二十五話 二度目の死闘
500日の死闘アゲイン
300日。それ以降、10日ごとに現われるボスはみな魔法や想顕武術の使い手であり、400日を超えると時折覚醒スキルの使い手も現われた。
少年はそれらの全てのボスと対峙して、勝利した。
時に致命傷を負い、血みどろになりながらも勝ち抜いてきたのだ。
そしてようやく。再戦の日がやってきた。
500日目。白い空間で、少年はボスである男性と対峙する。
「今日は…全力でいくぜ、坊主」
男は手加減を捨てた。
油断なく、全霊をかけて。一撃を叩き込む隙を見計らう。
前回の500日の戦闘では、戦った少年はあまりにも弱かったため、手加減をした。
さっさと殺すことができたのものをあえて致命傷程度に止め、奮起を促していたのだ。
男の見立てでは、あと数回は手加減をして戦うことになるだろうと予測していた。
500日×数回だ。少年と男の間には、それほどの実力差があったのだ。
しかし、その考えはもう止めた。
――目の前の相手は既に自分を倒しうる領域にいる。
元々魔法などを習得した、一定の階位まで上り詰めた者同士の戦いは、魔法の相性や精神状態など、様々な要因で下剋上が起きやすい。油断をするべきではないのだ。
男は慢心を捨て去って少年と対峙していた。
格下と戦うという意識は捨て去っていた。警戒は充分にしていた。
しかしそれでも。少年が初手で取った行動には、思わずド肝を抜かれた。
――超多重展開・複合魔術【多重加速電磁砲】
(いやいや待て待て。なんだその膨大な量の魔術式は。一回で魔力を使い切るつもりか)
考えられたのはそこまでだった。
光速に近い速度まで加速された無数の銃弾が、大量に解き放たれた。
「――ッッ!!!」
――魔法【絶対勝者】
――【凌駕・上に立つ者なし】
男は魔法を発動させ、光速に近い弾丸より更に速く移動する。
同時に同じ魔法を多重起動させ、空気抵抗や摩擦、衝撃波などに対して打ち勝つ。
そして、駆ける。
無数の弾丸に追われながら白い地平線を疾駆する。
(チッ、こんな密度が高い攻撃じゃ反撃ができねぇなぁ…)
もはや機関銃を並べて連射しているかのような弾幕の密度に、男は弾丸を躱すことができても近寄ることができない。
(こんなペースでこの魔術を乱射していりゃあ…いずれ魔力が尽きる)
それは分かっている。
だがしかし、力を制限されていたとはいえ、100日目で自分を瞬殺した人物がそんな間抜けな手段を取るわけがない。
だから、おそらく何か仕掛けがあるのだろう。
それを見極めるために男は弾丸を躱し続ける。
躱して、躱して。
いつまで経っても相手の攻撃が途切れないことに気づいた。
(こいつ、魔力無限かよ!?)
弾丸を射出し続ける勢いは最初から一切衰えない。魔力を何らかの方法で供給し続ける仕組みがあるのだと、男は推測をした。
(じゃあ、今仕掛けるしかねぇよなっっ!!)
――魔法【絶対勝者】
――【凌駕・上を歩む疾走】
男は弾丸の雨の中にあえて突撃した。
銃弾は凄まじい威力を持っている。それは光速の90パーセント近い速度であり、だいたい秒速26万キロほどの速さである。
そして銃弾の重さが100グラム程度に土属性の魔術で加工された金属であるので、その威力を計算するなら、おおよそ2京ジュール。
その威力はかつて和国に落とされた核爆弾の約320倍。これが凄まじい速度で大量に連射されているのである。
常識的に考えれば、男の行為はただの自殺行為であるが。
「……っ」
それを見ていた少年は目を見開いた。
男は弾丸に向かって突撃して、そのまま弾丸をすり抜けた。
この事象には覚えがある。少年が想顕武術を使った時に時折起こる、5次元への跳躍。それと全く同質のものであろう。
これに対して普通の攻撃をしては埒が明かない。少年は術式の構築を止め、別の魔術式を構築し始める。
【凌駕・上を歩む疾走】。
それは勝利という概念を、相手を凌駕することと解釈して、さらに凌駕という事象を、実際に相手より物理的に上の次元へ昇ることと捉えた魔法である。
故に、攻撃は当たらない。3次元の角度でしか放たれていない魔術では、それに攻撃を当てることはできない。
――多重起動。
――魔法【絶対勝者】
――【凌駕・上に立つ者なし】
もはや瞬間移動に等しい速度。
少年が放った弾丸より速く、そんな自分よりもさらに速く。
今の自分よりもさらに速く。そんな魔法を何重にも発動させ、もはや光速の99パーセントという領域で少年に接近する。
閃光。もはや比喩ではない、そんな恐ろしい速度の拳。
炸裂すれば、少年の体は塵も遺さず弾け飛ぶだろう。
男は容赦なく、少年の頭を狙った。前のようにあえて腹を狙うといったことはしない。
(魔法はもう発動しているっ。今更前回のような精神干渉系魔法を使っても、このスピードが消えることはないっ)
――終わりだっ…!
拳が振るわれた。
膨大な衝撃波を撒き散らし、摩擦で空中に凄まじい業火を散らしながら。
轟音。
拳が直撃した。
頭が粉々に、破片すら残らず砕け散った。
しかし。違う。
――魔法【防衛機制】
――【同一視・勝利を求める男】
砕かれたのは少年ではない。
男の方であった。
魔法【防衛機制】。それはあなたが【秘密基地】の魔法を再解釈した魔法である。
発端は童子の自殺が切っ掛けだった。
もともとあなたの魔法は、平穏を求めるあなたの願望を【逃走】という手段で達成する魔法であった。
しかし、童子を目の前で喪ったあなたの心の平穏は、逃げるだけでは達成されない。
故に生まれたのが、【防衛機制】の魔法であった。
防衛機制とは、心が傷つくような受け入れがたい状況、もしくは危機的状況に晒された時に、それによる不安を軽減しようとする、無意識的な心理メカニズムである。
童子の自殺という受け入れがたい状況こそ、あなたにとって何よりもその無意識のメカニズムを感じさせる場であった。
心を平穏に保つために、別の次元に逃げる以外の他の方法が必要であったからこそ。
あなたはそのアイディアを思いついた。
そして【同一視】とは、端的に言ってしまえば、他人のことを自分のことのように思って、その特徴を自分に取り入れるなどの行いである。
例えば、憧れのスポーツ選手の真似をしたり、憧れの芸能人の服装を真似てみたりなど。
あなたの【同一視】の魔法は、あなたの心に強く残った人物の特徴を模倣する。
故に、【同一視・勝利を求める男】とは、まさに目の前にいる男の特徴を真似することであり。
――目の前の男と同じ魔法を、あなたも使用することができるという意味である。
そしてあなたは男よりもさらに速く拳を振るい、頭部を砕いたのだ。
「……」
勝った……?
頭部を消失した男の死体を見ながら、あなたはどこか不思議な感覚に陥っていた。
勝った。そう思う。でも、あの人がこんな簡単に倒せるはずが……。
素直に勝利を喜べない。現実を受け入れられない。そんな心境だった。
そしてそれはある意味正解であった。
どこからともなく声が聞こえてくる。
――活きよ、活きよ。
どこからか、涼風が吹いた。
――限定展開。
――心象領域【歓迎する等活地獄】
「くはっ、はははははははっっっっ」
いつの間にか失った頭部が再生していた。
男が笑っている。心底楽しいといわんばかりに。
「やるじゃねぇか…坊主」
「……」
まだ、終わらない。
あなたは静かに拳を構えた。
横文字は英語とかラテン語を調べて、あとは適当に並べています。なんかこう、格好いいと思います(厨二)
○等活地獄とは?
仏教において、殺生という大罪を犯した人が堕とされる場所。罪人同士での殺し合いを強制され、嫌がると獄卒にぶち殺される。
死んでも、獄卒の「活きよ、活きよ」の言葉で復活したり、涼風が吹くと復活したりするらしい。こうして、無限に殺し合うことを強制される。




