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第4話 『交差するデジャヴ』

 

「え? だって契約者ですから! これくらい当然です」


 自信満々に言われても。

 特に胸を張る。それを背後から抱きついたまま物理的に実行されているから、思春期ちょい越えの健全な男子には何とは言わないけどきつい。


「僕は皮肉にも今現在彼女はいないし、契約……? とやらもしていないよ!?」


 無意識に個人情報ダダ漏れさせてしまったことに気付くが、まぁ……そこまでの不利益はないし……? ご愛嬌。


「覚えて……ない………?」


 腕を緩めてくれた……?

 いや、ありがたいことなんだけど。

 ふと、彼女が悲しんでいるような、本当になんとなく。そんななんとなくを感じて振り返る。


 ツーーっ。


 首を傾げている彼女の眼から流れ落ちるもの。喜んだり、悲しんだり、主に人が感情表現をする時に流す流体。


 今の状況から推察するに、それは悲しみの涙。


「え、あ……んーと……大丈夫?」


 普遍的過ぎる。

 なんだこいつ、涙流してる人に対してそんな言葉しか掛けれないのか……あ、こいつ僕だったね……。


 いや、寧ろ言い訳をさせて欲しい。

 後ろから正体不明の女の子に抱きつかれた挙句、契約者と呼ばれ、記憶違いと言うと泣かれる……それって動揺しない?


「ふぇ……あ、ううん。何でもないです」


 自分自身でも何故涙を流しているのか分からないように見えたのは気の所為なのか。


 彼女は、袖で自らの涙を拭う。


『他人の迷惑にならないなら、したいことをしろ』兄さんの口癖だった。


 俯いて涙を流した女の子がいる。

 僕にそれを記憶にないから、あるいは面倒くさいから、と見逃せるほどの無情さはなかった。


「僕の名前は、天道辿(てんどうたどる)。君の名前は?」


 ふと無意識に、自分の涙を拭い続ける彼女の頭を優しく撫でていた。

 初対面の女の子に普段からこうやって接していたり、慣れてるわけではない。


 寧ろ、幼馴染みくらいしか女付き合いはない……って自分で言ってて悲しくなりそう……


 けれど、なんだか……こんな顔をさせてはいけないと条件反射的に……ある一種のデジャヴ的に思う自分がいた。


 撫でられながら、名前を聞かれたと認識すると彼女はおずおずと多少なりは躊躇しながらこう答える。


「……鬼灯花音(ほおずきかのん)みたいです。すいません、会ったばっかりなのに……口が先走ってしまって……」


『みたい』?


 思い出してみれば、鬼灯花音と自らを呼ぶこの少女にはライアーの反応があったわけで。

 しかし例えば、ここで彼女が実はライアーであって、嘘をついて僕を騙そうとしていたとしても何も彼女にはメリットがない。


 それに彼方が言うには、『ライアーらしき反応』。つまりは、完全にライアーではない。


 単純に記憶が何かと混同していると見るべきなのか……とりあえず。


「鬼灯さんね。でもせっかくだし! これから仲良くすれば良いと思うよ?」


 そんな推測よりも、僕は彼女を笑顔にしたいの一心で言葉を選び、声をかける。

 相変わらずのお人好しだねと自分でも思う。


「……えと……辿くん……?」


 ぐはッ……!! 本人には決して言えないけれど、涙を袖で拭ってからの上目遣いからの名前プラス『くん』呼び……!?


 僕のスタイルとしては、名字プラス『さん』呼びをしないと違和感を自分に感じてしまうわけだけど、何故こうもこの子は僕に刺さることをしてくるのか。


 いや、あえて名前呼びすることでお友達としてお近付きになりたい度を示しているのか。

 それともさっき口にしていた『契約者』なる事柄が関係しているのか……うーん。


「そ、そう。辿くん」


 自分で辿くん言うかよ。


 いや、正直さっきから心中恥ずかしさと俗に言う萌えで穏やかじゃないのは確かなんだけどさ。ぎこちなさすぎる。


 けれど英語だと直訳で『貴方は辿ですか?はい、僕は辿です』という応答があるわけで。

 強ち間違いってわけでもない気がする。


「……辿くん。ごめんなさい、助けてもらった記憶があるのに……」


 ぺこりと丁寧にお辞儀をされてしまう。

 やっぱり記憶喪失的なものなんだろうけれど、少しだけデジャヴは残ってる的なものなのかな……? てっきりそう言うものは、アニメや小説のようなフィクションの世界にしか見られないと偏見を抱いていたけど。


「いやいや! 僕こそごめんね。そこまで拒否したいわけじゃないんだよ」


 まだ確かに謎は多い。

 彼方曰く、『突然現れた』らしいし…それなのに記憶が元はちゃんとあったみたいな言い方をする。

 それに仮にその記憶があったとして、『契約者』とは何だろう?


 僕の記憶上、鬼灯さんとは初対面。

 ファンタジー的な単語が出てくるような要素自体もこのご時世だし、『能力者』を除いてまったくないと言っていい。


「そ、そう……? 良かった。なら……改めて、宜しくお願いします」


 そんな僕の心中をよそにして、彼女はその透き通るような声で、それこそまるで彼女がどこかのお嬢様でした! なんて言われても納得するレベルの優雅さでお辞儀をする。


 それはさっきの謝る時の悲壮なお辞儀ではなく、前向きになってくれた雰囲気を醸し出すようなお辞儀。


 まだ彼女自身、自分の記憶と発言に戸惑っていると見られる節はあるけれど、僕への安堵なのか、あるいは彼女自身の心の強さなのか。切り替えが早い。


「うん、宜しくね。あ、覚えてたらで良いけど……鬼灯さんの年齢を教えて欲しいかな」


 さっきから、僕も実は出所の知らない親近感を無意識に抱いていたらしく、タメ口で話してはいた。

 けど、これで20歳以上だったらとふと思い至って出来る限り丁寧に聞いてみたわけだけれど。


「……うーんと、貴方と同じだと思います」


「……僕と同じ?」


 少し呆気に取られて、思ったことが馬鹿正直に出てしまっていたらしい。


 鬼灯さんはその質問に対してはい、と首を静かに縦に振る。


「変な言い方なんですけど、私の記憶の中の貴方は、確か私と同じ年齢だった気がして」


 "私の記憶の中の貴方"?


 デジャヴの話なんだろうけど、なんだろう……この違和感。

 僕のことを言ってるのに、僕のことを言ってないみたいな。


 幻覚だとか、ライアーの何らかの影響か、で片付けれる言い方なのに、何処か僕の中で引っかかる。

 これは……………?


 そう戸惑いつつも、推測してみようとした時だった。頭に甲高い、不協和音が響いたのは。

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