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五話 宝箱

 強い力の気配を辿ってあなたがたどり着いた場所は、現実世界では大規模な自衛隊の基地があった場所である。


 地図のアプリで確認したが、やはり相違はない。ここは自衛隊があった場所だ。


 しかし、あなたの目の前には大きな禍々しい城がある。


 あなたは首を傾げた。


 こんなものが現実世界にあるのだろうか、と。


 さすがにないと思えるので、この建物はおそらく遊戯の世界限定でここに存在する建物なのだろう。


 あなたは試しにこの建物に入ってみることにした。


 魔法を使用した状態のあなたは城門をすり抜け、先ほどみたエネミーより凶悪そうな、どこか鋭利な印象を受ける鎧を身につけた白いマネキンのエネミーの横を素通りし、場内に進入する。


 内装は、あなたが以前RPGゲームでみた城に似ているという感想を持った。


 あなたには本物の城の知識などなく、ゲームや歴史の授業で見た資料くらいでしか知らない。


 故にこの城がどういったものなのか、現実の城との相違点を分析するといったことはできなかった。


 しかしながら、きらびやかさや華やかさ、そして同時に荘厳さをも合わせ持った美しい装飾たちは、あなたの心を大いに楽しませた。


 どこか目を輝かせながら、あなたは城内の観光を続ける。


 魔法を使用した今のあなたにとっては、凶悪な化け物が跋扈する城内も無人の城内と変わらない。様々な場所を歩き、存分に探検を楽しんだ。


 そしてあなたは探検中、とある部屋の中で宝箱を発見する。


 どうしようか。


 あなたは少し悩んだが、好奇心のおもむくままに宝箱を開けてみることにする。


 魔法を使い、あなたは通常の世界に戻る。


 宝箱に触る。すり抜けることのない物の感触に、あなたは懐かしいという感情を抱いた。


 ガチャリ。


 幸いなことに宝箱には罠も鍵もかかっておらず、すんなりと開いた。


 何かあったらすぐに魔法を使おうと身構えていたあなたの心配は杞憂に終わった。


 宝箱の中には…何かの小さな袋が入っていた。


 取り出し、袋を開けてみると――中には植物の種のようなものが入っていた。



<異界の種を獲得した>



 ふむ。


 よく分からないが、こんな不思議な場所で手に入れた種だ。どのようなものが育つのか、とても興味深い。


 良い物を手に入れたとあなたは幸せな気持ちになった。


 浮かれていたのだろう。あなたの目的の一つであった戦闘経験の蓄積を完全に忘れ、その後宝箱が他にないか城内を探検して回った。


 ふと、身につけていた腕時計が昼食を取るのにふさわしい時刻を指しているのに気づき、あなたは城の探索を切り上げ、近くに食べ物がないか探すことにした。


 あなたは人間が本来持っている一次的欲求が薄い。


 空腹を感じることはあっても、食べ物を食べたいという意思はさほど湧いてこないのだ。


 こういった特殊な体質をあなたの母親は知っていたのか、あなたは生活リズムを守るように彼女に厳しく躾けられていた。


 あなたにとって一定の時間に食べ物を食べることは、やらなければいけない義務なのだ。


 といってもまあ。


 腹を満たす欲望は薄くても、美味しいものを食べたいという欲求は結構存在するのだが。


 あなたにとっての食事は一般の人にとっての食事というよりは、おやつを食べるという感覚に近いものがある。飢えを満たすというよりは娯楽なのだ。


 あなたは城のすぐ近くで見つけたコンビニに立ち寄る。


 しかし、コンビニの周りにはたくさんのエネミーがいるようだ。城で見たものに比べると弱そうな、至って普通のエネミーだが。


 そういえば…。


 あなたは筋力がどれくらい上昇しているか実戦で試してなかったなと考え、試しに拳で戦ってみようと思った。


 エネミーの数は7。


 魔法を使用したままあなたはエネミーの背後を取り、全力で拳を放つ。


 そしてその拳がエネミーに当たる直前であなたは再び魔法を使い、現世に帰還する。


 エネミーからすれば、急に背後からあなたが現われたように感じるだろう。


 爆音。


 砲弾が着弾したような激しい音と共に、あなたの拳が着弾したエネミーの体を木っ端微塵に消し飛ばした。


 あなたは自身の力に驚愕をしながらも、安全確保のためにすぐさま魔法で現世から離れる。


 一体この細腕のどこにあのようなエネルギーを出す筋力があるのだろうか。


 あなたは与えられたステータスの凄まじさを体感しながら、次の標的のエネミーの背後へ移動する。


 現世から乖離した状態のあなたの移動速度はとてつもなく速い。


 その理由の一端として、乖離状態のあなたは空気抵抗を一切受けないことがある。


 あなたの移動速度はどれだけ軽く見積もっても音速を超えている。その速度で現実世界を移動しようとすると、適当に計算してもトンを超える重さの空気抵抗を受ける。


 そういった重りをなしに移動が出来るのは、あなたの魔法の一つのメリットだろう。


 背後から再びあなたはエネミーに拳を直撃させ、エネミーを消滅させる。


 そして数秒後。


 あなたはエネミーの殲滅を終えた。


「・・・」


 あなたは自分の力について考えていると、雨が降り出した。ふと思いついてあなたは拳を振るうと、あなたに落ちてくるはずだった水滴が全てはじけた。


 あなたは次に手の平で降り注ぐ水滴を全て優しく掬う。


 手の平に受けた水滴を集める。


 遠心力を用いて、水滴を手の平の上にキープしつつ、自身に降り注ぐ雨を掬い続ける。


 気づけば、あなたの周囲は雨を掬ったその両手だけが濡れていた。最後に両手を揃えてお椀を作り、自身が掬い続けた水の総量を確認する。


 ……。


 たくさん掬えたようだ。


 だが、恐ろしい。


 あなたは深くそう思った。


 あなたは特筆して器用というわけでもなく、何か特別な修行をしていたわけでもない。それでも、これなのだ。


 この遊戯は終わりが指定されていない。時と共にプレイヤー達は人外の領域へ進化していくだろう。


 もしその得た力が1人のエゴで振るわれたら。ああなんと恐ろしいことか。


 あなたはふと、今のうちに全てのプレイヤーを抹殺した方が世界のためになるのではと考えた。


 それが自分を将来的に脅かす要因の排除にも繋がる。おそらく今、自分はプレイヤーの中で最も幸運であり、最も強い。その幸運のアドバンテージが最も発揮できる今だからこそ…。


 合理性だけを考えれば、それはひどく甘美な案だった。


 しかしながら。


 考えただけで、あなたは実行するための利己的な強い欲求も、世界の平和のために動こうとする善意もなかった。


 あなたは人の感情を見る瞳を持っている。


 だから、人の苦しみなどに対して人一倍敏感で、同情的でもある。


 嫌いな人間だろうと、罪がない者をいたずらに傷つけるような残忍さをあなたは持つことが出来なかった。


 しかし人類の平和のために動くにも、あなたは人類全体というものに関してはことさら苦手としている。


 みんなというよく分からない恐ろしい概念のために、自ら率先して動く気はなかった。


 人の醜い一面を見続けた。その経験が今のあなたを形作っている。


 だからこそ、あなたは見知らぬ誰かのために積極的に奉仕しようというボランティア精神を持ち合わせてはいない。


 今のあなたは知のステータスが高い。それで今後を起こり得る様々な可能性を予測できる。


 あなたは人々を救うことができる。そのプレイヤーとしての超常の力をフルに活用すれば、現実世界で多くの人を救うことができるだろう。


 だからこそ重要なのは、あなたがどこまで人の不幸を見過ごせるかだ。


 あなたには英雄願望など存在しない。


 そして他人が苦手である。しかし、目の前で困っている人がいれば、手を差し伸べる程度の良識は持ち合わせていた。


 あなたの脳裏に浮かぶのは、ひどい虐めに遭う子を黙ってみているかつてのクラスメイト達。


 彼らのようにはなりたくない。


 そんな思いがあった。


 故に悩む。良識と嫌悪の板挟み。


「……」


――ギアァァァ!!


 ぼーっとしていたあなたにエネミーが飛びかかってきた。


 増援のようだ。当然、あなたがそれに気づいていないわけがなかった。


 ゴッ。


 あなたはエネミーに殴られた。


――しかしあなたの体は小揺るぎもしない。


 少し風に撫でられたかな。そんな感覚だった。


 ステータスの凄まじさを改めて実感した。


 あなたは殴り返して、エネミーを消し飛ばした。


 素手で倒すのは、感触が気持ち悪い。見た目は無機質なくせに、その感触はしっかりと肉質がある。


 こんなもの。できれば戦いたくもない。


 それでも、争いは避けることができないのだろう。エネミーとも。予想が当たるのなら、他のプレイヤーとだって。


 だからせめて。心を守るためにも、今後はできるだけ魔術で敵を倒そうとあなたは思った。


 敵対的な関係であり、向こうから襲いかかってくるとしても、やはりあなたはどうにも命を奪うという行為が苦手であった。素手で倒すのは、ことさらその感触が顕著だ。


 それの必要性は分かる。知のステータスが訪れる将来を予想してくれたのだ。


 今後、実力による圧倒的優位がなければ、あなたのような存在は平穏に生きるどころか、まともに生きることすら困難になる時代がくるのだろう。


 だから、避けられないのだ。


 だから、戦うしかない。


 心のステータスがその痛みを誤魔化してくれているのだろう。


 躊躇することも、罪悪感も乗り越えられることができる。


 今後、それで何か不調をきたすということもないだろう。でも、チクチクとした痛みがあなたの胸を刺すのだ。


「?」


 ふと妙な気配を感じる。


 ……。


 エネミーを消し飛ばした跡に、野球ボールほどの大きさの玉が現われた。


 あなたは不思議な玉を拾って、集中してそれを調べた。


 あなたは玉の中に電気を感じた。視認したわけではないが、なんとなくあるなと分かったのだ。


 これもステータスの恩恵なのだろうか。


 さらには中に魔術のプログラムのような文字の羅列、これを魔術式と呼ぶとして、膨大な量の魔術式があるようだ。


 おそらくこの魔術式が電気を生んでいるのだろう。


 あなたは魔術式を【火矢】のものくらいしか知らないので、魔術式について深い理解はない。一体この玉は何から電気を生んでいるのだろうか。


 魔力を周囲から集めるような動きは見られず、むしろ魔力がこの玉の中から自然とわき上がっている。


 これが電気に変換されているのだろうか。あなたは玉を観察し続けてふと思った。これってもしかして永久機関の一種なのでは。


「・・・」


 エネミーを倒すとたまに永久機関を落とす。


 恐ろしい想像だった。あなたは一度考えることを止め、もう少し魔術について詳しくなってからこの玉を調べようと問題を棚上げした。


 あなたは自分が【異空間収納箱】というスキルを持っていたことを思い出し、この玉をしまうように念じてみる。ついでに、ポケットに入れていた植物の種も。


 空気の違和感と共に、玉が消えた。


 あなたの脳裏に倉庫のような広い空間に小さな玉と種がおいてあるイメージが浮かぶ。


 なるほど。


 なんとなく理解した力の使い方に、あなたは不思議な感覚を覚えた。


 数回玉を出し入れして遊んだ後、あなたはコンビニに訪れた理由を思い出し、店内に入った。







































 無人のコンビニのレジに代金をおいて、あなたはコンビニ弁当を持って行く。


 その後適当な公園を見つけてあなたは食事を取った。


 レジの向こうへ押し入り、電子レンジを勝手に使うのが申し訳なかったので、あなたの購入したお弁当はキンキンに冷えている。


 本日のお弁当は唐揚げ弁当であった。


 温めた方が美味しいが、温めなくても美味しいものは美味しいのである。


 いただきます。


 あなたの舌は基本的に庶民的であり、美味しさの基準が低い。唐揚げは唐揚げの時点で美味しいのである。


――うまい!


 冷えているが、やはりお肉は美味しかった。コショウがきいていて、ご飯が良く進む。


 ちょびっとだけついているポテトサラダも美味しい。


 幸せである。ある意味、あなたの舌は非常に便利なものだ。


 ごちそうさま。


 エネミーと出会うことはなく、平穏に食事を取り終えることが出来た。


 あなたは携帯を取り出す。




<ステータス>


<エーテル交換所>


<ランキング>


<プレゼントボックス>


<ヘルプ>




 エーテル交換所。あなたはこれを見て、もしかしたらこれでご飯などを買えるのではと思った。


 コンビニなどで食べ物を得ていくには、この世界だと色々問題がある。


 日数が経てば腐るかもしれないし、何日もこの世界にいるとなれば、食事にお金を払い続けるのは大きな出費となる。


 そもそもお金をレジに置いたって、受け取ってもらえるかも定かではないのだ。




<所持エーテル:10009>


<欲しいものを入力してください>


<食べ物>




 あなたの予想通り、検索した結果、膨大な量の食事が一覧に並んだ。


<ドラゴンステーキ 10万E>


 地球に存在しないものもあるんだなとあなたは強い関心を抱いた。


 それにしても前に見たときよりもエーテルが増えている。おそらくあのエネミーを1体倒すと1エーテルもらえるのだろう。


 あなたはエーテルで交換できるものに興味が引かれたのだろう。


 前より少しエネミーを倒すことに積極的な気分になれた。あまり好ましくはないが、こういった動機があるなら、少しは気分が紛れるだろうか。


 次はお城の強そうなエネミーに挑んでみよう。


 そう考えたあなたは魔法を発動し、移動を開始する。


 頻繁に魔法を使っているあなただが、特に消耗した様子はみられない。


 試したことはないが、1000回以上は魔法を行使しても大丈夫そうだと感じていた。


 空を飛びながらあなたはふと自分の心について不思議に思った。


 あなたはこれといって殺生を好む気質ではなく、むしろ嫌う気質だ。


 そんなあなたが化け物とはいえ人型のものを何体も殺した。しかし、あなたの心はいつも通りであった。


 エネミーを消し飛ばしたときだって、嫌悪の感情は内在した。


 だがしかし、その感情が心を乱すことはなかった。


――つまり、戦士としての心構えさえ、ステータスによって補えてしまう。


 心のステータスの効果だろうが、ステータスを上げることによって、自分自身の心が知らずの内に弄くり回されているのではないか。


 あなたはその考えに至った時、改めて自身にステータスを与えた存在が恐ろしく感じられた。


 心は…。魂は、高尚なものであって欲しかった。


 だが、それはきっと改変しうるものなのであろうか。


 あなたの瞳はわずかに、輝きを失った。


 その瞳は前よりも昏く、どこか諦観に満ちていた。

善人だからこそ余計に自縛して自滅する。割とあるあるだと思います。


《リザルト》


○宝箱の報酬(1d6)

結果【1】アイテム


1.アイテム

2.装備

3.スキル

4.魔術書

5.武術書

6.???


○アイテム一覧(1d8)

結果【6】日常生活関連


1.便利系

2.回復アイテム

3.換金アイテム

4.ステータス向上系

5.戦闘用アイテム

6.日常生活関連

7.グルメ(回復・ステ向上・戦闘用・娯楽複合)

8.ネタ枠


○日常生活関連一覧(1d10)

結果【2】観賞


1.実用家具

2.観賞

3.生活雑貨

4.PC系統

5.携帯系統

6.ゲーム系統

7.アウトドア用品

8.移動手段系統

9.音楽関係

10.ネタ枠


○観賞一覧(1d7)

結果【1】植物


1.植物

2.絵画

3.置物

4.壁掛け系統

5.人形・ぬいぐるみ

6.石像

7.ネタ枠


○報酬品質(1d100)

結果【76】良い (71+5) ※【幸運】スキルバフ


ステータスで強化できないものは、創造力や運などです。主人公のスキル【幸運】は運が強化されるといいつつ、実際運が強化されているのは神様が管理している敵のドロップ品やダンジョンの宝物の確率くらいです。

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