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第5話 中三な俺のプランD

 ここまで頑張ってきて、やっとわかった。

 たとえスポーツが上手くても、音楽ができても、絵が描けても、それはモテには繋がらない。

 現実は非情だ。

 じゃあどうする?そう。学生がモテるには、まずは勉強だ。

 中三の春、俺はそう強く決意し、美術部をやめた。

 いや、辞めなくても休めればよかったんだよ?

 けど、あの絵を描き上げてから、やけに美術教師が俺を部室に呼び出すんだ。次の絵を描けってさ。

 けどその時俺はもう気が付いてたから。そんなに部活に打ち込んで成績が下がったら、ますますモテなくなるって。

 しかも、描けば描くほど部員たちが近付かなくなるんだよ。

 いじめ?

 さすがの俺も、泣きそうだよ?


 そんな訳で、俺の代わりに号泣する美術教師を捨てて、美術部を退部した。

 一応断っておくが、美術教師は小太りな中年の男だ。



 中三になって初めて、俺はゆずと同じクラスになった。

 ようやくボッチ飯から卒業だと思うだろ?

 ところがだ、俺は教室で弁当。ゆずは学食で食うんだよ。


 ……寂しい。


 母親に、学食で食いたいから金くれって言ったら、「弁当作ってるのに、文句言うんじゃない!自分で稼げ!」だと。

 仕方がないから、何かいいバイトがないかと探した。勉強時間がとられるのは困るので、在宅で……と思いながら探すと、ネットのフリマサイトが目についた。

 フリマサイトと言えば、プレミアムがついたアイドルグッズばかりかというイメージだったが、見てみると種々様々なものが売られている。それこそ庭に落ちている葉っぱからゴミ箱に捨てられる直前のトイレットペーパーの芯まで。

 そこで俺が選んだのは絵だ。絵は材料費があまりかからずに単価が高い。身の回りのありふれた物に絵を描いて売るという作戦だ。

 まだ中学生である俺は、母親に許可をもらい、フリマサイトに登録した。


 ヨッシーというユーザー名で瓶、流木、石やレンガなど、様々な素材に描いた俺の絵は、そこそこ良いペースで売れている。

 かくして、俺はようやく週に一度だけ、学食でゆずと昼飯を食べるようになった。

「いっちー、不憫だwww」

 と笑いながら、ゆずも週に1度だけ弁当を持ってくるようになったから、今では週に2日はボッチ飯じゃない。

 あ、いっちーは俺の名前が一郎だからだ。ゆずだけがそう呼んでくれる。

 嬉しいぜ。





 と言う訳で、なんだったかな?ああ、そうそう。

 俺は中三の一年間、本当に、まさに本当の意味で勉強を頑張ったんだ。

 今まで不真面目だった俺を叱ってやりたい。

 勉強するって、そんなんじゃねえんだよ。


 英語って言ったら、単語覚えてさ、取りあえず教科書暗記して、問題集の例文解いたら、100点取れるじゃん?

 そうじゃねえんだよ。

 まず声に出して読む。それは間違いない。

 そして書く。それも普通にやってるだろう。

 単語を覚える。もちろんさ。

 

 でもそれだけじゃあダメなんだ。

 単語の向こうに、何がある?その単語から派生する広大なイメージを、読み取ってたか?活用ができたからって、その単語がすべて理解できたと勘違いしていないか?


 音楽を聴いてみろ。そして映画を字幕なしで見てみろよ。

 知ってる単語がポツポツと出てくるけど、その訳って学校で習ったのと一緒か?違うだろ。イメージを広げるんだよ。

 たとえそれが一時的に英語のテストの点数を下げたって、そんなことは全然問題じゃないんだ。骨だけの、カスカスの英語に美しい表現の衣をまとわせるんだよ。

 分かる?ま、いいけど。




 数学ってのはさ、公式を覚えて決まり通りに解いたら、答えが出るだろ?

 そうじゃあねえんだよ。

 まずは数字!あんなたった10種類の文字とほんの少しの記号で、この広大な宇宙を表現できるって、すごくねえ?

 数字をさ、組み合わせて、掛けて、割って、こねあげて、俺たちはこのノートの上にたった一本の鉛筆で、真理を描けるんだよ。誰でも平等に。そう、平等に。

 そう思って、テスト用紙を読んでみたらさ、数学教師がなぜこの問題で、この数字を使ってきたのか、分からねえ?

 分かるよね!これは、この問題のココの数字は数学教師の愛なんだよ!

 それが分かったとき、俺はマジで泣いたさ。そうだ、今まで俺は勉強の表面しか見てなかったんだ。



 ……


 とクラスで語ったら、またひとまわり、クラスメイトが遠のいた。

 そしてゆずだけが爆笑している。


 解せぬ。


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