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第9話 『憂さ晴らしに斬りました』

 

「なら、決まりだァ……ふふふ」


 【正義(まこと)】が左手を勢いよく、この良く晴れた空に掲げれば、その動きに連動するように、『女神』も左手に持つ剣を空に向ける。


「……雨雲……!」


 すると、ちょうどツタの多く生える地点の上空に、突然雨雲が発生し、雨を降らせていく——勿論僕たちは範囲外から見ているだけなのだが、それはそれは普通の色をした毒の雨。俗に言う酸性雨。


 おそらくその雨粒は、何処かに溜まることはなく、大地へと染み割っていくだろう——いや現在進行形で染み渡っているかな?


 でも、可哀想と言えば可哀想。


 なんせ……ここは安全だ、とか確信して、引き篭もってた場所に毒を流し込まれるわけだからね……けどそれは僕にした分のお返しだと思って欲しいものだよ。


 余談なんだけれど、酸性雨が発生している間大袈裟(おおげさ)に笑っていた真の隣にいた——雷牙の表情から見て、雷牙も真に助けられるまでは手出しができずにストレスが溜まっているみたいだし、ザバゲーでもオフの日にしに行くと思う。彼の趣味だからね?


 ともかく。因果応報とはよく言ったもの。


 必ず、という保証なんてこの世にガチャの天井ぐらいしかないわけだから——否、あれも課金じゃないと狙ったキャラが確定するわけじゃないか——まあ。それでも、良い事をしたら返ってくるし、悪いことも返ってくる。


 僕は、目に見えてしまうほどの速い速度で、(しお)れて枯れていくツタとその先にあるであろう本体を哀れに想う。


 ゴトゴトゴトゴト。


「来た……!」


 あたかもプールで溺れそうになった挙句、とりあえず顔を出したかのように、苦し紛れに地表に現れる本体。


 残ってたツタを適当に振り回したりしてる辺りがまさに苦し紛れ。何度も言うけど、このライアーは音源感知だからね。


「このままッ! 枯らしてもッ! 良いけどォ……憂さ晴らしはしたいだろう?」


 ふと指揮者のように悦に浸っていたであろう真が振り返り、思い出したかのように僕に聞く。


 いや、まあ。聞いてくれるのは、今の僕のストレス的にありがたいけど、やっぱり語尾で急に真顔になるの止めて!?


 真、君漫才やったら売れるレベルだよ!?


 こほん。


「……勿論。超!! 断罪させてもらうよ。こっちが攻撃できないからって調子に乗ってた罪は重いからね」


 二人から見てもきっと分かるであろうほどに、笑顔に怒りを込めていると思う。きっと二人から見れば、筋が顔に浮かんでいるだろう———


 さて、憂さ晴らしタイムだ。


 そんなことを自覚しながら、そう思って鎌を肩に担いでから、足を進める。


 足取りがとても、とても軽い。

 昨日の階段を登っていた時と確実に真逆。

 僕だけ重量が6分の1になった気分——月で歩いたらこんな感じなんだろうなと思いながら、屋根の上を伝っていく。


 大事なことだから、もう一度言おう。

 足取りがとても、とても軽い。


 いや、実際に軽いかもしれない。思念体は、思い込めたことが何秒かだけ、事実になるからね?


 ともあれ。


 真下に見えるは、もがいている巨大食虫植物型のライアー。後は真っ二つにして、トドメを刺すだけ。


 獲物たる『鎌』は持った。準備オーケー。

 既に酸性雨は解除されていて、飛び込んでも問題なし。着地するところだけは選ばないといけないかもしれないけれど。


「嫌がらせを受けた分……いや、それ以上にお返しするよ……!!」


 ライアーが形を成す法則はまだ分かっていないけど、今回は土に引き籠るとか面倒くさ過ぎる。だからお返しをしてやろうと、屋根の縁から軽く跳躍して飛び込んで。


 僕は、昨日も同じような倒し方をしたなと一瞬思い、苦笑いを浮かべながらも、身体を地面に対して水平に、鎌を垂直になるように空中で体勢を整えて。


「はぁああああああああ!! この引き(こも)り野郎ぅおおおおおお!!!!」


 縦に回る駒のように、あるいは電動カッターのように回って、回って、回って、回って。


 雄叫びを上げたその刃は、ライアーの身体に斬り入っていき……遂にそのライアーを真っ二つに切り裂く。


 僕は着地も気を抜かずに、回転のタイミングを見計らって、足を地面に対して垂直にして着地。


 うーん。若干フラっとするよ。

 回転斬りは慣れてたつもりだけど、張り切ってやったからかな。


 ほら、人間、モチベーション高い時とかにやるものほど良く出来たりするでしょ?

 単純に考えてみるに、それだと思う。


「【死神】、お疲れ様だ」


 どうやら見ていたようで、淡白に労いの声をかけてくる雷牙。


「結界が崩れていってはいるし、もう大丈夫かな。【星】ありがとう」


 結局のところ、僕が感謝を伝えたところで、雷牙には当然のことをしただけみたいな顔をされてしまうわけだけど、日頃の感謝って大切だしさ——というわけで感謝を伝えるけど、反応は予想通り。


 ああ。と一言で返されるだけ。


 いや、最早一言未満では? 定義上は一言に入るはずだけれど、個人的な感覚ではそう疑問に思う。


 雷牙のことは、仕事の同期だし、なにかと一緒に行動するからお互い分かり切っている部分が多いからそうするのだろう。


 それは信頼という形の、その産物の受け答えだと僕には推測されたよ。


「さてさて。辿クンにはこれからしてもらいたいことがあったんだよ」


 …………してもらいたいこと? 救援しに来ただけではなくて……?


「真面目な口調ってことは、大事な案件だよね」


 さっきから文句言ってるけど、【正義】こと(まこと)博士は、口調が変わる。


 簡潔に言うと、内容の重要性や彼のテンションが簡単に分かる。

 たまにどうでも良いことを真面目な顔で話されるのは、そんなことを思っている僕に対する弄りなのかは知らないけれど。


 真面目な顔の彼を見て、心中苦笑い。


「勿論だよ。『異能研』に来てくれないかな? 例の女の子と一緒に、ね?」


「了解したよ。雷牙は護衛?」


「その通り。彼には二人の護衛をさせるよ」


 もう話は通してあるらしい。

 もしかしたら【(かなた)】からの新しい指示かもしれない——にしては僕に念話来てないけど……彼方ならあり得そうで怖いんだけどね。


 結界。つまりは、ライアーの作っていた世界は硝子がひび割れていくかのように、しかし、静かに崩壊していく。このままここにいても、別に問題はないけど、そのまま元の場所に戻されるだけなので——


「なら雷牙、護衛は頼むよ」


「ああ。任せろ」


 思念体は別に元の身体がある場所にわざわざ行って戻る必要はない。


 終わったら元の身体をイメージして戻るだけ。今、僕が二人が消えたのを見たように、他人から見れば瞬きの間に消えたように見える。


 まだ、気は抜けない今日だけれど。

 ひとまずは、『異能研』に行くことに決め、僕もまた思念体を解除して、元の肉体へと戻ることにした。

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