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三十四話 支配者③

ぶちぎれ緑くん。私はやっぱりジャンプが好きなので、こんな感じの覚醒展開が大好きです。


やっぱり聖書がドラゴンボールなので、怒りからの覚醒は外せないかなって。鬼滅でも、遊郭編でのぶちぎれ炭次郎のシーンが大好きですし。

 あなたにはいつも自制する心があった。


 ある種の枷であり、あなた自身の感情の発露に大きく制限をかけるものだ。


 わざわざ【退行】の魔法を作らなければならないほどに、それは大きくあなたの感情を制限している。


 あなたの心のステータスは【11881】であり、これは普通の人間であったのなら、十分に深淵魔法に類する技術を発揮できるほどの強さである。


 本来、500日目のボスは深淵魔法等の戦闘手段がなければ突破するのは非常に困難であり、ステータスもそれに応じて設計がなされている。


 おおよそ4000から5000ほどの心のステータスがあれば、優秀なプレイヤーなら十分に深淵魔法等を扱うに至る意思の出力を得るはずなのだ。


 なのに、どうしてあなたは十分に意思の力を発揮することができないのか。


 それの根本には、あなた自身が自分に価値を見出していないことが起因する。


 非常に単純な話である。あなたは自分のことを多少どうなってもいいものとして認識しているが故に、自分のことでは怒りよりも諦めが先に来るのだ。


 自分のことで感情を強く動かすことができない。自分がどれだけひどい目に遭おうと、諦観することしかできない。


 そんな人間が、はたして自分のために意思の力を振り絞ることができるだろうか。


 故に何の理由もない通常の戦いでは、あなたの魔法の出力は同レベルの相手よりもずっと低い。【代償】などの魔法で補って、ようやくそれなりの出力を得ることができるのだ。


 持久力はともかく、瞬間的な出力に関しては、あなたは致命的な弱点を抱えていたのだ。


 だが、それでもあなたは誰かのために動くことができた。


 むしろ誰かのための方が、強く想うことができた。


 あなたは以前にも、現在と同じように激しい怒りを感じたことがある。それも今回と同様に、誰かのために抱いた怒りだった。


 だから、今のあなたなら扱える。


 自分の意思の力を、心のステータスの力を。


 100%。いや、それ以上に強く、自身のポテンシャルを引き出すことができる。


 強く握った拳。


 地面を強く蹴り、あなたは少年に対して飛び掛かった。


 黒い罅。黒いオーラがあなたを取り巻く。


 それは秩序、ルールの崩壊。あまりに強すぎる意思の力が、世界そのものを歪めていく証左。


 そしてあなたは黒い歪みを纏ったその拳を、思いっきり少年にたたきつけた。


「甘いですね」


 しかし、少年はその拳を平然と手のひらで受け止めた。


 ゴォッッ!!!!!!!


 黒い罅が。法則を打ち壊す波動が、辺り一帯に拡散した。


 ここが何もない白い世界であるが故に、何の被害もなかったが、もしこれが現実世界で行われていたことだったら、その波動はすべてを消し炭にする終末の津波となり得ただろう。


 そしてそれは、魔法級の戦闘手段を持つ者でも防ぐことは叶わない。


 極まった意思が生み出す崩壊の事象は、それほどまでに絶対的であるのだ。


 だが、少年はそれを容易に防いだ。


 少年の手には白い布が巻かれていた。先ほどから少年が持っている、あなたが何らかの治癒効果を持つのだろうと予測した布だ。


 その布の形状は衣服に使われるような布というより、包帯のごとく細く長い形状をしている。それを少年は手のひらに巻き付け、あなたの黒いオーラから身を守っているのだろう。


 推測するに、治療効果を持ちつつ、あなたの黒いオーラの崩壊事象にも耐えられるような逸品。深淵魔法や超越スキルに類する力を持った、凄まじい布なのであろう。


 鬱陶しい。


 あなたは怒りの感情に身を任せ、さらに黒いオーラを腕に集中させる。


 そして、解き放った。




――音はなかった。揺れる波も、現象もなく。


――ただ、黒が世界を壊した。




「んー……素晴らしいですね!」


 たがしかし、少年は笑っていた。


 その手には大きな盾を持っており、どうやらそれであなたの一撃を無傷でしのいだようだった。


 あなたは考える。


 ごり押しは通じなさそうだと。


 しかしながら、戦術を交えて戦うにしても、術式反転を喰らえばあなたのこの黒いオーラを用いた技以外はすべて無効化される恐れがある。


 そしてこの黒いオーラを発生させるほどに強い意思の力を、魔法や魔術には使うことはできない。


 法則を崩壊させるほど強力なこの力は、同様に魔法などの術式も崩壊させてしまうのだ。故にこの力を乗せて魔法を使う(すべ)は、現在のあなたには存在しなかった。


 ああ、でも心当たりはあるのだ。深淵魔法。かの男が使ったあの魔法こそ、この黒い意思の力を乗せて発揮することができる術式なのだろう。


 だが、どのようにしてその術式を構成するのかを、魔法の術式すらまともに把握することができていないあなたには考察することが出来なかった。


 だから、今のあなたに取れる選択肢は一つしかなかった。




――概念接続。


――概念内包。


――境界消滅。


――自我消滅。


――女神転生。




 超越スキルの起動。それは本来、あなたの人間性を大きく損なう可能性を持っており、代償なしに戦いの中で常用するのは非常に難しいものであった。


 しかし、今のあなたはそれを成し遂げてみせるという強い決意と、意思の力があった。




――【超越(ファナーウ)運命を司る女神イデア・オブ・フォルトゥーナ




 髪は金色に変わり、腰のあたりまで長く伸びる。肉体は女性になり、古代で信仰された女神そのものの装飾をまとう。


 そして、黒色のオーラを纏うあなた。試みは成功した。あなたは超越スキルを使用してなお、その力に自我を蝕まれることなく意識を保っていた。


「へぇ……その姿、生で見るととても綺麗ですね」


 投げかけられた少年の言葉を無視して、あなたは自らの力にその意識を向ける。


 概念……イデア。神の権能の使い方。それを把握し、自分なりの解釈をする。


 あなたは手に持っていた舵をかかげる。それはひとりでに宙に浮き、回転を始めた。


 そしてあなたは運命の女神の権能の、最も基本的な技を発動させた。




――権能(インペリウム)不確定観測アンチ・デコヒーレンス




「むむ?」


 少年は首を傾げた。なぜなら、少年はあなたという存在を認識することができなくなったからだ。


 運命とは何か。それは人によって様々な考え方があると思うが、遊戯世界に招かれる前に様々な科学知識を学んでいたあなたは、それを量子論的に解釈した。


 量子論には様々な考え方がある。例えば分かりやすいのはシュレーディンガーの猫だろうか。


 シュレーディンガーの猫について説明すると、毒ガスが50%の確率で発生する装置と猫を箱の中にいれ、その後箱を開けて結果を見る。


 猫が生きているのか死んでいるのかは、箱を開けて観測するまで二つの可能性を内包している。箱を開けることで、どちらか一方の結末に決まり、もう片方の可能性は消失する。そういった思考実験であり、量子論の荒唐無稽さを例えた話である。


 そしてここに、あなたは運命というものの解釈を混ぜ入れた。


 運命というものは、人がどのような結果にたどり着くかを決定するものであるとあなたは解釈した上で、運命を操るということを、人が取りうる可能性を意のままに決定することだとあなたは解釈した。


 つまり、シュレーディンガーの猫の結末を、自分自身が自由に決定するようなものだとあなたは解釈したのだ。


 だからこそ重要なのは観測されないこと。シュレーディンガーの猫の結末は、誰かに観測されることで結果が確定される。


ならばその結末を自由に操るということは、自分がその結末を決めるまで誰かに観測されない場を作ることこそが、運命を操るということで重要である。


 どうなるか分からない。その状態を作り出すために、自己の存在を相手に認識させないことが重要であると超越スキルの力を解釈し、再構成したのだ。


 それは身に宿したイデアをどのように使うか、そういった戦略でもある。これはあなたが超越スキルを使う際に、自我を繋ぎとめることに必死でそれ以上のことができなかった状態からの脱却であった。


 要するに、あなたは超越スキルを使いこなし始めていたのだ。


――権能(インペリウム)波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション


「ん?」


 あなたは少年の背後に存在した。


 超越スキルを使った時に持っていた底が抜けたツボに黒いオーラをまとわせ、全力で振るう。


「へー」


 余裕そうな表情をした少年は白い布を巻いた手でそのツボを受け止めようとして。




――権能(インペリウム)不確定観測アンチ・デコヒーレンス


――権能(インペリウム)波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション




「え?」


 やけに細長いツボが少年の首を抉り、綺麗に消失させた。


 驚愕に目を見開く少年。


 【波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション】とは何か。端的に言えば、いくつかある可能性の中から、自分が選んだ可能性に収束させる権能である。


 一度目に使った時、あなたは少年の背後に転移した。


 それは少年にとって、あなたが発見できなかったから。少年からすればあなたはどこにいてもおかしくはなかった。だからこそあなたは、事象を少年の背後にあなたがいるという可能性に収束させることができた。


 そして二度目の【波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション】。


 これは少年が防御しようとした瞬間にあなたが【不確定観測アンチ・デコヒーレンス】を使ったことによって、少年はあなたを見失った。


 そうすることによって、少年には防御ができなくなるという可能性が生まれたため、あなたはその事象に可能性を収束させることができたのだ。


 その結果、あなたは少年に一撃を与えられた。それも普通の人間であるのなら、致命的な一撃である。


 だが、少年はこのままではおそらくあの白い布の効果で回復しようとするだろう。


 そう予測したあなたは再び超越スキルを使い、その回復を妨害する。


――【波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション


 その瞬間、黒いスパークが発生した。


 空間に奔る黒い罅。


 それはまさに魔法における矛盾が発生し、意思の力のぶつかり合いが発生するように、あなたと少年の意思の力の鍔迫り合いであった。


――……ッ!!


 ここで押し通せば、勝てる。そう意識して、全力で意思の力を込めるも、どうやら少年の方が意思の力が強く、このままでは押し切れそうにはなかった。


 そして気づけば少年の治療は終わっており、その顔はひどく愉しそうな表情をしていた。


「ふふふふっ、やっぱり、貴方は素晴らしいですね……!」


 そう言いながら、少年はどこからともなく取り出した鎖をあなたに向かって投擲した。


 気づけば。その鎖はあなたを囲むように渦を巻いていた。


 おそらく、この鎖もあの白い布と同様に、深淵魔法に類する力を持つ何らかの道具なのだろう。まともにその効果が発揮されれば、危険な状況に陥るかもしれない。


 そう判断したあなたは、目をつぶり、鎖を意識の外へ追い出した。


 そしてスキルの権能を発動させる。


――権能【不確定観測アンチ・デコヒーレンス


 鎖を少年から未観測な状態にした。


――権能【波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション


 目を開いて、鎖を遠くのどこか的外れな場所に飛んで行った、あなた自身が望んだ結果をあなたは観測した。


「それはちょっと卑怯過ぎませんか?」


 少年は引き攣ったような笑みを浮かべた。


――権能(インペリウム)不確定観測アンチ・デコヒーレンス


――権能(インペリウム)波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション


 そしていつの間にか、あなたは少年の傍に存在していた。


「ふふっ、やりますねぇ! ですがこれならどうですか」


 少年はどこからともなく大きな盾を取り出して構えた。


 それは以前あなたの攻撃を無傷でしのいだ装備。


 おそらく、攻撃を防ぐ深淵魔法に類する機能を持った盾。


「……」


 冷静に、怒り狂ったまま。


――権能(インペリウム)不確定観測アンチ・デコヒーレンス


――権能(インペリウム)波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション


 あなたはまずスキルを使い、少年の持っていた白い布を遠く離れた場所へ観測(・・)した。


「おや?」


 そっち? 少年は不思議そうな顔をした。


 そしてあなたは意思の力を強く込め、膨大な黒いオーラを纏ったツボを振るった。


「無駄です。貴方の心は出力を上げようと、そこまで強くはない」


 少年は盾に大きな意思の力を込めて、その盾の持つ守護の力を発動させた。


 この盾の守護の力は、盾で守ることが重要なのではない。その力を発揮している間、少年の体自体が盾の力によって守られる。それはいくらあなたが観測結果をいじろうと、必ず守護の力に阻まれることを意味していた。


 このままいけば、再び意思のぶつかり合いが起きるのだろう。


 そしてその結果は見えている。現状のあなたでは、ステータス本来の意思の力以上を発揮したとしても、少年の意思の力には敵わない。


 もともと100日ごとに現れるボスは、他のプレイヤーと協力して打倒することを想定しているボスなのだ。プレイヤーの個人の出力が、ボスに勝ることなどほとんどない。


 だから、あなたは本来その盾に阻まれるはずであった。


――権能(インペリウム)不確定観測アンチ・デコヒーレンス


――権能(インペリウム)波束の実在証明コペンハーゲン・インタプリテイション




 よほど特異な力の使い方をしない限りは。




「うっそ……」


 少年は吐血した。


 心臓を穿った大きな穴から、大量の血が噴き出した。


 信じられないものを見たような表情で、少年は胸の穴を見つめる。


 トンネル効果。あなたが現実社会で学んでいた理論である。


 あなたはこの遊戯にプレイヤーとして選ばれてから、現実世界での大半の時間を様々な学問の知識を学ぶことに割いていた。


 それは童子に対して行ったカウンセリングの技術しかり、【多重加速電磁砲】に使われているローレンツ力を利用したレールガンの技術しかり、その他さまざまな場面であなたの戦いに科学知識は利用されている。


 だからこの時、あなたは量子論におけるトンネル効果を、超越スキルの権能によって再現した。


 量子という非常に小さな世界の物理学において起こる、小さな粒が壁に向かっていった時、小さな粒が壁にぶつからずに、そのまま通り抜けて壁の反対側に現れる現象。それがトンネル効果である。


 人間の体は量子の塊でもあるので、人間が壁をすり抜けるようなトンネル効果が起こる可能性は全くないわけではない。


 ただその確率がどうしようもなく低いので、ほぼ確実に起こり得ないのだが。


 だが、今のあなたはスキルの権能によってその可能性を自由に観測することができる。


 故に、それは疑似的なトンネル効果であった。


 相手の防御をすり抜ける可能性を強引に観測した、必殺の一撃である。


「これは、少し想定外でした……」


 くふっ。少年は再び血を吐いた。


 それでもなお、少年は愉しそうな笑みをこぼした。









≪リザルト≫


〇勝敗判定(1d10)

結果【10】有効打


1~9.敗北 10.有効打


〇原因(1d3)

結果【2】超越スキル


1.強欲 2.超越スキル 3.素

なんだこの主人公、たまげたなぁ。超越スキルを使ってもボコボコにされる予定でしたが、ダイスの女神さまが背中を押したので、一発有効打を与えることができたました。


今回の結果により、主人公がある程度超越スキルを扱えるようになります。


最近量子論などを調べて、YouTubeとかで解説動画をよく見ますが、普通に面白いですね。文系のなので数式が出てくると死にますが、原理そのものは不思議でびっくりすることが多くて、見ていてとても面白いものだと思います。


トンネル効果とかすげぇなと思いますが、それが実際半導体の技術として使われているのとかを知ると、人類の技術って本当にすごいんだなと感心します。

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