第12話 『過去の産物』
さて、とても余談だけど、一般的にビックリマークなどと呼ばれているものは、エクスクラミネーションマークと呼ぶらしい。ただの雑学だけど。
閑話休題。
「この部屋にはッ! 思念を感知するセンサーがッ! あるのさァ……」
いや、まさか。僕は、真がそこまで言ったその時、一つの仮説に辿りついていた——それを真は読み取ったのか、あるいは予測済みだったのか。
「ああ。花音チャンはッ! この部屋に入った時からッ! 思念体の反応が出ていたのさァ……」
例外という言葉がある。それは読んで時の如く、例の外……つまりは今までに無かった、または何らかの法則外の物事のことを指す。
能力者が現れて2年程。日にちとして換算するに730日。長いと思っても良い、しかし今までに無かった存在が確認されたりするようになってからとして見ると短い。
例外があるのは当たり前ではある。
「でも、鬼灯さんが思念体なら触れたりできないはずじゃ……」
コードネームを持つほどの適合者である僕らなら見ることは確かに出来る。けれど鬼灯さんを回収した時。あの時、僕は鬼灯さんに触れることが出来ていた。いくら見えていても、思念体は思念体でしか触れられないはずなのに。
「……極端に考え過ぎだよ、辿クン」
僕を片手で制止して、彼は語る。まるで自分の想像を超えた芸術作品にでも出会ったことに対して感動したかのようなリアクションで。
否、真にとっては例外というのは、未知の存在に見えるから、実際に感動しているのかもしれないけれど——彼は語る。
「例えばッ! この僕たち人間がッ! 肉体50%、思念体50%で出来てると思うかい? ナンセンスだッ!! 肉体も思念体も、100%で出来ているんだよッ!!」
鬼灯さん、展開が分からずあたふたしているけど、大丈夫かな?——なんて、そんな僕の心配は見ず知らず。彼の仰々しいまでの語りは止まらない。
「肉体に思念体が重なってできているのだッ! 哲学者のデカルトは物心二元論などと良く言ったものだッ!!
けれどォ……花音チャンは違う。重なるではなく、混ざっているゥ……おそらくッ! それはッ——」
彼方の軽快な口調で放たれた台詞が、僕に真の言葉のその先の答えを知らせる。
「——ライアーの力」
「ご名答。彼方クンが感知してくれた、ライアーの何かがッ! 彼女をそうさせているッ! あるいは……保たせている」
当たったらしい。とは言え、ひとり気にふふふと唸っている様は、客観的に見れば不審者である。
補足をしておくと、と真は続けて、物心二元論とは簡単に言えば、精神ないし心と肉体は、別のものであるという理論だと語りに語る。そして一瞬で雰囲気を切り替えて。
「……そして彼女は、何も着なければ、辿クン以外には見えない。感知できないのさ」
彼女は無意識で、思念を飛ばして、僕にしか見えない状態を作り出している。ただし、服を着れば、その思念はカットされるらしい。そして真は付け加えて。
「……しかし、辿クン。思念体がライアーに殺されると、普通ならどうなるか覚えているかい?」
勿論。それは常々、戦闘員としては特に気をつけていることだから——と、僕は、切り替えた真の質問に答える。
「思念だけあの世行き。肉体は、心臓や臓器は無事だから脳死状態」
そこまで言って。
ようやく僕は、それが思考を誘導されていたことに気付いた。誘導された果てにどんな答えに辿り着いたのか。簡潔にして簡単。
「鬼灯さんは……ライアーに直接殺される……!?」
ここまで来て初めて。
「らいあーって辿くんが戦ってた化け物のことだよね……?」
ある意味正統なタイミングで、鬼灯さんは口を挟む——僕は、苦虫でも噛み潰した……勿論そんなことはやったことないし、食虫文化なんて無くて良いと思っているけれど、ともかく、そんな表情でその問いに首を縦に振るという行動で肯定を示す。
「……何となく自覚はあるの。それにあの化け物……何処かで……?」
彼女の直感? 最後の方はなんて言ったのか聞き取れなかったけど、自覚がある……?
「あくまで推論だよ。科学者としては試すべきなんだろうけど、この僕はそんなことをする程マッドじゃないしさ。……それに、若干時間もない」
時間……? 確かに『時は金なり』なんて諺はあるけれど。現状は、急ぐような案件は無いはず。僕が知り得る情報内での現状では。
次の一言は至極当然、理由だろう。それは、確かに分かっていたんだけど。
「禁忌区画ってあるよね? あそこから実は『原初の完全体』の眷属が流れ出てしまってさ?それに対応しなくちゃならないのさ」
とても、とても大事なことをさらっと軽快な口調で、言われた気がしたんだけど、ピンと来ない。……流れ、出た? あの区画は確か、守り人が居たはず。
「今まで、眷属が溢れ出ないように複数人に守り人として戦ってもらってたんだ。けれど、どうやら『原初の完全体』の封印そのものが弱くなってるらしくってね」
つまり。
「主の復活のために、眷属が増員するってことね……いささかハロウィンにしては質が悪い」
『原初の完全体』と『禁忌区画』。
能力者が現れ始めた2年前、初めて完全体となったライアーとその眷属のライアーによって破壊された都市の区画。
資料でしか見たことはないけれど、完全体となったライアーは自らの結界内の出来事を現実に反映させることができる。
皮肉にもその事実が分かったのは、このライアーからであったそうだ。都市一個が壊滅、『嘘狩り』の創始者であった【愚者】が身を挺してその区画内で封印。完全体になる前に倒そうとしているのはこのように都市壊滅を防ぐため。
なのだが。
「そうさッ! 実に悪い。その眷属は、通常のライアーと違って人の嘘に関する思念を食い漁った挙句、その思念を主に献上することによって主の復活を目論んでいる」
曰く、『原初の完全体』の暴れた『厄災の日』にも主のために街を壊していたらしい。そのことから『眷属』と言われていると。
「やつらには意思があるッ! 主への忠誠心がッ!! そこらのライアーとは違う」
ということは、だ。流れ的に考えて僕たちに出動要請ってところだろうか。
なんだろう。とても緊急事態の多い日だよね。確かに僕としては、仕事である以上はこなすのだけれど、都市がまた滅ぶかもしれないなどというこの事態。面倒くさいどころの話ではない——などと思っていた僕の心境を見てとったのか。
「君一人では、負担が大きい。そこで、だ。群れで行動する彼ら眷属に対抗するために、【星】【審判】そして……花音チャン、とこの僕と行動を共にしてもらおうかな」
そう、真面目な口調と顔で、彼は最後に告げた。




