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第8話 周りを見てみると

 藤久保から話を聞いたからと言っても、急に何かが変わることもなく毎日が過ぎていく。


 佐藤さんが来た。

「ねえ、いっちー、ここ教えて」

「お、それ、俺も聞きたかったんだ!」

「なによ、内村。邪魔しないでよ」

「いいじゃん、同じ問題なんだし」


 すかさず寄ってきた内村を邪魔そうに肘でつつきながら、それでも佐藤さんはほんのり楽しそうだ。

「例題のココの解説を読むと、わかりやすいよ」

「おう、いっちーありがとう。佐藤、ほら邪魔になるからこっちで解き直そうぜ」

「仕方がないわね。いっちーってば、忙しいんだから」


 何人かが寄ってきては、俺に話しかけ、また席に戻った。

 ふと顔を上げると、高野さんがこっちを見てにこにこ笑っている。

「いっちーの教え方、わかりやすいからね。家庭教師みたい」

「あ、えっと、ありがとう」



 高野さん、普通ににこにこ笑ってるけど、耳が赤い。

 そうなのかな?

 俺、うぬぼれじゃない?

 ゆずと二木さんは、ふたりでくっついて勉強してる。

 ハルカはこっちを見てニヤニヤ。ああ、ハルカは部活の先輩マネージャーが好きとか言ってたっけ?

 佐藤さんと内村は、さっきの問題を小突きあいながら解いている。

 三浦さんや桂さんは女子で固まって、にぎやかだ。

 藤久保はじっと高野さんを見てる。


 高野さんは俺を見てる。



 急に顔が熱くなって、思わず目を伏せた。




 どうやって告白したら良いんだろう。

 何て言えば……

 ゆずはどうだったっけ?

 いや、駄目だ。あれは見本にならないよ。

 もうすぐ終業式。

 そうだ、終業式の日に……






 だけど、やっぱり、俺の計画は上手くいかないんだ。

 ここまで調子いいと思ったのに。

 今度こそ、人気者でモテモテで、彼女までできるかと思ったのに。


 終業式の前日、授業が終わった後のホームルーム。

 全国模試の成績を配りながら先生が言った。

「みんな、今回は素晴らしい成績だった。このクラスは放課後も、みんなよく勉強していたからなあ。特に山田くん、君、県でトップだった与謝野くんだったんだね。今回も校内、いや県で君が一番だ。全国順位も中三の時より大きく上げて、三教科とも20位以内に入っているよ。さすが、天才と名高い与謝野くんだ」


「え……」

 自分の成績を確認していたみんなが、顔を上げて俺を見る。

 怪訝な顔。驚いて、言葉もないみんな。

「……な、んで……お前、与謝野って、何なんだよ!」

 藤久保が言う。

「俺……」

「俺たちを馬鹿にしてんのかよ!打倒与謝野って、みんなで言ってて、どうせ勝てないだろうって、陰でこっそり笑ってたのかよ!ああ、勝てねえよ。こんなに頑張ったのに、どうせ俺は、2番目どまりだ。全国順位だってギリギリ100番に載るくらいで、くそっ!こんなにやっても勝てねえ。何一つ、お前に……」


 だんだん小さくなる藤久保の声。そのまま何を言っていいのかわからず、ふらふらと家に帰った。今日は隣を、ゆずがついて歩いてくれた気がするが、それもよく覚えていない。

 そして、その日の夜、39度の熱を出した俺は、インフルエンザで結局終業式に出れないまま、野々村高校での留学を終えたのだった。


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