三十一話 600日までの軌跡②
ついに満を持してやばいやつが登場。
今日も今日とて、あなたはダンジョンでエネミーと戦っている。
今日は599日目。あなたは前回の遊戯の日々も含めて、同年代の人よりもずっと長い時間を過ごしてきているだろう。
そういえばこの世界だと歳をとらないのかな。
ここにいる間は、髪は伸びないし爪も伸びない。しかしながら傷の自然治癒はちゃんと働いているので、そこら辺はこの世界を作った誰かがご都合主義でルールを作ったのかもしれない。
この遊戯がこの先もずっと続いていくのなら、自分は最終的にどのような人物になるのだろうか。
一週間であなたは一年以上の時を過ごすのだ。能力的な成長もあるが、それ以上に人格的な成長がどのようになるのかが、あなたにとって不安だった。
一週間。一年で一週間はだいたい42回ほどある。いずれあなたは600日を超え、700日を超えれば、一回の遊戯で2年以上を過ごすようになる。
この遊戯が一年続けば、あなたは精神年齢がおそらく60代を超えるようになるだろう。二十歳にもなっていないのに、その身には定年退職を迎えた高齢者と同じ時間を過ごした精神が宿るのだ。
まあ、悪いことはないか。
脳の記憶容量など、肉体的な問題はステータスが解決してくれるだろう。そして精神性の問題に関しては、あなた自身はそれを問題ないと捉えた。
自身の感性が枯れ木のようになっていくのは、なんとなく感じていた。しかしあなたはそれを悪いことだとは思わなかった。
既にあなたは一年以上を他者との関わりがほとんどない空間で過ごしているのだ。性格のおかげで孤独に苛まれることはないが、ただひたすらに戦いを行う毎日は、心のステータスがなければ発狂する可能性もあっただろう。
他者と関わることなく過ごす毎日は、少しずつあなたの人間性を変えていっている。あなたの中にあった人間的な感性を、徐々に摩耗させていっているのだ。
ステータスのおかげで記憶が色あせることはなくても、降り積もるものに思い出が埋もれていくことは止められない。
今のあなたはまだ、学校で周囲に人がいる空間で過ごした時間が多い。あなたを構成している多くのものは、人がいることを前提としている。だが、この空間で孤独に過ごす日々がそれを超えたら。あなたの人生の大半が、この遊戯世界での戦いの日々に変わったら。
あなたはどうなるのだろうか。
ふぅ。
戦いの終わり。あなたはダンジョンのボスを倒して、息を吐いて、背伸びをする。
ダンジョンには、一日3回しか入れない。ダンジョン内のエネミーは翌日にならないと復活しないので、あなたがこの遊戯世界で得られる宝箱は意外と多くはない。
あなたはボスが残した宝箱をワクワクしながら開ける。基本的に宝箱から最も多く出てくるのは下位魔術書などだ。故にあなたは下位魔術をちょっと訳が分からないくらいたくさん習得しているが、正直のその全てを使いこなせているわけじゃない。
<【落下】の上位魔術書を獲得した>
落下……。落下……?
あなたは首を傾げた。ひとまず魔術書をスキルでしまい込み、ダンジョンを出る。
最近のあなたは、魔術書を手に入れてもすぐにそれを習得しようとはしなくなっていた。ただでさえ現状の魔法や魔術を充分に使いこなせていないのだ。ある程度現状の手持ちの手札の習熟が済んでから、その他の魔術書に手をつけようと思っていた。
あなたはさらに他のダンジョンを巡った。次のダンジョンは火山のような場所で、常に氷の魔術を発動させないといけないほど暑い場所だった。
そんな中、あなたは宝箱を見つけた。
今日は運が良い日かも。
少しはずんだ気持ちになりながら、あなたは宝箱を開ける。
<【織人・糸紡ノ腕】の上位スキルオーブを獲得した>
「!」
あなたは少し驚いた顔をする。遊戯世界ではそれほど身だしなみに気をつかっていないこともあって、自由にしていたあなたのアホ毛もピンッとなった。
これは……字面から判断するに、生産系のスキルである。
あなたは現状、装備をガチャ産のものに頼りきっている。だからこそ、装備が充実した状態かと言われると首を振らざるをえない。
この生産系のスキル……糸や布を作るものだろうか。これで自分の装備を補えるようになれば、より戦力の増加につながる。
試してはいないが、素晴らしいものを手に入れたとあなたはホクホクした気分になった。
ただし惜しむべきは時間だろう。今日は599日目。明日は600日目のボス戦、つまり決定的な期日が既に迫っている状態だ。
今からこのスキルを習得して、自分の装備作りをするには……あまりにも時間が足りない。
一応あなたは【延々】や【加速】のスキルで体感速度を加速できるが、むやみやたらにそれを行なうととんでもないペナルティーを受けることになる。
以前、あなたはそれで無限修行ができるのではと試してみた時期があるのだが、そしたら戦ったら絶対に殺されると本能が滅茶苦茶訴えかけてくるような恐ろしい存在が現われて、それはダメだと警告された。
一日で十日以上に体感速度を引き延ばしたら、不正ということで次は殺されるらしい。
その警告を受けて、あなたは不思議なダンジョン系のゲームで、同じフロアに長時間いるとやべーやつが現われるようなシステムを思い出した。
あなたの現状を省みるに、この遊戯の運営はあまりバランスを気にしていないと思っていたが、一応そういった配慮はしっかり存在するのだろうか。
いやそもそもあれは遊戯のバランスを崩すからという警告なのだろうか。候補としては、時間を司る存在が独自に何らかのルールを運用しているという可能性もある。
つまり遊戯のルールに抵触したのではなく、時間を運行する何らかのルールに抵触したのではないかという説だ。
後者だとするなら、あまり時間を弄くったりする魔術は好ましいものではないのかもしれない。
ともかく、あなたは現状における生産スキルの習得を諦めた。600日を超えられたら、もしくは次の遊戯で、生産に関することを色々と検証して頑張ってみよう。そう考えて、あなたはスキルオーブを【異空間収納箱】にしまった。
600日。夜。あなたは0時の決戦に向けて、携帯のアプリの<エーテルショップ>から、高額な料理を注文していた。
<カレームのフルコース>
かなりの量のエーテルがかかるが、食べると24時間全ステータスが20%上昇するすごい料理だ。ただしこういった料理アイテムの効果は複合しないので、他のものを食べると上書きされてしまう点は注意が必要だ。
そして、最も注意する点だが。
「……」
うーん。そこまで美味しくない……。
エーテルがたくさんかかる。ステータスの上昇効果が高い。だからといって、それが必ずしも美味しい物ではないということには、注意が必要だ。
味覚はあくまで感覚である。人種や種族など、体のつくりやさらに個人差によっても大きく違いが出る。<エーテルショップ>に出品した何者かが美味しいと感じても、あなたがそれを美味しいと感じるわけではない。
美食を求めるのなら、できるだけ現代社会にある食材を使った料理の方が、安定感があることをあなたは学んでいた。
<ドラゴンステーキ>など、なんだか凄そうな食材を使った料理を食べてみても、肉が強靱過ぎてものすごく食べづらいといった例がある。なお解説を見てみると、異世界の匠が特殊な調理法を使って硬さを食べられる基準まで緩和したものらしい。
この遊戯世界を見ていると、時折地球とは全く異なった世界の片鱗を見かける。
異世界の人はすごいなぁ……。
あなたは感心した。
ともかく、そこまで美味しいとは思わないけど、食べられなくはないフルコースの料理を食べていく。流石はフルコースだ、色々な品があるためか、総合的なボリュームが結構ある。
料理を食べ終わるのに結構な時間がかかった。
ごちそうさま。あなたは手を合わせて、しっかりと挨拶をした。
あなたは後片付け、歯磨き等を済ませ、そのままお風呂に入る。
決戦前といっても、それまで通りの生活リズムを崩さない。その方が落ち着くことをあなたは経験から学んでいた。
いつも通り頭を洗って、体を洗って、お風呂につかる。
あたたかい。
お湯の温かい感覚があなたは好きだった。
物理的にポカポカしながら、あなたは新しい魔術のことや魔法のことを考える。
そしてふと、あなたはこれから戦うであろう600日目のボス。おそらくその前段階である、200日のボスのことを思い出した。
200日目。あなたは再び白い空間に転移した。
その眼は暗く濁っており、今もなお童子の死が心に暗い影を落としていた。
「……ッッ」
違和感を覚えて、あなたはそれに対して魔法を発動させた。
――【防衛機制】
――【同一視・勝利の男】
パキィンッと。何かを弾いた感覚がした。おそらく、精神に干渉する何らかのもの。
あなたは【自我同一性】というスキルを持っている。そしてそれは、あなた自身の最も優れた部分を反映したスキルである。
プレイヤーは最初にダイスを振った目に応じて様々な報酬をもらったが、同時にもう一つのギフトを贈られていた。
プレイヤーのパーソナリティー……いわゆる個性と呼ばれる分野を分析した上で、それに応じたスキルが贈られたのだ。
あなたにとってのそれは【自我同一性】というスキルであり、同時にあなた自身の最も優れた部分をそのスキルが表わしていた。
心への干渉。あなたが最も触れられたくない場所であり、他者の干渉を拒む領域である。
「へぇ……」
声がした。少年の声。
人の声を聞く機会があまりないあなたにとって、久しぶりに聞いた人間の声であるのだが……その声は幼い子どもの声ということで、あなたのトラウマにある人物の声と多少の類似性を持っていた。
だからこそ、瞬間的にあなたはひどく動揺した。
――その一瞬を少年は見逃さなかった。
僅かな違和感。それは先ほどの心への干渉とはまた違った、別側面のアプローチ。
あなたは心への干渉にはひどく敏感である。そしてそれを改変することへの対抗には、人より優れた力を発揮する。
だからこそ、その特質を先ほどの攻防で把握した少年は、心をねじ曲げるのではなく覗き見た。
そしてそれは少年が力を制限された200日の戦いにおいてなお、非常に卓越した能力を持つ証であった。
「なるほど」
ニヤリと少年は笑った。それはとても美しい笑みだった。少年の容姿がとても整っているいるからというのもあるが、同時に彼の内心にある、ある種極まったおぞましい邪悪が、その笑みに一つのカリスマを持たせていた。
それから。
クスクス。抑えきれないような笑い声。
それはまるで火山の火口からマグマがせり上がってくるような。あなたはおぞましいものが漏れ出てくるような感覚を覚えた。
「くふっっ、くふふふ……いいですね、とても素晴らしいですよ。貴方」
――すごく私の好みです。
ゾク。
凄まじい悪寒。
――ひっ
思わずあなたの口から短い悲鳴が漏れた。
「今は勝てませんね」
じゃあ、仕方がないですね……。見ていて、ひどくおぞましい色の感情。ヘドロのごとく濁った汚泥のような感情があなたに向けられる。
もうたまらない。
堪えきれないような、待ちきれないような。少年はどこか恍惚とした顔をする。
――じゃあ、しっかりと見ていてくださいね。
あなたには届かない、邪悪な少年の心の声。
「600日でまた会いましょう」
そして少年は軽く手を振って。
――直後、大量の血が飛び散った。
あなたの血ではない。少年の血だ。
思い出す。それはまさに、あの童子と同じような死に方。
だからこそ、それはいかなる攻撃よりもあなたの心を強く抉った。
――あ
びしゃりと、あなたの頬に血がかかる。
硬直していた。
心臓が激しく鼓動する。
息が苦しかった。
――うっ
こみ上げた嘔吐感のままに、あなたは吐瀉物を吐き出した。
なんだ。本当になんなんだ、この人達は。
お母さんも、あの子も、ここにいた少年も。
どうしてこんなに見せつけるように死んでいくんだっ。
止めてよ。
こんなの、止めてよぉ
あなたは涙を流した。
600日当日。
改めて思い返して、あなたは考えた。
――普通に戦いたくないな。
あなたは600日の戦いを全力で避けることに決めた。
≪リザルト≫
○200日目ボス勝利報酬(1d6)
結果【6】???
1.アイテム
2.装備
3.スキル
4.魔術書
5.武術書
6.???
※これらの判定は以前のボスラッシュの時に判定されている。この後、確率はナーフされて???は10分の1の確率になった。
○???上位判定(1d100)
結果【18】上位
※本来2分の1の判定だが、【幸運】スキルと【座敷童子の祝福】バフにより、+14して、64以下の数値が出たら上位判定。
○上位???(1d8)
結果【8】ランクアップ
1.??への手がかり
2.魔法書
3.想顕武術書
4.覚醒スキル
5.主人公に関する何か
6.ヒロイン
7.相棒
8.ランクアップ
○最上級???(1d10)
結果【4】超越スキル
1.??の覚醒
2.深淵魔法書
3.終極武術書
4.超越スキル
5.なんかすごい出会い
6.神々との邂逅
7.すごいアイテム
8.すごい装備
9.運命の加護
10.???
○超越スキルによるスキル強化判定(1d10)
結果【10】幸運
1~3:【自我同一性】
4~6:【魔術心臓】
7~9:【木精・深緑ノ園】
10:【幸運】
≪200日目ボス判定≫
○性別(1d2)
結果【1】男性
1.男性 2.女性
○外見判定(1d7)
結果【2】少年
1.幼少
2.少年(小中学生)
3.青年(高校生)
4.若者(大学生から20代前半)
5.大人(20代後半から30代前半くらい)
6.中年
7.老人
○小学生or中学生?
結果【1】小学生
1.小 2.中
≪外見詳細判定≫
○身長(1d5)
結果【1】とても小さい
1.とても小さい
2.小さい
3.普通
4.大きい
5.とても大きい
○体型(1d5)
結果【1】絶壁
1.絶壁
2.スレンダー
3.普通
4.大きめ
5.でかい
○容姿(1d4)
結果【4】やばい
1.普通
2.整っている
3.とても整っている
4.やばい
○関係(1d100)
好感度【99】とても良い
相性 【16】悪い
関心 【62】少しある(好感度補正+30)
○恋愛判定(1d3)
※3がでた場合、恋愛感情を抱く。
結果【3】ラブ
<200日目のボスがあなたに恋愛感情を抱いた!>
<関心が最大になった!>
ん? ここおかしくないか……? と、違和感に気づいた人はいますかね……。まあ、いないでしょう(挑発)
200日のやべーやつですが、こちらは自分が書いている【RTA】VRゾンビサバイバー真エンド【解説】の主人公をモチーフに書いていますね。
本編の主人公は恋愛感情が欠片もなさそうな邪神系主人公ですが、緑くんみたいな色々な意味で可愛らしい人間が現われたら舌なめずりしてストーカーを始める程度には、こういう人間が大好きです。いやまあ、同一人物ではないんですけどね。




