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姉×萌え×ショタ ~ボクの独立宣言

 ボクは夢見沢祥太(ゆめみざわしょうた)、もうすぐ人生の最初の関門である高校受験を控えた中学三年生だ。

 二学期も終わり、受験シーズンもいよいよ最後の追い込みの時期である冬休みへと突入した。

 でも今日はクリスマスイブ。受験生といえども、今日一日は楽しい思い出を作らなくちゃ!


「お姉ちゃん、お話があります!」


 朝一番にボクは意を決して姉に話しかける。

 二歳年上の姉は高校2年生。容姿端麗、成績も学年トップ、そして生徒会長を務める皆が憧れるアイドル的存在。それがボクの姉、夢見沢(かえで)だ。


「ん? (しょう)ちゃん何かしら?」


 キッチンに立っていた姉は、鼻のてっぺんに白いクリームのようなものを付けて振り向いた。バニラの甘い香りと姉の笑顔にくらっとするも、ボクは頑張るのだ!


「今日は友達の家でパーティをするから! 帰りが少し遅くなるかも!」


 ガチャンと音がして薄目を開けて床を見ると、姉の足下にボウルと泡立て器と飛び散ったクリームが見えた。

 次の瞬間、ボクは姉に抱きしめられていた。


「祥ちゃんごめんなさい! お姉ちゃんに足りないところがあるなら何でも言って! 全力で直すからぁぁぁー!」


「違うよ、お姉ちゃんは最高のお姉ちゃんだよ! でも、それとこれとは話が別なんだ!」


 バニラの甘い香りと姉の身体から湧き出る花のような香りでボクの精神は花の国にトリップしそうになるも、何とか押しつけられた柔らかい二つの丘陵から顔を離してボクは事情を説明する。


「……そう、田中君の家に皆で集まることになったのね?」


 クリームで汚れた床を二人で拭きながら、姉はため息交じりに復唱した。そして、俯いたままぞうきんをギュッと握って。


「パーティの参加者は誰なのか……一応、教えてくれるかしら?」 


 姉はニコリと笑って顔を上げた。



 ▽


 祥ちゃんは今年は受験生だから、この冬はお勉強一直線だと思っていたのに、お友達とクリスマスパーティですって?

 これは迂闊だったわ! 夢見沢(かえで)、一生の不覚!


 ああ、でも……何て可愛いのかしら、私の祥ちゃん。


 決して身長が高くは無い私よりも更に小柄な祥ちゃん。

 なで肩で、目がくりっとして、まあるくて柔らかなほっぺの祥ちゃん。

 水玉模様のパジャマ姿が可愛い祥ちゃん。

 それ、私のお下がりなのに『お姉ちゃんの古着は肌に優しくて寝心地が良いから』と言ってずっと着てくれている優しい祥ちゃん。

 

 ああ、私は祥ちゃんのために今日を生きているの。


 祥ちゃんが二階に着替えに戻ったと同時に、私はスマートフォンを手に取った。



 ▽


 ボクは友達が少ない。

 きっとボクに人間としての魅力が無いんだと思う。

 そんなボクにも優しくしてくれる姉は全てに完璧な女性なんだ。

 いつもボクのことを心配してくれる姉。

 困ったときにはいつでもどこでも駆けつけてくれる姉。

 でも、それは逆にいえば……


 姉の弱点はボクということじゃないか!

 ボクがしっかりした男にならない限り、姉には自由がない。


 だから――


 平成最後のクリスマスイブをボクの独立記念日にするんだ! 


 ボクは拳を胸の前でギュッと握った。

 さて、今日はどの服を着ていくかなぁー。

 色とりどりの洋服は、ほとんどが姉に選んでもらったものだ。

 友達の家でのクリパなんて何年ぶりだろう。

 どんな服を着ていけばいいのかな。

 やっぱり、クリスマスカラーの赤と緑? それとも白?

 ああ、楽しみだ!


 なんて一人で悶えているとスマートフォンに着信があった。

 田中君からだった。


「あっ、もしもし? え? どうしたの……?」


 田中君の声は震えていた。

 今日のクリパは中止になったということだけを伝えてきて、すぐに通話が切れてしまった。


 ボクはベッドに倒れ込み、クマの抱き枕に顔を埋める。

 思い返せばいつもこのパターンだ。

 どこかへ遊びに行く約束をした次の日には相手の都合が悪くなる。

 そんな時、姉はボクを慰めてくれて、友達の代わりにボクを予定した場所に連れて行ってくれた。

 姉の優しさに支えられてボクは生きている。



 涙で目を腫らしたボクは、ようやく気持ちを落ち着けてベッドから起き上がる。

 部屋の前に姉がいた。


「今夜は腕によりをかけてお料理を作ってあげるから! 祥ちゃんも手伝ってくれるかしら?」


 ボクが頷くと、姉はボクの右手に指を絡ませてきた。

 これって、恋人つなぎっていうんじゃ……あれ、違ったかな?

 何しろ姉は完璧な人だから、やることに何一つ間違いはないんだ。


 平成最後のクリスマスイブも、姉と二人っきりで過ごすことになりそうだ。


 メリー・クリスマス!


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