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四十五話 反作用する聖性

めっちゃ毎日更新している……これって、勲章ですよ(自画自賛)

 金曜日。午後。


 学校が創立記念日で休みとなった今日、あなたは(ひじり)から会いたいというお願いを受け、病院へ向かっていた。


 水曜日に会った際、何かあったらということで伝えていた電話番号に、聖から電話が掛かってきたのだ。


 母親を殺して以降、あなたは初めて聖と顔を合わせる。


 どんな顔をして彼女と話せばいいのか。あなた深く悩んでいた。


 そもそも自分のような存在が彼女と顔を合わせてよいのだろうか。


 様々なことを思い悩むあなたは、それでも約束をしてしまったが故に、重い足取りで聖に会いに行く。


「あ、おにいさん!」


 あなたは笑顔で迎えられた。


 衝動的に、あなたは自分を殺したくなった。


 違うんだ、と。自分はそんな暖かい笑みを浮かべられるような資格はないのだと。


 罪の意識に苛まれ、顔が歪みそうになるのをあなたはなんとか堪える。


 良かった。昨日、先生と会ったおかげで、自分が他人からどのように見られるのかという視点を思い出すことができた。


 あなたは自身の雰囲気をコントロールし、いつも通りの振る舞いをする。


 聖はあなたに笑顔で話しかけ、昨日や今日に起こった面白いことを伝えてくれた。


 あなたはそれに相づちを打ちながら、自身の心臓が軋むような感覚を覚えた。


 彼女の善性に触れれば触れるほど、自らの愚かな行いの罪深さを実感するのだ。


 心癒やされるべき邂逅は、もはやあなたにとっては自らの罪科を刻み込むような出来事になっていた。


「あ、そうだおにいさん。一緒にオセロをしよう!」


 聖はオセロを取り出し、あなたの前に持ってきた。


 あなたは作り笑いを浮かべながら、その提案に賛同した。


 それから数分。あなたは聖とオセロをした。


 特に戦略は気にすることなく、適当にゲームを行なった結果、あなたは聖にオセロで敗北した。


 すごいね。あなたは聖を賞賛した。


「ふふん」


 聖は得意げな顔をした。


「おにいさんはまだまだ、オセロの初心者?」


 あなたは曖昧に肯定した。


「じゃあ、私が見つけた必勝法を教えてあげる!」


 聖はにっこりと笑った。


「あのね、ここの隅っこの4つは、ひっくり返ることがないから、とっても強いの!」


 そこに気づくとは……天才か。


 あなたは聖の頭を撫でようとして、途中で止めた。


 自分が彼女に触れることで、彼女を穢してしまいそうな気がしたから。


 持ち上げかけた片腕が、気まずそうに下ろされる。


 聖はあなたの様子を見て、わずかに首をかしげた。


「それでね、実はさらに重要なことがあるのです」


 何々。教えて教えて。


 内心で自分を罵倒しながら、あなたは心にもないことを言う。


「この4つの隅を取るためには、隣に自分の色を置いてはいけない……ここの8個の場所には、あんまり置いちゃいけないのです!」


 なんてすごい発見なんだ。君は天才だ。


 大げさに賞賛しつつ、改めてあなたは聖の知能の高さに驚く。


 彼女はまだ五歳の女の子だ。この年頃の子どもが、オセロにおける戦略性を考えることができるというのは……間違いなく、普通よりはずっと優れたことであり、彼女の才能なのだろう。


 この賢さは彼女の生来のものなのか。それとも、環境故に賢くならざるを得なかったのか。


「ふふっ……あとで、お母さんに教えてあげなきゃ」


 ……。


 ……。


 ……。


 あなたは、おそるおそる口にした。


 ――お母さんは、好き?


 意を決した質問だった。


 それはある意味で、聖のための質問ではない。


 恐ろしい。恐ろしい。


 きっとその答えによっては、あなたは大きく傷つくことになるだろう。


 断罪。


 もしかしたらあなたはそれを求めているのかもしれない。


 直接的に問うことはしない。


 聖の年齢を考慮して、体調が戻るまでは母親が死んだことは言わないようにと、病院の看護師から注意はされていた。


 だから、婉曲に問いかける。


 母親への思いを。


「うーん……」


 聖は悩ましい様子を見せた。


 なんと言えばいいのか分からない。言葉が見つからないのだろうか。


「お母さんは……」


 しかし、彼女は自身の心情をしっかりと言葉にした。




「可哀想な人だと思ったよ」




 返答は、好きでも嫌いでもなく、もっと別のものだった。




「お母さんも、大変なんだろうなって」


 聖はあなたが思い描いていたよりも、ずっと大人であった。


「よしよしってしてあげたいけど、たぶんお母さん、怒るから」


 ああ、確かにそうだろう。


 五歳の娘に自己の境遇を憐れまれるほど、母親にとって惨めなことはないだろう。


「いつかね、お母さんに、大丈夫だよって言ってあげたいな」


「うん、えへへ、おにいさんみたいに、ね?」


 照れくさそうに笑う聖。


 その様からは、あなたが彼女の母親に抱いていたような怒りは読み取れない。


 そう。


 彼女はあなたと違って(・・・・・・・)


 母親を赦すことができていたのだ。


 好きかと問われて、好きとは言わなかった。


 少なからず、好きと言えるような好印象だけが彼女の胸中を占めていることはないのだろう。


 されど、聖は前を向いていた。


 彼女がもっとも母親に裏切られ、苦しめられただろうに。


 あなたと違って、母親を既に赦していたのだ。






 ――そう。聖ちゃんは、偉いね。


 声が震えないように。顔に内心が表れないように。


 あなたは必死に自制しながら、その言葉をなんとか吐き出した。


「ううん、私は……そんなに偉い子じゃないんだよ」


 あなたの言葉を、聖は否定した。


「本当はね、おにいさん」


 その言葉の先を、あなたの思考は藁にもすがるような気持ちで予測した。


 本当はお母さんが嫌いで仕方がない。死んでしまったらいい。そう言ってくれることを、弱いあなたの心は何よりも望んでいた。


「おにいさんが助けてくれたのが、とっても嬉しかったの」


「お母さんに会えなくなるかもしれないけど、おにいさんが助けに来てくれたことが、本当に嬉しかった」


 聖はあなたを見て、頬を赤く染めた。


「私、おにいさんが大好きだから」


 その言葉は、あなたに僅かな救いを与えると同時に、あなたの罪悪感を強烈に刺激した。


 違う……。


 そんな資格はない、止めてくれ。


 そんな目で、見ないでよ。


「あのね、おにいさん」






「また明日も、会いに来てくれる?」






 その約束は、自分を殺したくてたまらなかったあなたを縛り付けた。


 今にも漏れ出そうな悔恨の言葉を呑み込んで、あなたは柔らかな笑みを浮かべて、その約束に応じる。


 ――うん、また明日もくるよ。


 あなたに心のステータスがなければ、きっと今すぐにでも懺悔の言葉を口にしただろう。


 違うんだと、あなたの母親を殺したのは私だと。私はどうしようもない悪党なのだと。


 這いつくばり、聖に裁きを求めたかもしれない。


 ただ、どうしようもないほどにあなたは強かった。


 自らの行いを悔いて、罪の意識にのたうちまわりながらも、差し伸べられた救いの手を、自分は救われてはいけない人間だと払いのけることができるほどに。


 どれだけ苦しくても、目の前の女の子に自分の罪を告げることは、彼女にとっては良いことではないと判断できる強さをあなたは持っていた。


 誰だって苦しければ、差し伸べられた蜘蛛の糸にすがるのは当たり前の動きだろう。


 しかしあなたは流されない。


 これはその苦しみを超越し、自らの思う正しい選択をできるほどの心の強さを持ってしまったが故の、悲劇であった。


 誰もあなたの苦境に気づかない。


 誰もあなたを救うことができない。


 あなた自身の強さが、あなたが救われる結末を赦さない。


 故に、世界で誰よりも強いあなたが救われることはないのだろう。


 主はただ、あなたの様子に涙を流した。





















 メリケン合衆国。ホワイトハウス。


「もしもし、姉さん?」


『はい、どうしたのミア?』


 ちゃんと電話には出るのね……。


 呆れたようにミアは呟いた。


「今、どこにいるの?」


『和国の居福(いふく)県よ!』


「居福……」


 その地名は、ミアにとってとても聞き覚えのある場所だった。


「もしかして、高梨緑に会いに行っているの?」


『わぁ! 流石ミアね、どうして分かったのかしら?』


 驚愕の事実に、ミアはため息をつきたくなる。


 高梨緑は、最近の調査により、大きな確率でプレイヤーであることが予想されていた。


 プロバイダー、インターネットを介して、彼の様々な行動を分析した結果、ネットの検索履歴が、プレイヤーが誕生した日を境に、非常に学問に意欲的なキーワードを検索していたり、オンラインゲーム……特にFPSゲームの成績が劇的に向上していたりしたことが判明し、彼が高確率でプレイヤーであるということが予想されたのだ。


 やはり決め手になったのはFPSゲームの成績だった。チート等の改造ツールを使った痕跡がないのに、その道のプロでも出せない人外レベルのスコアをたたき出しているのだ。


 ただ成績が向上しただけなら、たまたま別の人物がそのゲームをやっていた可能性も考慮できるのだが、ここまでずば抜けたスコアを出されると、疑わざるを得ない。


 やはり怪しいと思われるところがあるので、彼個人のための調査員をそろそろ派遣するところだったのだが……。


 ミアは直感的に高梨緑がプレイヤーなのではないかと感じていたが、マルティネス家代々に発現する、超能力的な直感を歴代の誰よりも優れた精度で持っている姉は、おそらくは既にそれを突き止めていたのだろう。


 といっても、ソフィアの情報の出所を、この時のミアは勘違いしていた。


「なんの用件で、姉さんは彼に会いに行くの?」


「ふふっ……秘密よ!」


 姉さん……。


 分かってはいたが、あまりにもフリーダム過ぎる行動に、ミアはもう何度目か分からないため息をついた。


 この姉には、幼い頃から散々振り回されてきた。そのため、彼女の突飛な行動にはある程度慣れているはずだったのだが……。


「ねえ、姉さん」


 ミアはそれでも、彼女に尋ねなければいけないことがあった。


「姉さんは一位のプレイヤーに会ったことがあるの?」


 一瞬、本当に短い間の沈黙。




『――ないわ!』




 電話の向こう。和国の地にいるソフィアは、笑顔でそう答えた。














≪リザルト≫


○地雷処理幼女(1d2)

結果【1】成功


1.成功(?) 2.失敗



どうしてこうなった。

本来、その類い希な聖性で主人公の闇を祓い、今後を戦い抜く確かな動機を主人公に与えるはずだったのが……全て逆に作用しているのは、本当に草生える。

聖ちゃんの一挙一動で曇りまくる緑くん。助けてソフィアちゃん。


○創立記念日

やべーやつ「ふふ、学校ないわ」

さっさと話を動かしたくてスキップ。もしかして、やべーやつの一章における出番がなくなった……?


○幼女「許せるッ!」

緑くんさー……、五歳の幼女でさえ、母親を赦しているって言うのに……君は本当にこらえ性がないやつなんだね(特大ダメージ)


○演技上手の緑さん

鬱ブレイカーブレイカー。心の強さというのは、時に誰よりも自分自身を地獄に追いやることになるのだという話。


○地雷処理幼女

これでも成功してる方。母親をヤッてしまった以上、セイント幼女のあらゆる言葉が緑くんにぶっささる。そんな状況で、母親に対する思いという特大の地雷ポイントを、なんとか比較的重傷で済ませたファインプレイ。


○プレイヤー疑惑(大)

二話の日常編で、FPSのゲームで無双し過ぎたのがあだに。この時の作者は何も考えていませんし、緑くんも何も考えていなかったでしょうね。

実際のところ、オンラインゲームのログがどれほど残っているのかは知りませんが、まあ、そういうことにしておきましょう。


インターネットに関しては、検索サイトの会社と色々な交渉をしてっといった感じ。実際、こういうのを調べようと思うと調べることができてしまうので、プライバシーを守れということで欧米ではGoogleとかAppleに抗議運動が起きたりしているらしい。

ただし、個人情報保護のために、重犯罪者の事件捜査のための、政府によるアイフォンデータの開示要求を断ることがあるらしいので、史実ベースだとどれだけそこの仲が癒着しているかは不明。この世界ではそういうことにしておきましょうか(適当)


まあ、プレイヤーと政府の攻防が本格化するのは二章以降の話なので、一章は適当に行きます。整合性があまりなかったら、書きたいところを書き終えた後に、賢い人の意見を聞きながら整えればいいのだし。


ふぅ……ようやく一章も終わりが見えてきましたね……。

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