第3話 中一な俺のプランB
中学生になった俺は、学校の度重なる説得にも首を振らず、サッカーをやめた。
サッカーが出来たらモテるなんて、嘘だ。
そして、小学校と違って足が速いからモテるわけでもない。
そもそも、ここには女子もいないがな。
ああ、それは良いんだ。
俺は人気者になりたいだけだから、モテる相手が男だって一向に構わない。
中学生になって、モテるために俺が頑張ったのは、音楽だ。
その前にお笑いも試してみたが、これは全く才能がないと分かって早々に諦めた。
音楽と言えばギターだろう。だがうちにはギターがない。
仕方がないから、母親が若いころ弾いていたというハープを習った。
母親に。くっ、屈辱!
そうそう、ハープと言ってもあの見上げるほど巨大なやつじゃないぞ。膝に乗せて弾く、かわいいやつだ。
中学に入ったら通学時間も倍になって、宿題の量も半端じゃない。成績は常に上位を維持しないと、一回落ちたら後が大変なんだ。
東雲学園は部活が参加自由だったから、俺はほぼ行かなくてもいい美術部に入部した。学校が終わったら速攻家に帰って、宿題を済ませ、予習も完璧に終わらせてから、母親にハープを習った。中一の俺が母親に何かを習うのは屈辱的だったが、モテるためには仕方がない。
夏休みも、部活の合宿にも行かず、家でひたすら宿題と筋トレとハープをこなす俺。
ハッキリ言って、2学期が始まるころには、少し飽きてきたが、モテるためには仕方がない。
そんな俺にも、友人と言えるやつが出来た。
右田楪。
9月の運動会の時に、俺にあと少しで追いつくほど足が速かったんだ。
部活やってなくて、こんなに足が速いのはすげえと思う。
まあ、おれのがすげえけどな。
隣のクラスだったから、運動会が終わってからよく喋るようになった。
俺はゆずって呼んでるんだが、ゆずは頭もいい。学年じゃ俺に次いで2番だ。
爽やかなイケメンで、そして、とにかくクラスの人気者だ。
くっ。そこだけは負けているかもしれない。
だが見てろよ!
俺は文化祭で、絶対人気者になる!
それを聞いて、ゆずは、くっくっくっとイケメン笑いをした。
くそぅ……
秋の文化祭の時に、全校生徒の前で弾き語りした。
曲は、有名なわりに簡単で、習い始めの俺にも弾ける、アメージンググレースだ。
その頃まだ、身長が150センチ台で声変わり前だった俺は、ボーイソプラノを活かして、滔々と歌い上げた。
やべえ。何とか合唱団にスカウトされるかもしれねえ。
最後のグリッサンドも美しく決め、その余韻が消えた時会場は……静寂に包まれた。
あれ?
割れんばかりの拍手は?
ブラボーとか、言っちゃっていいのよ?
謎の静寂に、どうしたら良いか分からなくなって、ぺこりと頭を下げて俺は引っ込んだ。
俺が舞台から消えると、会場内にはため息が広がった。
ため息つきたいのは、俺だよ?
歌は失敗しても、せめて、笑いくらいはとれるはずだったのに。
だって、ハープだし?
面白くない?
こうして俺の中一の時の挑戦は失敗に終わった。