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不時着

リープポイントへ到達した後で、静かにリープ航法へ移っていた宇宙船は、突如として軌道を()れ始めた。


『ビービービー、制御不能、エマージェンシー! 航空宇宙局本部へエマージェンシー通信を行いました。現在の時間軸は$#*10wm32@ue:s@4dqoeekポイントです。マーカーを投棄しました』


「……おいおい。今度はなんだよぉ」


俺は宇宙船のシステムには詳しくない。

けれど船のマザーコンピュータが航空宇宙局へエマージェンシー通信を送るということは、最高にヤバい状況だということぐらいはわかる。それに難破宇宙船をマーカーを目当てに捜索することは、小学生でも知っていることだ。


………………俺、ここで死ぬのか?


宇宙船の事故は極めて生還率が低い。

宇宙船本体が使えなくなって脱出ボートを出す時は、近くにフォローアップできる基地がある時に限られる。

そのためマザーコンピュータは、俺に何の指示も出さない。


こんな大昔の地球じゃ、助けてくれる者なんかいるわけがないからな。


やべぇ、ヤバいぞこいつは。


頭の中がグルグル回って、脳から血が一気になくなったような気がする。

真っ白く(かすみ)がかかったような頭を抱えて、これって「頭真っ白」っていう現象だよな、などというどうでもいいことばかりが脳裏をよぎる。


他に考えることはないのか、俺?

例えば……イケてる彼女のこととか。あ、いや。俺に彼女はいねぇーんだった。

グッ、死ぬ前にまで自虐(じぎゃく)的思考をしてどーする。

しかし若くして死ぬとなると、どーしてもヤリタカッタことが思い浮かぶもんじゃないのか?


アホなことばかり考えていると、身体に大きな振動が伝わってきて、この船がどこかの「浜辺」に着いたことがわかった。



『地球表面に不時着しました』


「どこだ、ここは?」


『只今、緯度経度を測定中……でました。アフリカ大陸のどこかということは間違いありません。偵察機を飛ばして、現地時間軸を計測する行動を開始します』


「ああ、頼む」


俺は冷静に「頼む」なんて言いながら、ここが自分の時代に近い時間軸であってくれ!と願っていた。

それが無理でも、いくらかは文明の発達した時代であってほしい。

どうか、どうか……


これほど手に汗をかくまで、神に祈ったことがかつてあっただろうか。



『マスター木村(きむら)、観測結果に整合性の取れない問題が出ています。考察をお願いします』


しばらくして報告を始めたマザーコンピュータの口ぶりに戸惑いがみえる。

いったいどういうことなんだ?


「わかった。とにかく観測結果だけでも教えてくれ」


『了解しました。地表の形からは1万7000年前の大陸図が見て取れます。しかし文明を持っていると思われる原住民が存在するのです』


ん? それはいい知らせじゃないのか?


「良かったじゃないか。人がいるのなら宇宙船を修理する材料を提供してもらえるかもしれない」


『…………マスター木村、1万7000年前には文明人は存在しません』


「ええっ? 恐竜の時代なのか?!」


『……………………』


俺、なんか変なこと言ったか?

マザーコンピュータの沈黙が痛いんだが。


『最初の恐竜が確認されたのは2臆5000万年ほど前、中生代ジュラ紀の時代です。恐竜が最も繁殖したのは1臆年前と言われています』


億万年?

そうか、そうなのか。

ということは、恐竜はいないんだな。ちょっと残念だ。


「でもそれならそろそろ文明を持った人類がいてもいい年代なんじゃないか?」


『文明の発祥は紀元前4000年のメソポタミア文明、つまり1万1000年前のことです。大陸図から推察される年代が確かなら、それまでには後6000年の時を経なければなりません。本来、予測されていた1万7000年前の地球では、氷河期が終わり人類が狩猟生活から農耕生活へと移行しようとしている期間です』


なんか年代をいくつも説明されると混乱してくるぞ。

結局、マザーが言いたいのは、ここは竪穴式住居から高床式住居に変わろうとしている年代だってことか?


俺の脳裏の中に、自然史博物館のマンモスの像に、粗末な槍を突き立てている、毛皮を着た男たちの姿が浮かんできた。

いやいや、農耕生活を始めたんなら卑弥呼(ひみこ)だろう。可愛い子だといいな。


「ゴホン、とにかく文明人がいるならコンタクトをとってみよう。船外の空気や細菌類の危険度を調査してくれ」


『わかりました』



調査の結果、空気には特に問題はなかったようだ。問題がないどころか、非常に澄んだ綺麗な空気らしい。

気温は低いので、俺は体温を調整できるパワードスーツを着ることになった。

そして未知なる細菌感染を防ぐために、オレンジレベルという耐菌対策の高いカプセル状の薬を飲み、マザーコンピュータに皮膚浸透で薬を入れる注射(ショット)をしてもらった。


反重力ホバーボートに乗り込んで、原住民がいるという集落に向かったのだが、そこで俺は驚愕の事実を知ることになったのだった。

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