の結界にライアーの反応だ。場所は、お前の家の周辺だ」


「うわ、びっくりした!?」


 雷牙に驚いたのは本日2回目。

 急に思念通話飛んできたら誰でも驚くよね?

 いや、その、緊急事態なら普通に飛んでくるけど。


「『能力者』の中で、思念体の離脱までこなせるようになると、能力を持ったばかりの頃では違和感としてしか感じられないような感覚が、鮮明に、気持ちの悪い音のように聞こえる。其れは基本だろう?」


「特に、ライアーが現れた時はね……」


 気持ち悪いような音の理由は簡潔。

 ライアーは、嘘をついた人やつかれた人の、例えて言うなら『何故嘘をついたんだ』とか『嘘をつくの楽しい』だとかの嘘に対して抱いた様々な思念・感情が混ざって出来ているから。


 そんなぐちゃぐちゃなものが心地よい音に聞こえるはずがない。


「はぁ……まだおやつの時間前だよ!? 腹でも減ったのかよ……」


 ライアーが統計的に夜の方が出現率が高い理由は判明している。


 ライアーにとって、嘘そのものは思念を介してばら撒く事の出来る種であり、自らが育つための食料。つまり、昼に出"れる"のは育つ必要の無くなった程、成長した個体ということ。


 けれど、そんなものが【塔】……彼方の精神結界に今までかからなかった……?


「まじか……もしかしたら、彼女狙いかもしれないし、【星】、現状は了解したよ」


「距離的に遠距離狙撃のみの援護になるかもしれんが、【死神】、頼んだぞ」


 ぷつんと冷淡に思念での会話を切られたわけだけど、それでは、とかオーバー、とか会話終わりに入れてくれても構わないんだけどなぁ……


 いつもはこんなに遭遇することは無い……だから、サボれるものならサボりたいものだけどね。


「らいあー……?」


 思念で会話しているため、普通なら彼女視点では雷牙と話していた間は、僕は黙っていて静かだったはず。加えて言えば、真剣な表情で固まっているとかいうシュールな光景であったりもしたはず。


 そんな空間にぽつりと呟かれた、静寂を切り裂く第一声……なんだけど。


「もしかして、聞こえてた……?」


 ぽかんとさも疑問を持ってますというような表情の鬼灯さんにまさかと思って聞いてみる。


「……えっと、らいあー? がこの家の前あたりにいるって聞こえたので」


 ばっちり聞こえていたんだけど。思念通話大丈夫?機密性少なくない?


 いや、待てよ……?

 脳裏に思い出されるのは、能力者の研究機関である『異能研』でのコードネーム【正義】の言葉。


『思念というのはッ! いわば電波や波のようなものなのだッ!!』だとかだったはず。


 つまり……彼女は電波ジャックみたいなものができる……?


「いや……その前にライアーを倒さないとね」


 下手をすれば、一般市民に危害が及ぶ。だから、仕方ない——そこで僕は、近くのソファーに寝転ぶ。

 思念体を離脱させてる間はまだしも、戻った来た時に、変な姿勢だと、身体が痛いから。それはご遠慮頂きたいし。


「鬼灯さん、少しだけ待ってて」


 そう一言告げて、思念体を分離する。

 感覚としては幽体離脱的なもので、バチバチとプラズマのようなものを発しながら肉体から離れる。

【正義】曰く、本来はこのプラズマで思念体と肉体が合わさっているらしい。


 とは言え。起き上がってソファーを見ると仮死状態の自分がいるのは慣れないけれど。


「早着替え……? カッコ良い……!」


 さっきのが聞こえてたということは、まさかと思っていたけど思念体まで見えるらしい。


 鬼灯さんが興味深げに見つめている僕の服、それは白のシャツに藍色のベスト。さらに黒のロングコートに同色の長ズボン。右目にはモノクル。


 いわば戦闘モードとでも言ったところ。


「早着替えというか……あーもう。それは後で説明するから、とりあえずは待ってて」


 ライアーが近づいてきているのか、強まるその思念の反応に、早く対処しなければと思いつつ、僕は彼女に一言声をかけて家の玄関を丁寧に開けて外に出る。


「思念体だからってやっぱり壁抜けとかしようとは思えないなぁ……」


 いや、思念体なら壁なんて通り抜けできる! って思うでしょ? 簡単に出来たら楽できるし、僕もしたんだけどね。実は制限みたいものがあるのさ。


 いつかの日に雷牙が言ってたかな。


『確かに思念体はいわば幽霊のようなものだ。だが、相違点は、その人の習慣や思念が反映されることだ』


 昨日、鳳凰型のライアーを倒した時に何事も無く着地できたのは、無事に着地できると『思い込んだ』から。


 つまり、本体の時点で癖みたいに無意識あるいは意識的に習慣化、または思念体の状態で思い込むトレーニングでもして、習慣化しなければ、壁の通り抜けも容易には不可能。


 日常から壁を突き破る人は元からできるんだけど、そんな人は流石の僕も見たことが無い。


 しかも何より、本体で習慣化されているものは長く持つけれど、思い込んだからと言ってその思い込みが現実化するのは2秒ほど。


 あの時、着地のタイミングで思い込んだからできたってところ。


「さて……ライアーの結界は何処……? 昨日みたいに炎で燃えてないと良いけどさ」


 ライアーの固有結界。

 能力者の思念体のみが入れる場所で、風景は人を除いて、初めは現実と変わりない。


 ライアーはその中で暴れまわるために、昨日みたく街が炎の海なんてことはある。


 余談だけれど、昨日僕がかなりの苦労をして……いや思念体だから実質疲れているというよりかは、習慣や思い込みから『疲れたように感じて実際そうなっている』が正しいとは思うけど……。


 まぁ。そんな状態だったのは、鳳凰型のあのライアーの炎のせいでエレベーターが止まっていたからだ。

 あの時の紐なしバンジー中に思っていたのは怖さもあったけど、あぁ、下りるの簡単……だったからなぁ……。


 いつも回想しているうちに目的地なんだけど、人間考え事多いしさ。

 愚痴なんかも溜め込んでるとストレスになっちゃうし。適当な時間に吐き出すのは大事だと思う。


 …………って、静か過ぎない?


 人がいない。

 車の音などの生活音も勿論ない。

 ライアーの結界内が殺風景なのはいつもの話だけど、ライアーの動いたり暴れたりしている音の一つぐらいはあって良いはず。


 よくある住宅街で高層ビルがすぐ近くにあるわけではないから見通しが良い。


 空に敵影はなし。

 なら、何処に?

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