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三十三話 支配者②

すいません。ダンジョンメーカーを久々にやっていたらいつの間にかめっちゃ時間が経っていました。一応転生レベルはカンストさせました。当分このゲームを起動することはないでしょう。

 立てない。


 あなたは困惑していた。


 体を動かす。そう意識しても、まったく体が動かない。


 どういう原理なのか理解できない。現状のあなたは指一本動かすこともできなかった。


「無駄ですよ。肉体を動かす電気信号を完全に遮断しています」


 クスクス。クスクス。


 不気味な笑い声が響く。


「緑。貴方は完全に私の支配下に入りました」


 魔術を使おうとして魔術式を構築しても、それを発動させようとすると魔術式ごとかき消される。


 魔法も同様である。つまり、今のあなたは少年に対して抗う手段を何一つとして持ち合わせていなかった。


「さて……どうしましょうかね。貴方が何の面白みもない人物なら、さっさとこの遊戯を終了させてあげてもよかったのですが」


 ゆっくりと少年があなたに近づいてくる。


 足音。


 徐々に近づくそれが、あなたの恐怖感をひどく煽った。


「フフ……」


 うつぶせの状態で倒れているあなたを覗き込み、少年は笑った。




「ただ殺すだけというのも、もったいないですよね?」




 悲鳴。


 それさえあげるもこともできない。


 今のあなたはただ震えることしかできなかった。


「私の魔法には【支配】の力があるんですよ」


 少年は嗜虐的な笑みを浮かべた。


「これで緑の精神をズタズタにしてみましょうか」


 こともなげに。


 平然と、何の気負いもなく。少年はそんなことをのたまった。


「肉体や魂の破損は、遊戯場からの退場時にほぼ完璧に修復されますが、貴方の様子を見るに、PTSD等の心理的な外傷はまったく手つかずですよね」


 ――だから、壊しましょう。


 気軽に。幼児が友達にこんな遊びをしようと提案するような、そんな愉快さと奔放さを併せ持った、あまりにもおぞましい提案。


 怖い。


 あなたは生涯の中でも最も、この少年に対して恐怖心を抱いた。


 だから、あなたは自身の人間性を犠牲にしてでも、ここは超越スキルを使った方がよいと判断した。


 意思の力をスキルの起動に注ぎ込み――




「おっと。奥の手なんて使わせませんよ」




――気づけばあなたは脱力していた。


「言ったでしょう? 私の魔法は【支配】の力を持つと。今のまともに抵抗することができない貴方では、私の操り人形にしかなれません」


 残念でした♡


 耳元で少年は囁いた。


「さて。では本格的に改造を始めましょう。そうですね……手始めに、貴方に何か恐怖症でも植え付けてみましょうか」


 少年はあなたの額に人差し指を立てた。


 怖かった。自分という存在をぐちゃぐちゃにされてしまうのが。


 それはもはや痛みに慣れつつあったあなたでさえ、どうしようもなく大きな恐怖の感情を抱いてしまうものであった。


 そしてそれに対して一切の抵抗ができないことが、更なる恐怖をあなたに与えた。


 反抗の余地がないその状況は、あなたに大きな絶望を与えた。


 しかし、あなたは諦観の念さえも抱いていた。


 ここまでの実力差があるならもはやどうしようもない。そんな諦めの心情だ。


 あなたは元来、生への執着が薄い。言い換えれば、自身のことをあまり大切だとは思っていない。自身の価値を見出すことができない、自己肯定感の乏しい人間なのだ。


 だから、あなたは諦めることができた。


 自分を必要とする人間はいない。


 友人関係。家族関係。その全てが希薄で、最近少し関わったあの童子も、こんな自分を必要とすることはないだろう。むしろ自分はあの子を二回も自殺させてしまった。


自分なんか関わらない方が、あの子もきっと心穏やかに過ごすことができるはずだ。


 ああ。思い返してみると、やはりそうだ。


 自分が死んだって。自分が壊れてしまったって。悲しむ人なんて、誰もいないんだ。


 恐怖と絶望が過ぎれば、後は悲観と諦めがあなたの心を支配した。


 自身の無価値さを思い知り、悲しいような、投げやりなような。そんな心情を抱いて、あなたは諦観で心を閉ざした。


 目を閉じて、あなたは全てを受け入れることにした。


「んー……なんていうか、これではあまり弄っても面白くなさそうですねぇ……」


 少年はあなたの心情を察したのか、どこか困った顔をした。


「よし! では趣向を変えましょう。私は貴方を洗脳します」


 ――そしてですね。


 とてもニコニコした表情で少年は続けた。


「貴方には大量殺人者になってもらいます」


 ドクン


 あなたの心臓が、一際大きく鼓動した。


「もとの世界に帰還して、貴方は徹底的に目に付く人を殺してまわるのです」




 ――そうしたらきっと、緑はとてもいい顔をしてくれますよね?




 力を込める。


 しかし、力が抜けた。


 ああ。ダメだ。できない。


 でも、もう諦められないから。


 だからその(くびき)を踏み越えた。


「おや?」




――魔法【防衛機制ディフェンス・メカニズム


――【同一視アイデンティフィケーション勝利を求める男(ミスターヴィクトリー)




「あ」


 拳。


 メキッと、少年の頬に食い込み。


 バキンッッ!!


 少年は大きく吹き飛んだ。


 今度は超えられた。


 あなたはそこに僅かな希望を見出した。


 追撃を……。


 より意思の力を込めて、次の魔法を発動させようとするあなた。




 ――そして、あなたはそのまま膝から崩れ落ちた。




「やりますねぇ!」


 少年は笑っていた。


「結構、私の想定した数値を上回る強さでしたよ」


 あなたは冷静に情報を分析する。少年は言った。今のは想定した数値を上回ったと。


 そしてそれが防げなかった。


 つまり少年の術式反転による防御は、相手の攻撃の威力を厳密に数値化して予測する必要があるのではないか。


 しかしながら、少年を殴る前に、非常に大きく威力を削がれたような感覚があった。


 よって、さらに少年の術式反転の性質を予想するなら、設定した分だけ威力を削いで、設定していなかった強さの分だけ、先ほどのように少年に直撃することになったのではないか。


 あなたは思考を必死に回す。それは先ほどまで諦観に満ちた顔をしていた人物ではない。


 まさに虎視眈々と一発逆転を狙う、戦士の如き風貌であった。


「あぁ……いい……!」


 そんなあなたの様子を、少年は恍惚とした顔で見つめる。


「くふっ……クフフフフフ……ですが、それでも貴方は私の支配からは逃れられない」


 少年はあなたに歩み寄ると、そのままあなたの顔を蹴飛ばした。


 痛い。


 あなたは少年を睨み付ける。


「まあ、そんなものですか」


 顔を赤らめたまま、少年はあなたの顔を踏みつける。


「弱いですねぇ……貴方は」


 グリグリと、少年はあなたの顔を踏みにじる。


「つまりは、貴方如きに敗北したあの男はもっとどうしようもない雑魚だったということですね」




 ――少年はぶん殴られた。




「あはっ、あははははははははっっっっ!!!!!」


 鼻血を噴き出しながら、少年は笑う。


 ギュゴッッ。


 空間がざわめく音。


「効きませんよ」


 少年はあなたが発動した圧殺の魔法をかき消した。


 突如。


 幾重(いくえ)もの雷光が(はし)った。


――複合魔法【多重加速電磁砲】


「無駄ですってば」


 それもかき消される。


 だが、ほぼ同時に。


――【降臨する黒き奈落アドヴェント・オブ・アバドン


 あなたは必殺技を放つ。


 しかもそれは一撃だけではない。


 瞬時に反動で消失した腕を再生させ、あなたは魔法を同じように発動して、矢継ぎ早に二発目を放つ。そしてそれを繰り替えす。


――連撃【降臨する黒き奈落アドヴェント・オブ・アバドン


「怖いですねぇ……ちょっとびっくりしましたよ」


 しかし少年はそれすらも回避して、そこから大きく離れた場所に現れた。おそらく転移系の手段を用いて回避したのだろう。


――魔術【延々】


 同時にあなたも転移を行う。


「え」


 少年の背後に回り込んだあなたは魔法を発動させ。





――魔法【防衛機制ディフェンス・メカニズム


――【同一視アイデンティフィケーション勝利を求める男(ミスターヴィクトリー)




 渾身の拳を叩き込んだ。


 ……。


 ……。


 クスクス。


 クスクス。クスクス。


 あなたの拳を手のひらで受け止めた少年は、愉快そうに笑っていた。


 再び、あなたは膝から崩れ落ちた。


「私の認知の速度を上回る超スピードを心がける。まあ、悪くはない発想ですよ。事実、私が認識できない攻撃は術式反転ができませんからね」


 ――でも、あなたが考えるよりもずっと私は賢く予想でき、そして物事を素早く認識できます。


 少年は崩れ落ちたあなたを抱き留める。


 クスクス。クスクス。


 少年の邪悪な、その内面の黒さがにじみ出たような笑い声。


「それにしても、やはりあなたは面白い人間ですね。ほかの人間が苦手という割に、自分のためよりも他人のための方が、よっぽど力を出すことができるんですから」


 少年はあなたの頭を撫でた。


 その手つきはどこか優しく、あなたを労わるようであった。


 しかし。


「だから、あなたをもっと効果的に苦しめるとしましょう」


 少年は邪悪である。


「貴方を洗脳します。そして――」






「――貴方にあの幼子を殺害させましょう。貴方の魔法で幼子を圧殺するのです。いたぶるように、傷をえぐるように」






 ――そうしたらあの幼子はどんな顔をするでしょうね、緑?















 ――死ね。


 人生で二度目であった。


「あ」


 あなたの拳が、少年の頭部を消し飛ばした。


 黒い罅が。空間を、世界を裂くような黒い罅が、あなたを中心にいくつも発生した。


 拳が、黒い渦を纏っていた。


 それはあなたの怒りに呼応するように、世界を、法則を打ち壊し、怨敵の防御術を撃ち抜いた。


 あなたはただ、怒っていた。


 それはあなたの生涯において二度目の激昂であり、同時に、殺してもいい。殺すべきだ。殺さなければいけないと感じた、初めての本気の殺意であった。


「アヒャッ、アヒャヒャヒャヒャ!!!!」


 狂気と狂喜に満ちた、狂ったように笑う少年の声。


 少年はいつの間にか白い布を持っており、あなたが消し飛ばした頭部は何事もなかったように元通りになっていた。


 きっと、あの布は何らかの回復手段なのだろう。


 だが、どうでもいい。


 死ね。


 あなたはただそれだけを考えた。




 ――お前を殺す。


デデン!(ガンダムW)



いろんな意味で主人公の扱いが上手な少年(?)の回です。


主人公を奮起させようとして逆に泣かせたどこかのおっさんとは大違いですね。なお、本人もおっさんと顔を合わせたらそのことでめちゃくちゃマウントをとる予定。


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