巨大隕石
スペースタイムマシンに乗って、2万年前の地球にやって来た。
眼下には白い雲をまとった青い地球が浮かんでいる。
大陸はまだ大きな一塊になっていて、どこが日本なんだかさっぱりわからない。
その時、宇宙船の背後を巨大な隕石が太陽に向かって落ちていくのが窓から見えた。
「うおーーー、すげぇな。太陽に落ちたイカロスの神話か? ジェット噴射みたいに、溶けた氷が羽みたいに広がって散ってるぜ」
しかし俺は大口をあけて、驚いているだけではいられなかった。
『ビービービー! 7時の方向から複数の氷の塊が急接近! 地球に緊急着陸します』
宇宙船のマザーコンピュータが警報を鳴らし、焦ったように次々と落下防止ギァを外していく。
この船は地球の周回軌道にいるのだが、先端の角度を変えてちょっと動かしてやれば、たちまち地球の引力に引かれて落ちていく。
周回軌道上に宇宙船を運航させるためには、地球の重力から逃げ出そうとして逃げられない絶妙なスピードと角度を保っているのだ。
『総員、シートにご着席ください。3秒後に後部エンジンの噴射をおこないます』
「総員たって、俺だけだし……」
やばいな、親父の会社の職場見学でこの船を見つけた時に、ちょいと昔の地球を見てやろうなんて気を起こすんじゃなかった。
スペースパイロット免許はまだ取ってないし、マザーコンピュータがいかれちまったらどうすりゃいいんだ?
コックピットの前面に広がる風景が徐々に装甲板によって閉じられていき、手元にある船外カメラの映像はフラッシュした眩い光に包まれていく。
すると顔を潰されるような重力波が襲ってきた。
ググッ、Gが……キツイな。
この船が旧式だと書かれてたわけだよ。
何トンもの体重のゾウに身体全体を押さえつけられて、座っている椅子に縫い付けられた感じがしたと思ったら、何分かするとふっと胸の上が軽くなった。
地球に着いたのか?
窓を覆う装甲板はまだ閉じられたままだったが、モニターに映る船外の様子を見て、俺の背筋は凍った。
空からやってきた大きな氷の塊が、真っ白な霧に包まれながら次々と海へ落ちていく。
この船はその塊の間を縫うように逃げ回りながら空を飛びまわっていた。
『地球の裏側にやってきました。しかし地上へは着陸不可能な模様。大地は津波に覆われ危険です。時間飛行の許可をください』
……だよな。
これって、聖書に記されているノアの箱舟の洪水じゃね?
「仕方ない、現代に帰ってくれ」
『了解しました。RE2万年セット、タイムリープを作動します』
グォーンという耳をつんざく音と光の中、俺は遥か未来へと時間を飛んでいった。
……はずだったんだが。