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無敵の白雪姫

作者: 白澤 五月

おとぎ話の"白雪姫"が

毒リンゴに自力で勝てたらという

アホな感じのお話です。

ぜひ気楽に読んでください!

 今から1000年ほど昔、

 あるところに雪のように真っ白な肌をもった

 美しい姫がおりました。

 その名は白雪姫。

 母親は小さい頃に他界し、

 父親は再婚して数年後に白雪姫をおいて

 病死してしまいました。白雪姫は父親の再婚相手である

 お妃様にその美貌を妬まれ、

 毒リンゴで殺されそうになりました。

 しかし、通りかかった王子様に愛のキスで

 助けてもらいました。

 そして両思いになった2人は結婚し、

 末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。


 ーーなんて、そんな話もあったらしいけど、

 それは皆の知る"白雪姫"。

 これはちょっぴり変わった白雪姫のお話。


  ⭐ ★ ⭐


「あぁ~暇ねぇ。

 あなたたち小鳥は空を飛べていいわね……」


 そんな気だるげなことをこぼしたのは

 雪のように白い肌、艶やかな黒い髪の

 美しい姫、白雪である。

 肩や手には小さな小鳥が止まっている。

 物憂げな顔は誰もが儚げで美しいとうっとりと

 頬を染めるだろうが彼女の本心は

 "あぁだるい、つまらない"という女子力の

 底辺もいいところである。

 彼女の容姿は誰もの目を引くものだが

 いまいち乙女としての魅力がないのが問題だった。

 チュンチュチュン

「え?何?お前は女子力をあげて

 素晴らしい王子様を見つけろ、だって?

 生意気な口をきく小鳥さんたちね……!

 …………私だって王子様くらいいるわよ!」


 朝っぱらからそんなくだらない喧嘩を繰り広げている姫

 を見た妃は、にまにまと笑った。

(……かわいそうな子ね。世界で一番美しいのは

 私。鳥にまでバカにされるなんて……ふふふ)

 妃は白雪の義理の母親である。

 白雪の本当の母親はずっと昔にこの世を去っており、

 父親が現在の王妃と再婚した。

 だが王妃は自分の美貌にしか興味はなく、

 夫が病気になっても大して気にも留めなかった。

 そのため白雪の父親は妻に看取られることなく

 この世を去っていった。

 それから妃は夫が残したこのお城とお荷物の娘と共に

 平和に過ごしていた。


「鏡よ、鏡?世界で一番美しいのは誰だい?教えておくれ」

 王妃は魔法の鏡にこの言葉を毎日唱える。

 もちろん返ってくる答えはひとつ。

 "あなた様でごさいます、お妃様。

 世界で一番美しいのはあなたです"と。

 しかし、今日もそう返ってくるはずだったのだが

 "それは白雪姫でございます"

 と魔法の鏡は答えた。

「……何を言っているの?……分かったわ、もう一度聞くわね。

 世界で一番美しいのは、誰?」


 "それは白雪姫でございます"


 何度唱えても望み通りの答えは返ってこない。

「ふざけないで!あの小娘が私より美しいなんて!

 信じられないわ!!」

 魔法の鏡の言葉に激怒したお妃は

 そして王妃は猟師を呼んだ。


「白雪姫を殺しなさい。そしてあの憎たらしい

 黒髪を切り取ってくるのよ」

「……は」

 がっちりとした体つきの猟師は彼女がお城に

 嫁いでくる前から従えている男だった。

 きっと今回も妃の命令をしっかりとこなすことだろう。


「……やばいわね」

 白雪はその2人の話を聞いていた。

 この白雪姫はあのお話に出てくる

 鈍感でピュアな白雪姫ではないため盗み聞きなど

 あたりまえだ。

(困ったわ……お父様が先日亡くなったのに

 こんなことをするなんて。……とっとと逃げましょう)

 白雪は先ほど喧嘩してた小鳥の落ち着かない様子を見て

 王妃の話を盗み聞きしたのだった。

 もちろん、白雪はただ小鳥と毎日喧嘩しているわけではないのだ。……まぁ喧嘩がほとんどだが。

 それにしてもこれではまるであのおとぎ話の"白雪姫"の

 ような展開だ。

 同姓同名だし、容姿も境遇もよく似ている。


 もし、白雪があの"白雪姫"の主人公だったら

 お話では猟師が

 白雪を助けてくれるはずだが

 そんなことを信じてゆったり待っている余裕がない。

 白雪は長くお城を開けることを決意し、

 食べ物や衣服などを準備しはじめた。

(まさかこんかことになるなんて……本当についてないわ)

 白雪はその日の夕方、1人森に

 出掛けるフリをして逃げたのだった。


  ⭐ ★ ⭐


「あぁ~暇ではなくなったけれど

 面倒なことに巻き込まれたわ!」

 1人歌を歌いながら歩く白雪は

 お話の通り小人の家がないか探していた。

 もちろんその話は1000年ほど前の話である。

 でも少しでも生き延びるための参考資料である。

「……ねぇ小鳥さん。私、今大変なの。

 小人さんたちのお家を一緒に探してくれない?」

 白雪は大きな目をぱちぱちと瞬かせ、

 可愛いポーズで小鳥たちを見つめた。

 ……が、しかし白雪のことをよく知っている

 小鳥たちは騙されなかった。

 ばしっと羽をあてたり、小さな翼で小石を投げたりした。


「痛っ!まったく可愛くない小鳥たちだわ。

 もうごはんあげないんだから……!」

 周りがだんだん暗くなっているのにも

 まったく動じない白雪はずんずん森の奥へ

 と進んでいく。

 するとひとつ小さなお家が立っていた。

 小鳥たちもピチチも嬉しそうに鳴いている。

「ここね?……あら思ったよりも小さいわね」

 順調に小人の家を見つけた白雪は

 小鳥たちをつれて中へ入った。

 小柄で華奢な白雪にも少し小さく感じるものである。

「……ふぁぁ。"白雪姫"のお話だとこの食事は確か小人たちのものなのよね。このふかふかなベッドと彼らたちのだし。……よし、もってきたもので対象しましょ」

 そういって白雪が取り出したのは生の野菜に寝袋。

 野菜は勝手に厨房から盗んできたもので、

 皮ごと食べられるキュウリやトマト。

 寝袋はアウトドアが好きな使用人のものを勝手に拝借してきた。

 目に痛いオレンジだがそんなには気にしない。

 がぶりとキュウリを食べると少しだけだが空腹が

 おさまり、眠気が襲ってきた。

 野菜をぺろりと平らげると白雪はもそもそと寝袋に入った。

(……うーん、ぬくい。姫ってこんなものだったかしら。

 まぁでも昔から"白雪姫"のお話は聞いて育ったから

 勝手に人の家で寝るのはあまり違和感ないわね)

 白雪姫は生野菜など抵抗なく食べはしないのだが。

 白雪はポケットに入れたエサを小鳥たちに与えると家の

 はじで寝袋の中で眠りについた。


 ……一方その頃猟師は。

「姫様ー!?白雪姫様ー!?どこにいらっしゃるのですか!危険ですので私のもとへ来て下さい!姫様~!!」

 美しい白雪姫の安全を守るため1人捜索してくれていたのだが、

 もちろん先に逃げることに成功した白雪は彼がそんなことしているとは知らなかった。


  ⭐ ★ ⭐


 ピチチチチ……

 窓から光が差し込み、温かな温もりを感じる。

 しかしダイレクトに当たらないのは何故なのか……。


「……なんだ、なんだ。このタラコは」

「不思議な生物だな。……まさかエイリアンとかか?」

「え!本当か!?」


 ガヤガヤと騒がしい。けれど目を開けても前は

 オレンジ色で何も見えない。

 ……そうだ、これは寝袋だったと

 白雪は寝袋のジッパーをゆっくりと開けると

 7人の小人のおじさんたちがこちらを見ていた。

「……ん?……あ、どうも。お邪魔してます」


「きゃ、きゃぁ~!!!」

「な、何この人!勝手にお家に入らないでよ!」

「セクハラ!この変態!!」


 あまりにも大きな声に耳を塞ぐ。

  普通逆の反応のはずなのだが。

 やはりお話の"白雪姫"通りにはいかないようで。

「まぁまぁ、少し落ち着いて。お茶でも飲んでくださいな」


『お前は落ち着きすぎだろ!!』



  ⭐ ★ ⭐



「……で、君は我が国の姫、白雪姫なんだね?」


「そのとおりです。

 この黒い髪は珍しいからこれが白雪であることの証明になるかしら。……そうだ、あなたたちも聞いたことがあるでしょう、

 "白雪姫"のお話を。今私はそんな感じの真っ最中なの」

 タラコと呼ばれた使用人自慢の寝袋を少し同情しながら

 片付けると7人の小人たちは食事を出してくれた。

 白雪は出された温かなスープを口に含むと自然に笑みがこぼれた。


「"白雪姫"の話だろう?もちろん、知っているよ」

「……悪い王妃に殺されそうになるっていう話だね?」

「ふむ……確かに雪のように白い肌に」

「艶やかな黒い髪」

「極めつけにすごく綺麗な顔……」


 じろじろと小人のおじさんたちが白雪の顔を見つめると彼女はわざとらしくにこっと笑った。

 もちろん自分のことを信じてもらうためなら

 少しくらい笑うことも惜しまない。

(……信じてよ?私の命に関わっているんだから……)


「……でも白雪さん、姫としてはしたたかすぎない?」


『確かに』


 満場一致で重なったその言葉に白雪は舌打ちをうった。

 なぜそうなるのか、と抗議の意を込めて。


「……というのは嘘だよ、ウソ。

 こんなに綺麗な子は見たことがないからね」

「あぁ、だからそんなに怒らないで」


 あわあわと取り繕う小人たちだが

 白雪は彼らを睨みつづけている。

 美人の怒った顔ほど怖いものはない。


「ごめん、ごめん。リンゴ食べるかい?」


 丸々とした1人の小人おじさんがツヤツヤとした

 赤いリンゴを取り出した。


「おい!白雪さんは仮にも"白雪姫"なんだぞ!

 そんなの怖くて食べるわけが……」


「え!くれるの?わーい!」


 小人が差し出したリンゴを手に取ると

 白雪はかぷりと躊躇なくかぶりつく。

 艶やか皮の赤と果汁溢れる黄色い実がまた堪らない。


 その光景に7人全員の小人たちが固まった。

 まさかそこまで警戒しないなんて、とでも言いたげだ。


「おいおいおい!白雪姫の話知らないのか!?

 白雪姫は王妃からもらった毒リンゴで死にかけるんだぞ!?

 そのリンゴは実は毒入ってるかもしれないんだぞ!!」


「……ん?そうですね、知ってますよ。

 はむ……はぁ!美味しかった!ごちそうさまです!」


 ぺろりと指先についたリンゴの果汁を舐める

 白雪の心からの微笑みを見ているとどうも

 怒ることができない。

 これも彼女の白雪姫のような美しい容姿のせいなのか、それともどうも憎めない彼女の性格のせいなのか。


「……嬉しそうな顔が見られてこっちも

 嬉しいけどねぇ、白雪さん。

 もっと警戒心を持ってくれよ。俺たちも気が気でない」


「……分かったわ。心配してくれてありがとう」


 白雪はこの日から7人の小人たちと暮らすことを決まった。

 最初は乙女のような反応をしていたおじさんたちだが、

 白雪の素直さに触れていき家族同然に思うようになっていった。


  ⭐ ★ ⭐


 ……そしてその頃、王妃様は。

「何ですって!?白雪が見つからないなんて

 ありえないわ!お前、しっかりと探したんだろうね?」

 世界一の美貌をもつはずの王妃は

 顔を真っ赤にして怒鳴っていた。

 顔には青筋が浮き、お世辞にも美しいとはいえないものだった。

「はい、もちろんでございます。

 王妃様の言うとおりにあちこち探しましたが白雪姫は見つかりませんでした」

 王妃はぎりと爪を噛むと、

 ひざまづく家来の横っ腹を蹴った。

「使えない家来ね!

 とっととここから出ていきなさい!」

「うっ……はい、申し訳……ございません」

 1日中白雪姫を探し歩いていた家来は

 蹴られた横っ腹を手で擦りながらその場から

 出ていった。

 もちろん王妃は白雪姫をどうにかしてこの世からなくそうと

 考えた。

(……もしかしたら白雪は既に死んだのではないかしら)

 自分たちの話を聞いて恐れた白雪は自分で

 命をたったのではないか、と。


「ふふふ……。鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」


 《白雪姫様でごさいます、王妃様》


 予想外の答えに再び激怒すると

 王妃は鏡を割れるのではないかと思うくらい

 思いきり掴んだ。


「っ!ではあの女はどこで生きているというのよ!?」


 《森の奥にある小人の住む家で

 生きていらっしゃいます》


「……分かったわ。ご苦労様」

 にやりと嫌な笑みを浮かべた王妃は

 ある準備を始めた。

 ……毒リンゴを作る準備を。


  ⭐ ★ ⭐


「よしっ!できたわ!」

 額から流れる汗をぬぐい白雪は

 庭作りをとうとう完成させた。

 あと少しで開きそうなつぼみがぽつぽつと

 ついている白い花の花壇である。

「おお!綺麗だなぁ!

 ……白雪、お前意外とセンスあるんだな!」

「綺麗なスズランだなぁ。

 花を育てるなんて良い趣味してるな」

 一緒に土作業をしていた小人2人が

 手を休めてこちらを見ていた。

 暑い中の作業で疲れた顔も少しは和らいでいるのを見ると白雪も嬉しくなった。


「そうでしょう?綺麗でしょ?

 ここに逃げてくる前にかごに入れて持ってきたのよ~。

 でもスズランを育てているのには別の理由が

 あってね……ゴニョゴニョ」


「「え」」


 白雪が2人の耳元で何かを話したとたん、

 先ほどまで和やかだった表情が一気に冷めた。

 それに少しばかり青白くもある。

「どうしたんだー?お前ら」

 遠くの鉱山で採集にいっていた小人が

 帰ってきたようだ。白雪は彼にも教えてやろうと駆け寄ろうとしたところ、2人に服の裾を捕まれた。

「「……何でもない」」



 そんな日々が続いたある日のこと。

 白雪は小人のお家にお留守番、

 7人の小人たちは皆鉱山へ仕事にでた。

「.あぁ、暇ね。

 小鳥さんたち、またおしゃべりでもしましょうか。

 ってそんなことできないけれど」


 そんな現実的な白雪は小鳥たちを指や肩にのせ、

 1人くすくすと笑っているとどこからか

 茂みを歩く音が聞こえる。

「……誰?」

 すると1人の醜いおばあさんがでてきた。

 おばあさんはかごに紫色のリンゴらしきものが

 詰められていた。


「おや、綺麗なお嬢さんじゃないですか。

 ……おひとつリンゴはいかがかな?」


(いや、明らかにおかしいじゃないの……!?)

 白雪姫のお話を知っていれば誰でも分かるこの変装に驚きを隠せない。

 なんせかごに入ってるリンゴは毒々しい紫色をしているし。

 これには毒が入ってます、と説明してくれているようなものだ。


「……いや、結構です。

 勝手にお金を使うのは禁止されてますので」


「そんなこと言わずに……さぁ。

 美味しいですよ、ことこと煮込んで出来上がった……

 って違う。摘みたてのリンゴよ。おほほほ……」


(……今煮込んでって言ったわよね!?

 絶対毒が染み込んでるリンゴよね、それ!)


 不気味の笑うおばあさんに

 疑いの眼差しを向けるがまったくどく気配が

 ないためどうしようかと悩む。

 バレてますよ、と正直に伝えた方がいいのか。

 それともわぁい、美味しそう!っておどろおどろしいそのリンゴを食べれば良いのか。


(……どうしようかしら)


 複雑な顔をする白雪を見てにたにたと

 笑うおばあさんに少しイラッときた白雪だが

 我慢する。

 ……しかし、さすがにこの茶番に付き合ってやる必要はないと判断した白雪は口を開いた。

 ……その時。


「あれ、白雪。そのおばあさんは誰だい?」

「っ!おじさん!」


 ぞろぞろと帰ってきたのは7人の小人のおじさんたち。鉱山の仕事でよっぽど疲れたのかほとんどがうとうとしている。


「あらまぁ、皆さんもおひとつどうですか?」

 おばあさんことお義母様はしわしわの手で

 不気味な紫のリンゴを掴むと

 彼らに差し出した。……その不自然な紫のリンゴを。


「……なんだこれは。明らかに毒リンゴだろ?」

「お妃様ってお話の人より調合下手なの?」

「白雪、お前これ口にしてないよな?」


 鉱山の採集によく行く2人は元気で

 そのリンゴのおかしさに眉をひそめた。

「な、何を言っていらっしゃるの?

 このリンゴは美味しすぎてこんな色になってしまったんですよ

 決して毒など入ってないわ」


(((……いやさすがに無理あるでしょ)))


 と正常だった白雪を含め3人は心の中でそうつっこんだ。

 が、しかしあとの5人の小人たちは違った。


「え~?本当!美味しそうだなぁ。

 僕にひとつくださいな」

「僕もいただこうかな」

 へろへろすぎて何が正しいのか判断能力

 おばあさんのかごに手を伸ばそうとする

 おじさんたちに慌てて手を叩く。


「こらっ!おじさんたちこんなの食べたらお腹壊すわよ!やめて!」

 おじさんの手首をぺしっと叩くと紫のリンゴがひとつ青々しい芝生の上に落ちてしまった。


「……なんてこと!買ってもいないのに

 売り物を台無しにするなんて!ひどいお嬢さんだこと」


 おばあさんはわざとらしく嘆きはじめた。

 そして落ちたリンゴを大事そうになではじめた。それも白雪の方を見ながら。


「何を言っているの!

 こんなお腹を悪くしそうな色のリンゴを

 疲れたおじさんたちが食べたらぽくんとあの世に

 いっちゃうわよ!」


「……じゃあこのリンゴ、お嬢さんが

 責任をもって食べてくれるね?

 このリンゴ、作るの大変だったのよ。

 食べてくれないなら、そうね……

 このお家でももらっちゃおうかしら」


 小枝のような指が指し示したのは

 半月の間7人の小人のおじさんたちと

 過ごしてきたお家だった。


「なっ!そんなことできるわけないでしょう」

「……では、食べてくれますね?」

 にまと笑ったおばあさんは

 白雪に紫色のリンゴを手渡した。


「ダメだ!白雪!そのリンゴを食べては!」

「家ならいい!こんなボロ家がほしいならくれてやる!」

 おじさんたちはそういって白雪の周りを囲んだ。

 疲れて意識が曖昧なおじさんたちは

 うぃー、うぃーと同調はしているようだ。


(……でも)

 この家は彼らの手作りなのだ。

 木でできた扉や不恰好なレンガの壁がそれを物語っている。

 それに何より半月の間過ごして愛着も湧いている。


「さぁ、早く食べな。

 それともこの可愛いお家をくれるのかい?」

「……分かったわ!」


 白雪はリンゴのような真っ赤な唇を開き、

 その紫色のリンゴにかじりついた。

 その瞬間、白雪姫は力なくその場にばたりと倒れてしまった。


「白雪!!」


「けーけっけっけ!

 白雪、お前はこれでおしまいだ!

 この国に伝わる"白雪姫"の話と現実は

 違う、王子様なんて来やしないのさ!」


 しわしわのおばあさんが王妃の姿に

 変わるとおじさんたちは正気に戻ったようで

 世界一美しいはずの彼女になっている。

 小人たちは彼女を睨んだ。


「白雪!白雪!しっかりして!」

「目を覚まして!白雪!」

「死なないで!」

「少しくらい口が悪くても素直な白雪のこと

 もう家族だと思っているんだ!」

 泣きながら横たわる美しい白雪に呼び掛けても

 まったく返事がない。変わらず美しい白い肌に長い黒い髪が

 一房かかる。


『白雪!!』


「はい、なんでしょう」

 ぴょこりと起き上がった白雪は目をぱちくりとさせている。

 小人たちの目にうつるのは弱々しくなった白雪姫の姿ではなく、

 ぴかぴかと元気ないつもどおりの白雪である。


『し、白雪!?』


 さすがの王妃も驚いたのか腰を抜かしている。

 7人の小人たちは何事だとお互い目を見合わせた。


「……あの私、毒リンゴ食べても元気です」

 平然とそう言う白雪はいつもどおり、

 いやそれ以上にうきうきとしていた。


「な、なぜお前は生きているんだ!

 確かにこの猛毒のリンゴを食べたはずじゃ!」


「ええ、食べましたよ。しっかりと」

 にこっと笑う白雪はどこか怒りも兼ね備えている。

 その表情を見た妃は彼女の姿に恐れおののいた。


「……でも残念ながら私にはこんなちっぽけな毒、

 効かないんですよ」

 へらへらと笑う白雪はどこか人間離れしている。

 白雪はあわあわとパニックになっているおじさんたちに紫の毒リンゴを片手にひとつウィンクした。

 すると2人の小人の頭に1つのことが思い出された。


「……あ!思い出した!

 お前確か何日か前に……白雪の花壇で!」

「そうだ!白雪は確か……」



  『よしっ!できたわ!』


  『おお!綺麗だなぁ!

  ……白雪、お前意外とセンスあるんだな!』


  『綺麗なスズランだなぁ。

  花を育てるなんて良い趣味してるな』


  『そうでしょう?綺麗でしょ?

  ここに逃げてくる前にかごに入れて持ってきたのよ~。

  でもスズランを育てているのには別の理由が

  あってね……ゴニョゴニョ』


  『『……え』』


 "スズランを育てている理由は……

 このお花が猛毒を持ってるからなの。

 もし毒を盛られたときに対処できるようにって子供の時から

 父上に毒を摂取させられててね、その延長なの。

 結構スズランはピリッとしておいしいのよ"


 ……なんてことがあった。



「だって猛毒のあるスズランを育ててるんですから」


「スズラン……だと?」


 白雪は先日植えたスズランの中で

 綺麗に花開いたものを摘み取った。


「あれ、知りませんか?

 スズランってこーんな白くて可愛いお花をさかせるんですけど実はものすごく強い毒を持ってるんですよ?」


「それだからなにが……」


「はむ。……もぐ」


『ちょ、白雪!?』


 白雪は摘み取ったばかりのスズランを

 口に入れて咀嚼した。

 世界一美しい姫がそんな危険物を食べる姿は

 あまりに恐ろしく、その場の皆が固まった。


「ん?大丈夫ですよ。

 スズランは小さい頃から食べてますし。

 実は父が毒の研究家だったんですよ。

 ……あ、でも皆さんは真似しちゃいけませんよ。猛毒ですから」


『しねぇーよ!!!!』


「お義母様が作った毒リンゴだから

 スズランより危険だと思ってすぐに

 手を出せなかったんですけど、

 そこまで強くなくて拍子抜けしました~あはは」


「そ、そんな……」


「……お義母様は私達と家族になっても

 一度もこちらを振り向いてくれたことが

 ありませんでしたよね。

 ……それはとても残念でした。

 だから私の暗殺もうまくいかないんですよ。

 まあ、これでおしまいですが……」


「な、な、な……ブクブクブク……」


 にやーっと笑った美しい白雪の顔をみて

 王妃は泡を吹き倒れた。


「お義母様!?」

「おわ!?」


 とんとんと彼女の頬を軽く叩いても

 反応はなく、体は冷たくはないから

 生きてはいるようだ。


「……失神してるね」

「ありゃま」


「私が息の根を止めてやるっ!みたいに聞こえたのかしら」


『そうだと思う』


 あら、と可愛らしく小首を傾げる白雪に

 まったくと呆れる7人だが

 白雪の安全に一安心したようだった。


「……とりあえず口をしっかりすすげ。

 一応解毒薬も飲んどくんだ」


「はーい」


「まったく……それとお前らは

 そのスズランには手を出すなよ!

 絶対にだ!」


『はーい』


 長男小人がそう指示するとおじさんたちは

 スズランの咲く花壇の周りを恐る恐る

 通った。白雪は失礼しちゃうと頬を膨らませている。


「それにしてもこの人はどうするかね。

 やっぱり白雪姫の話みたちに白雪に美貌で嫉妬して

 この仕業かな。…………かわいそうに」


 芝生の上で失神しているが生きている王妃に

 おじさんたちは軽く手を合わせた。

 可愛らしい見た目をしておいて中身は結構強い毒のある白雪

 を知らなかった王妃に同情するのだった。


「それにしても親父さんが毒の研究家って……

 やっぱり"白雪姫"の話通りじゃないな」


「そうね、お父様は大の毒好きで

 毒で死ぬんじゃなくて病死なのは唯一の

 後悔かもしれないわね」


「……そうかい」


 7人の小人たちは両親を亡くしている白雪に

 自立していることに感心した。

 思い返せばここ半月は家事のほとんどは彼女に

 やってもらっていたのだ。

 そう考えると白雪姫よりずっと美しく

 素晴らしい姫だと思うのだった。

 白く小さな可愛らしい花を咲かせるけれど実は恐ろしいほど強い毒をもっているスズランは彼女にぴったりだ。



 すると再び茂みがざわざわとなびく。

「うわっ、クモの巣……。

 本当にここにいるのか?」

 少し頼りない高い声が聞こえると

 そこに現れたのは凛々しい姿をした青年だった。

 ……しかし本来ならかっこよく乗っている白馬を

 ひいて歩いてきたが。


「……あれ白雪?」

「あら、ライアン」

 白雪がそう呼ぶと彼は太陽が顔を出したかのような明るい笑顔をみせた。


「白雪~!!よかった、無事なんだね!」

「やめて、近い!近いってば!」

 白雪に飛び付いた青年は嬉しそうに

 顔を緩ませている。

 整った顔が優しげに微笑むと

 白雪も自然と笑っていた。


「……あれ、もしかしてこれは王子様登場?」



「……あーえっと。この人はライアン王子。

 私の、えーっと……」


「婚約者です!」

 ワンコがしっぽを降っているように

 見えるその光景に7人はぷっと吹き出した。


「なんだ白雪!お前王子様いたのか」

「よかったな!白雪!毒リンゴを食べた白雪姫を助けに

 くる王子様がいないからどうしようかと思ってたんだ!」


「もう……!」

 雪のように白い肌を赤く染めて

 怒る白雪は世界一美しかった。


  ⭐ ★ ⭐


 あれから1ヶ月後……

 国では第一王子のライアンと白い肌の美しい白雪の

 結婚式が開かれていた。


「白雪、あの時すぐに俺が助けにいけなくてごめんな。

 もっと俺が白雪姫にでてくる王子様みたいなのだったら

 よかったのに……」

 そんな晴れ舞台のはずの後ろではしゅんと縮こまった

 王子様がいた。

 その隣には美しい容姿にはそぐわない男らしさをもった

 お姫様がいる。

「ううん、いいの。

 だって本当の白雪姫のお話にだって王子様は

 最後のキスにしか出てこないのよ?

 それに比べたらあなたの方が多少は到着早かったんじゃ

 ないかしら?」


「そうかな。よかった!」


「ねぇ、……お義母様も今日来てくれるかしら」

「もちろんだよ、さぁ白雪姫お手をどうぞ」


 大きなお城から見える景色は壮大でとてつもなく

 不安になるものだった。

 白雪が少し怖じ気づくと、隣のライアンが優しく

 きゅっと手をつないでくれる。

 するとどこかから知った声が聞こえてきた。


「白雪~!ライアン王子~!

 ご結婚おめでとうございます!」

 7人の小人おじさんたちがトーテムポールのように

 連なり手をふっていた。


「わっ!おじさんたち!」

「本当だ!あっはは!嬉しいな」


 密かに手をふり返すとおじさんたちは

 豪快に泣き出した。


「王子様よ、どうか……どうか俺たちの

 白雪を幸せにしてやってくれぇ……!」


「……もう」

 彼らの様子に嬉しくも恥ずかしくもあり、

 頬をゆるめた。

「昔から1人で抱え込むことが多かった君を

 こうして支えられる存在になれて嬉しいよ」

「……王子様の小さい頃のひとめぼれですものね。

 ここまで一途だとは思いませんでしたけど」

「それはお褒めの言葉として受け取っていいのかな?」

 ふふふと幸せの笑みを浮かべる白雪を

 見た国民たちは皆頬を赤く染めた。

 その世界一の美しさに心はわしずかみだ。


「……白雪」

 一度お城の中に戻ると知った声が聞こえる。

  その声に振り替えるとそこに立っていたのは

 白雪のお義母さんであり、彼女を殺そうとした妃である。


「……お義母様」

 白雪は妃を罪に唱えたり、処罰をかさなかった。

 "白雪姫"のお話なら雷にうたれて命を落とすはずの彼女は

 現在元気に過ごしていた。

 そして妃は少しずつながら家族の時間をもつようになった。


「……世界一、綺麗だわ」

 どこか嬉しそうにそう微笑む妃は

 つい先日まで怒り憎しみでおぞまいていた人とは思えないほど

 穏やかで優しいものだった。


「っ!ありがとう。

 お義母様もほら!お花が似合う!」


「えっ……花?な、何の花?」

 白雪の取り出した白いモノが頭ささり、

 妃は少し戸惑ったようにそれをみた。


「そんなに怯えないでくださいな。

 美しい白いバラですよ」


 花言葉は"深い尊敬"ーー。

 父がこの世を去ってからお城や白雪のことを守ってくれたのは

 何をかくそう彼女だったのだから。

 美貌にばかり気にしていた妃も白雪が自分のことを

 しっかりみていてくれたことに嬉しくなる。

 そして一筋の涙がこぼれた。


「……ええ。ありがとう、白雪」

 白雪はその母の涙に世界一美しくなくても

 母は誰よりも美しいと感じたのだった。


『白雪姫~!!』

 またそとから名前を呼ぶ声が聞こえる。

 今度はより大きくたくさんの人の声で。


「……ほら、呼ばれてるわよ」

「……うん!」


  ⭐ ★ ⭐


「あなたたちは相手が健やかなるときも

 病める時も相手を尊重し、支え合い、

 愛し合うことを誓いますか?」


「「……はい、誓います」」


 少し照れ臭そうに目を合わせた2人の唇が重なり、

 国中から祝福の拍手が鳴り響いたのだった。


 ちょっぴり変わった白雪姫は7人の小人と仲良くなり、

 毒リンゴを食べて王子様から愛のキス……は

 なかったけれども意地悪なお義母さんと仲直りを果たした。

 そして何より愛しい王子様と

 末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

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[一言] 最初の方を読んでたら白雪姫の物語の黒幕が魔法の鏡に思えてきた(^_^;) 自分は動かず(動けず)周りの人を言葉で操って思い通りに動かす的な(たぶん失敗?してるけども)
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