プロローグ 『鎌を持つ青年』
初投稿になります。温かい目でお願いします。
カツン……カツン……カツン……。
一定のリズムを刻む音が非常階段に響く。それは、先程までの静けさを切り裂く足音。誰のものかと聞かれれば、それは僕のものだ。
「怠い、気怠い。何故僕がこんなに階段を登らされる羽目になるんだよ……」
そもそもエレベーターとか言う文明の利器があるから、階段がさも文明の利器ではないように思えてしまうだけで、あれもまたエレベーターのない時代からしてみれば文明の利器だ。
僕みたいな、出来れば面倒くさいことはお断りな人にとっては、確かに凄く便利なんだよ?
でも、技術の進み具合が速いこのご時世ではどうしても階段を怠く思ってしまう。
なんて。そう考えないと足を止めてしまいそうだから、僕はそんなことを思考しつつも足を進めている。
やっと見えてきたのは、このビルの屋上へと続く扉。やっとこの登るとか言う作業から解放されたということと、やっと『任務』に移れるという解放感から申し訳ないけど蹴り飛ばす。
ヒュオオオオ……。
暗闇の中、ビルとビルを駆け抜ける隙間風。
最近は夜も気温が高い日が続いているため、非常に涼しく感じる。
「こんな任務がなかったら、もっとゆっくり月でも見ていられるのになぁ……」
周りのビルよりも少しは低いビルの屋上にて、僕は愚痴のように呟く。せっかく屋上まで来たのにもったいないな——と、愚痴を吐いて。
突如そこに、声が一つ。
「今は任務だ。集中しろコードネーム【死神】」
凛とした声。悪く言えば、感情の一切を省いたような冷淡な声。
「流石に分かっているよ、僕とて『嘘狩り』の一員だからね」
全身黒の、まるで喪服のようにすらっとしたその装束の僕に対して声をかけたのは、コードネーム【星】
しかも実際に声をかけられた訳ではない。ではそれは何だと思う? 思念だよ。俗に言う『こいつ、直接脳内にッ!?』というやつなのさ。つまり、彼の本体は遠くにいる。
「『ライアー』は?」
「……現在、其方に誘導され向かっている」
「了解。合図、頼んだよ」
気持ちを切り替え、僕はビルの端に立つ。いや、高いよ。これでもビルの屋上なわけで、当然の感覚ではあるけど、ほら、実際にやろうとしたら怖い的なやつってあるでしょ?
いくら今からやるのが紐なしバンジーとは言え。任務は任務。いくら気怠いと言えど、僕はやるならやる主義。ぐずっても、やるべきことはやらなきゃいけないし。
「カウント、3、2、1……」
【星】の合図をもとに、その端を蹴る。
宙を舞う身体。しかし、翼はなく。瞬間的に重量の手に掴まれ、ただただ落ちていく。
ーーー業火に焼かれた街の景色へ。
真っ赤に染まっている街。他のビルからは、まるで鮮血のように炎が吹き出して。その鮮血は連鎖していきビル一つすら崩壊させていく。
そんな状態をちらっと見てから僕は、胸に手を当て一言冷静に呟く。
「……『鎌』」
側から見れば摩訶不思議。天才手品師も驚くであろうこと。僕は胸……正確には僕の『ココロ』から僕の背丈以上の大きさを誇る鎌を取り出した。
それをしっかり握りしめ、改めて見下ろす眼下。
現代社会ではあり得ない、大きく派手な赤のグラデーションの翼を持ち、空を飛翔する鳳凰のような何かが丁度真下に見える。通過するタイミングの予測は相変わらずばっちりのよう。
「……断罪、させてもらうよッ!!」
身体を空中で捻り、鎌を最大効率で振るえる体制を整える。蹴る地面がないからこそ、後は丁度接触するタイミングで振り切るだけ。
ーーー迫る。迫る。迫る。迫る。
ついにやってきた鳳凰と接触する瞬間。そこで僕は解き放たれたバネのように得物を振り切る。
僕のそれは見事に首に直撃し、首を刈り取る。
鳳凰のような何かは、自らの首が斬られたことを感知すると甲高い悲鳴を上げようとする。
もちろん、時は既に遅い。首が刈り取られた以上は、声はおろか悲鳴なんて上げられるわけがない。
問題は着地。化け物をカッコ良く退治できたところで着地失敗で御陀仏なんて笑い話にもならない。
けど、この身体……思念でできた身体なら。
そして、僕はそのまますっと地面に着地して、先程鳳凰がいた場所を見上げる。
下手したら着地失敗なだけに、胸を撫で下ろしながら、見上げる。
「……終わったね」
その鳳凰の姿は、空気に溶け込むかのように、赤い残滓を残して消え去っていた。
「『鳳凰型ライアー』の消失を確認。コードネーム【死神】ご苦労様だ」
「相変わらず無茶な作戦を立てるね。【塔】は」
【星】は、労いの言葉を一つかけた後、即座に思念を切ったようで、愚痴に対する返答は返ってこない。
「任務終わったらこれか……仕方ないね。はぁ……とりあえず帰ろうかな」
そして、相変わらず任務の時は冷淡と言うか熱心と言うか…などと思った僕も、その場所から姿をフッと消した。