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エピソード 1―7 ずっとモフモフ

 それから、恭弥は三人のブラッシングを無事に終え、続いてシャンプーとリンスを開始するのだが……と、ぐったりしている三人娘に視線を向ける。


「次は頭とシッポを洗うんだけど……」

「えっと、それは、もしかして……?」

「そうだな。シャンプーまみれになると色々と大変だから、服は脱いでもらった方が良いな。ただ、恥ずかしいと思うから、フィーネにしてもらおうと思ってる」


 日本の設備があれば、服を着たまま洗うことも可能かも知れないが、井戸水でザバーと流すような状況で服を着ているとびしょびしょになる。


「不慣れなフィーネに任せるのと、俺に任せるのどっちが良い?」

 これは最優先でフィーネに覚えて欲しい仕事であると同時に、一番失敗しにくい作業でもあるので、そんな風に提案する。

 最初は迷っていた三人だが、不慣れでも結果はほとんど変わらないという恭弥の説明により、フィーネがシャンプーとリンスを担当することになった。


 なお、娘達がフィーネを選んだのは、下着姿が見られるのが嫌だからではなく、イヌミミやシッポを洗われるのが恥ずかしかったからなのに恭弥は気付いていない。

 気付いていたとしても、とくになにも変わらなかったのもまた事実ではあるが。



 ――そうして、シャンプーとリンスは無事に終了。

 三人の毛が乾くのを待って、いよいよトリミングの作業に入る。


「トリミングは、毛が長い子達には一番重要な作業だな」

 恭弥は軽くブラッシングを施して、シャンプーとリンスで絡まった毛を再度ほどく。でもって、肝心のトリミング作業だが――恭弥は入門書を読んだだけの超絶初心者である。

 細かい作業をカットバサミで上手くこなす自信はない――と言うことで、イヌミミとシッポの毛の長さをバリカンで整え、梳きバサミを中心に自然な感じを出していく。

 最後の仕上げだけを、カットバサミを使っておこなった。


 本来――と言うかペットの場合は、肉球のあいだにある毛のカットや、ムダ毛の処理などなど、ペットに動かれないようにするのが大変らしい。

 しかし、イヌミミ族とは意思の疎通が可能なので、その点はまったく問題ない。トリミングの作業は比較的すんなりと終了。

 仕上げにカットした毛をブラッシングで落として、毛並みのお手入れは完了した。


「これが……わたくし」

 お嬢様風の女の子が鏡を見て吐息を漏らした。

 他の女の子達も、同じように自分の姿を見てうっとりとしている。


「気に入ってもらえたようでなによりだ。普段、毛繕いをしておけば、しばらくはそのままで大丈夫だけど、また毛が伸びてきたりすると思うから、そのときはまたおいで」

「ま、また、あの作業をしてもらわないといけないのですか!?」

「さっきの作業で分かると思うけど、長すぎる毛を切りそろえたからさ。一ヶ月くらいしたら伸びてくると思うんだよ」

「そ、そうですわよね。……分かりました。そのときはまたお願いします。……か、勘違いしないでくださいよ。仕方なく、美のために仕方なく、ですからねっ!」


 お嬢様風の女の子が真っ赤な顔で、ビシッと指を突きつけてくる。そんなにイヌミミやシッポを触られるのは嫌なのかなぁ……と、恭弥はがっかりした。

 しかし、ワンコを飼っていた恭弥は、無理にモフると嫌がられることも知っている。


 だから、フィーネには一度モフり倒したいと口にしたものの、毛並みのお手入れを嫌がっているように見えたので、実際にモフらせてくれとは言っていない。

 今回も、同じ理由で自重している。


 ただ、恭弥には知り得ぬことだが、イヌミミ族がイヌミミやシッポをモフらせるなんて、恋人か家族くらい。恭弥が三人娘にモフり倒したいなどとお願いしたら、間違いなくひっぱたかれていたはずなので、言わなくて正解である。



 ――その後、恭弥は三人娘から毛並みのお手入れの対価、アリシアと相談して決めた金額を受け取って、その日の作業は終了した。

 三人娘を送り出し、恭弥達はようやく一息を入れる。


「はぁ~、さすがに慣れない作業を繰り返すのはキツかったな」

「わふぅ。フィーネ、あんまりお手伝いできなくてごめんね?」

 しょんぼりな上目遣いが物凄い破壊力だ。


「そんなことないぞ。フィーネは凄く頑張ってくれたじゃないか。と言うか、シャンプーとリンスを代わりにやってくれて、凄く凄く助かったよ」

「ほんと? フィーネ、恭弥お兄ちゃんの役に立ってる?」

「もちろん。あ、そうそう。これ、フィーネが働いたぶんな」

 三人娘からもらった代金の一部をフィーネの手に乗っける。


「……お金なんかいらないよ。フィーネ、恭弥お兄ちゃんにお礼がしたかっただけだもん」

 健気で可愛い。いますぐフィーネを抱きしめて、そのイヌミミやシッポを存分にモフりたいという衝動に駆られるが、恭弥はギリギリのところで我慢した。


「気持ちは凄く嬉しいけど、今日みたいなお仕事があったら、これからもフィーネに手伝ってもらいたいんだ。だから、お礼をちゃんと受け取って欲しい」

 フィーネが困った顔をする。

 しかし、幼女に労働を強いるのは――異世界だからともかく、無償で働かすことだけは出来ないと、恭弥も決して引き下がらない。


「えっと、えっと。それじゃ、代金の代わりに、ときどきで良いから、フィーネのイヌミミやシッポのお手入れを、恭弥お兄ちゃんにして欲しいの。……ダメ、かな?」

「もちろん良いよ。ただ、フィーネからお金は取らないよ」

「……どうして?」

「お世話になったって言うのもあるけど、フィーネの毛並みのお手入れは、どっちかって言うと俺もしたいからさ」

「……ふえ? ど、どうして?」

「いや、だか、その……前に言っただろ。フィーネをモフり倒したいって」

「~~~っ」

 フィーネの顔が真っ赤に染まった。イヌミミはモフモフで分からないけれど、きっと被毛の下は真っ赤に染まっているだろう。そう思えるほどに顔が真っ赤っかだ。


「えっと……その、嫌なら良いんだ。でも、いつか気が向いたらで良いから、モフらせてくれたら、嬉しいかな……なんて」

 恭弥がそんな風に言うと、フィーネは首をぶんぶんと横に振った。


「そ、そんなに嫌だったか。それなら……」

 諦めるというより早く、フィーネがさっきより早くぶんぶんと首を横に振った。


「……嫌じゃ、ないよ」

「え? それは、モフっても、良い……ってこと、か?」

 マジでとゴクリと生唾を呑み込む。そんな恭弥に対して、フィーネはこくりと頷いた。


「フィーネ、その、まだ子供だし、は、恥ずかしい、けど……恭弥お兄ちゃんになら、モフモフされても、その……ぃぃ、ょ」

 恭弥が冷静なら、その言葉のニュアンスがおかしいことに気づいたかも知れない。

 けれど――


「ホントにモフモフして良いんだな!?」

 モフモフを許された恭弥は、平常心を欠片も残していなかった。


「う、うん」

「よ、よし、それじゃこっちにおいで」

 気が変わるまえにと、フィーネを自分の膝の上に正面から座らせる。

 超絶可愛らしい幼女を真正面からお膝抱っこ。ロリコン大歓喜な状況だが、恭弥は瞳に映るモフモフなイヌミミに大歓喜していた。

 ――結局、周囲から見れば完全にアウトな状況である。


 幸いにして、アリシアの家にいるのはいま、恭弥とフィーネの二人だけだったので咎める者はいないという意味でセーフ。状況的にはよりアウトかも知れない。


「それじゃ……イヌミミをモフるな」

「うん……んっ」

「……大丈夫か? イヌミミを触られるのって、気持ち悪かったりするのか?」

「うぅん。そんなことない、よ。ただ、は、恥ずかしくて……」

「フィーネの毛並みはこんなに綺麗なんだから、恥ずかしがることなんてなにもないよ」

「~~~っ。あ、ありがとう。と、とにかく、嫌じゃ、ないから」

「……じゃあ、ゆっくりモフるな」


 恭弥はフィーネのイヌミミをモフりながら、その反応に対して細心の注意を払う。

 フィーネを気遣っているのは事実だが、ここで嫌な思いをさせたら、二度とモフモフさせてもらえなくなるかもと思っている部分が大きい。


「無理しなくて良いからな」

「う、ん。だいじょうぶ、だよ。……んっ。恭弥お兄ちゃんに触られると、ふわぁ……って、なって、ゾクゾク……ってするけど――ひゃう。嫌じゃない、からぁ……ふわぁっ」

「そっか。なら、もっとモフモフさせてもらうな」


 フィーネを気遣いながら、恭弥はイヌミミをモフモフと撫でる。

 ピンク色の美しい毛並み。カットしたてで毛先が尖っているが、その分だけ綺麗に整ってもいる。フィーネのイヌミミの手触りは、最高級の絨毯のようだ。

 健気で可愛いイヌミミ少女の、最高のイヌミミ。しかも、その毛並みを整えたのは、自分自身という想いが、より一層イヌミミを愛おしく感じさせる。

 恭弥はまるで宝物を扱うように、優しくモフる。


「ひゃぁ……ん、恭弥お兄ちゃん、フィーネのイヌミミ、触り心地、良い?」

「うん、最高のモフり心地だ」

 実際、フィーネの毛並みは最高だった。ずっとモフモフとなで続けたくなるような、そんな中毒性のある触り心地だ。


「じゃあ、フィーネのシッポも、モフモフ、して……?」

「良いのか?」

 手入れをしていたときは、イヌミミよりもシッポの方が嫌がっていた気がする。

 シッポを触っても大丈夫なのかなと恭弥は心配する。それに対してフィーネは「……良いよ」と消え入りそうな声で答えて、恭弥の胸に顔を埋めてきた。


「フィーネのシッポ、恭弥お兄ちゃんに、モフモフ、して、欲しい」

 恭弥の辛うじて残っていた理性が吹き飛んだ――と言っても、モフモフしたい衝動を抑える理性の話であるが――恭弥はそういうことならと、フィーネのシッポをぎゅっと握る。


「ひゃうんっ!?」

「おおおぉっ。すっごいモフモフだ!」

「ん~~~っ。恭弥お兄ちゃん。そ、そんなに激しくモフモフしちゃ、ダメだよぅ」

「むちゃくちゃ手触り良いぞ。モフモフ最高っ!」

「きょ、恭弥お兄ちゃん。ダ、ダメ。フィーネ、ふわぁって、なっちゃう。そんなにモフモフされたら、ふわぁって、なっちゃうからぁ~~~っ」

 この後もひたすらモフモフした。

 

 

 お読みいただきありがとうございます。

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