十七話 動き出す世界とダンジョン産の植物+α
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「ああ……ようやく、だ」
血の海。
豪華な部屋の中、飛び散った大量の赤。
「ま、待て! 金ならある! なんでも用意する! だから、命だけは――」
鮮血が舞う。
ゴロリと。首が落ちた。
「僕は何かが欲しいんじゃない」
既に命亡き骸に少年は呟く。
「ただ、お前のような醜い人間が許せないだけだ」
剣を収める。
そして何か。熱い、とにかく熱いものを吐き出すように、少年は息を吐いた。
「できる……ふふ、できるんだ」
達成感。高揚感。
それは酒に酔うように、少年を蝕んだ。
「変わるんだよ、変えられるんだ。この力なら…!」
少年はプレイヤーとして非常に大きな力を持っていた。
プレイヤーランキング8位 理想
彼は核国出身で、あなたが先日助けたプレイヤーでもある。
「あなたなら、どのように使うんですか? 【水瓶】」
尋ねるように、少年は虚空へ問いかけた。
「会いたい」
それは。聞けば何気ない呟きだったのかもしれない。
だが、そこから少年の旅路が始まった。
少年は唯一、世界中の政府の人間が何よりも知りたいであろう情報を知っていた。
≪プレイヤーランキング1位 水瓶≫
彼がいるであろう街の情報を。
週末に訪れる遊戯場は、基本的にプレイヤーが0時にいた場所から始まる。であるからして、おそらくその周辺にかのプレイヤーが居住しているのだろう。
少年は遊戯場には転移装置のようなものが存在することを知っていた。
それによって、前回の遊戯ではかのプレイヤーの近くに転移することができた。
少年は転移装置について、大まかにプレイヤーのスタート地点の周辺に設置され、プレイヤーが合流するために使われるものなのではないかと考察していた。
少年はあの街がどこにあるかを既に調べていた。和国の居福と呼ばれる県の街だ。
だから、少年の旅路が始まる。
会いたいという感情と、少しばかりの情報をもとに。
あなたに出会うため、狂気をまとう少年は歩み出したのだった。
共産党員の幹部。彼の惨殺事件は隠蔽されることになった。
この事件により、核国の政府組織におけるプレイヤーの扱いは、最上級の重要度を持つようになる。
プレイヤーランキング1位が核国に所属するというフェイクニュースも、この事件の流れを受けて対策をされたものだ。
例の惨殺事件は、おおむね一位のプレイヤーによる凶行だとは見なされなかった。
なぜなら、幹部の死亡推定時刻がおおむね一位のプレイヤーがルーシー国に現われた時間と一致しているからだ。
さらにルーシー国の窮地を助けるような、善良的な人物なのではないかという推測もされ、一位が犯人であるという考えはより遠ざけられた。
そしてこのフェイクニュースは、一位のプレイヤーの所在を知り、コンタクトを取るという目的と同時に、国内の惨殺事件を起こしたプレイヤーに対する牽制の意味合いも持っていた。
外交で虎の威を借ることも目的にはあったが、彼らは何よりも見えない爆弾を恐れた。
端的に言うと、プレイヤーによる暗殺が恐ろしかったのだ。
勝手なことを言うなと、1位の人物が襲撃をかけてくるのならそれはまだやりようがあった。
おそらく一位は善良な人物だろうから、真摯に謝罪し、適当な責任者を処断し、土下座でもなんでもすればいい。そして相互理解に努めるのだ。
何に怒り、何を嫌うのか。それを知ることができれば、唐突な破滅を避けることはできる。
だから、今後共産党政府は大いに気を病むことになる。
名乗り出ることがなく完全に隠匿を決め込む世界最強の影に、常に怯え続けることになるのであった。
とあるメリケンの研究所。
「やはりステータスの数値の増加と、実際の筋力の増加は一定ではないようだ」
それに対して研究者は口を開く。
「なるほど、つまり現在20の力のステータスのパンチが、プロボクサーの10倍近い威力が出たからといって、力ステータスを40にしたらプロボクサーの20倍になるというわけではないということか」
もう一人の研究者は深刻そうに呟く。
「ああ。しかも、グラフの傾きは増加傾向にある。我々の予想を遙かに超えて、プレイヤーの発揮できるエネルギーは増加していくのかもしれない」
引き攣ったような表情で、研究者は言った。
「おいおい、勘弁してくれよ。創作の世界じゃないんだ、一人の人間がそんな力を発揮できるようになるなんて……地獄だぞ」
もう一人の研究者はため息をついた。
「1位のプレイヤーは最低でも999日生存している。大まかに算出した経験値の傾向を分析したが、<生存ボーナス>とやらで、もらえる経験値の数値をざっくりと捉えると、よほど大幅な仕様変更が無い限りは最低でも1000に近いレベルには到達しているだろう」
まじか…。研究者は呟いた。
「そしてそのステータスを考えると……もしかすると、この地球上には核爆弾をも超えるような破壊力を生み出せる個人が存在するのではないか?」
……。
研究者は黙り込んでしまった。
「いや待て、でもだ。1位は悪い奴ではないはずだ。クワモスの件もある。危惧するような悪いことが常に起こりえるとは限らない」
もう一人の研究者は言う。
「確かに、クワモスの件は3位のミスソフィアのステータスを比較すれば、あれは1位以外に起こし得ないということは分かるだろう。そして、あのニュースが放送されてすぐに1位の人物が駆けつけたのが分かる。そのことから、1位が善良な人物であると言うことは推測できるが……」
――我々は……いや、世界は。そんな善良な1位の存在が守りたいと思えるほど、美しいものか?
歴史を。時に政府がどのような後ろ暗いことを行なうか知っているからこそ、場は沈黙で満ちた。
「……いや、今はそういう話はしなくてもいいだろう。お前は物事を悲観的に捉えすぎる」
もう一人の研究者は呆れたように言う。
「逆に、あんたは楽観的に捉えすぎたとは思う」
少し場に明るい雰囲気が戻ってきた。
「しかし、1位は本当に核国に協力的なのか?」
もう一人の研究者は答える。
「私としては、現状はよく分からないとしか言いようがない」
悩むようにもう一人の研究者は呟く。
「時差から考えて、あのニュースが放送されたのは和国では朝6時頃だが、核国では5時頃だ。プレイヤーが当時、どのような生活をしていたのかで変わるかもしれないが、可能性が高いのは和国だ。まあ、そのどちらかの国にいた可能性が高いだけであって、もっと他の国にいたり、我々の想定する条件と違う環境にいる可能性もあるから、断言することはできないが」
それに……と深刻そうな顔でもう一人の科学者は続ける。
「核国で共産党の幹部が不自然な死を遂げたことをCIAが掴んだらしい。いくつか情報が回ってきて、プレイヤーの犯行か検討して欲しいとのことだったが……おそらく、あれはプレイヤーの仕業だ」
核国がプレイヤーを統制できているのかは非常に怪しい。もし、本当に1位が協力していたらこういった事件も防げたのではないか?
二人の科学者の間に、考え込むような沈黙が訪れた。
「まあ、状況次第ではいくらでも解釈ができるから、これだけではエビデンスが全く足りていないが」
「……だとしても、本物は名乗り出ていないんだよな?」
「ああ、それが不思議だ」
研究者達は不思議そうな顔をする。
メリケン人はヒーローに憧れる。対比の一面として、和国人の多くはみんなもやっていると言う言葉にのせられやすい一面があるが、メリケン人の多くは君を必要としている、ヒーローになれる。そういった謳い文句に弱い。
だから、研究者たちにはその心情が分からない。
恥ずかしい、目立ちたくない。そういった心理が世界的に見ても和国人はことさら強い。ある種独特な文化なのだ。
「それにしても、そういった事例があると、ミスソフィアの献身がステイツとしては非常にありがたいものに思えるな」
「……創作でもあるように、民衆の政府への不信は根強い。そういった中で、よく名乗り出てくれたとは思う。おかげで、非常に有益な情報がたくさん集まった上に、ステイツも彼女を全力で支援することができる」
研究者たちの視線が、現在訓練をしている彼女に向けられた。
プレイヤーランキング4位 ステファノ
プレイヤーネームには、彼女が信仰する宗教の最初の殉教者の名前が使われていた。
殉教者。教えに従い、その命を落とすことになった者。その原初となった人物に尊敬を抱き、そのようにありたいという願いを込めて、彼女はその名前を使っていた。
実際の名前はソフィアといった。家名等は省略する。
「【矢放つ右腕】」
スキルの使用。彼女の右腕が光り輝く。
彼女は的に向かって右腕を振りかぶった。
輝き。集束したエネルギーが飛翔する。
ドンンッッ!!
木製の的が砕け、破片が飛び散る。
(この程度じゃ、全然足りないわ)
彼女は先日のクワモスの悲劇を思い出しながら、自分の力量不足を嘆いていた。
もし、自分があの時クワモスにいたら……1位のように、一瞬で人々を救うことはできなかった。
ゾンビのようなものが現われた先日の事件。それが神の遊戯と大きく関わっていることを、彼女はなんとなく察していた。
おそらく、今後もあのようなことが起こりえるのだろう。
そうなった時、自分が惨劇を食い止めることはできるのか。
プレイヤーとして、持つ者としての責務を。彼女は強く感じていた。
だから彼女は鍛えるのだ。
32日間エネミー達と戦い続ける苛烈なサバイバルを終えてなお、現実世界でも己の心身を鍛え続ける。
彼女は1位の存在に対して非常に強い好感を持っていた。
あの映画のような劇的なニュースが流れてから数分。迅速に、1位は惨劇の現場に駆けつけた。
おかげで、1100万以上の膨大な人口が住む都市で起きた惨劇に対して、被害者は1000人にも届かないという、事態を考えれば非常に軽度な被害で惨劇は収められた。
名乗りをあげないということには何らかの事情があるのだろうと思いつつ、彼女は1位のあげた実績には非常に高い評価をしていた。
(きっと、理想的なヒーローなのだわ)
いつか、会えると良いな。
そんなことを考えて、ソフィアはより鍛錬に没頭することにした。
「……」
宇宙猫。
唐突だが、あなたは未知のものに邂逅したような……無表情ながら、なんとも言い難い表情をしていた。
火曜日。学校から帰ってきた時のこと。
それは…そう、昨日植えた植物の植木鉢があった場所である。
遊戯世界のダンジョンで手に入れた謎の植物の種。それを植えたのだが……。
植木鉢には、芽が出るどころか1メートルほどの小さな木が生えていた。
「????」
意味不明。まさにそんな成長をしていた。
植木鉢の中には、それにギリギリ収まるように頑張って成長したとばかりに、ぎっしりと根が張り巡らされている。
これは……可哀想かな……。
現実逃避するように、あなたは大きな植木鉢を買いに行くことにした。
――数十分後。
帰宅。あなたは植木鉢を買ってきた。
それから、あなたは大きな植木鉢にこの謎の木を移植することにした。
うんしょ、うんしょ。
数分経って、作業完了。
でもこれ、まだ大きくなるのかな?
疑問に思うあなた。
もしかしてこの作業も無駄になるのか。急激に成長するようなら、アパート暮らしのあなたでは、この植物の面倒は見切れない。
――もう大丈夫。
「?????」
何か聞こえたような気がした。
気のせいだろうか。木の精だろうか。
「……」
おそらく気のせいだろう。あなたはそう結論づけた。
おや?
あなたは木になっている不思議な果実に気づく。
美味しそうだ。甘い香りが漂ってくる。
食べてみたくはあるが……このような不思議な樹木から生えている果実を食べても大丈夫なのだろうか。
あなたは訝しんだ。
――大丈夫。
「……」
また、何か聞こえたぞ。
あなたは無表情で戸惑う。
……。
まあ、敵意は感じないし。
あなたは試しにこの美味しそうな果実を食べてみることにした。
もぎっ
果実を手に取ってみると、少々固い手触りを感じた。
色はオレンジっぽい色をしているが、皮の感触はりんごのように固さを持っている。
念のため、あなたは水でその果実を洗って、包丁で皮を切る。
普段のあなたは、りんごなどは皮を剥かずに食べるが、今回は慎重に皮を剥いて食べることにした。
植物からの害意は感じないのだが、念のためだ。
あなたの警戒を察してか、先ほどから小さな木はどこか悲しむような雰囲気を出しているような気がしなくもないような。
よく分からん。
あなたは理解することを諦めて、果実に意識を集中させた。
――いただきます。
しゃく。
かじる。感触は、やはりリンゴのようであった。
――うまい!!
たまげた。
この果物を、あなたは今まで食べた果物の中で一番美味しく感じた。
その味は高級なりんごのように甘く、同時にレモンのようなさわやかな酸っぱさも併せ持っている。
とてもあなた好みの味だ。
夢中になってあなたはその果実を食べ進める。
数分後。
――ごちそうさまでした。
手を合わせて、挨拶。
「……」
少し考えて。
――ありがとう。
なんとなく、小さな木を撫でて感謝を告げた。
さて、お風呂準備をしよう。
そうして、あなたはリビングを出てお風呂場へ向かう。
ふと。
小さな木が嬉しそうに揺れた気がした。
誰かが、あなたを見ている。
あなたはその視線に気づかない。気づけない。
それはあなたより圧倒的上位者の視線。
――特に騒動を起こす気はなさそうだ。
そう判断すると、少女はあなたから視線を外した。
少女にとって、あなたは好ましい部類の人間である。信頼もできた。
故に、少女の役目の対象にはなり得ないだろうと、関心の外に置くことができる。
むしろ、最も役目の対象となり得るのは……。
視線を変える。
視点を定めたのはジェリナイアのとあるプレイヤー。
彼が、最も少女の役目の対象になるかもしれないプレイヤーだろう。
少女の目は人類の全てを見通す。なぜなら、少女自身が人類の象徴であるからだ。
人類意志。集合的無意識の管理人。人類の願いを背負う者。彼女が背負う役割は、そういったものであった。
彼女の役割は人類のバランサーである。
神々から賜った役目は、プレイヤーが著しく一方的に人類を苦境に追いやった場合、そのプレイヤーを止め、バランスを取ること。
だからこそ彼女は今日もプレイヤーを監視する。
プレイヤーはいずれ、プレイヤー以外の人類を容易く圧倒できる力を手に入れるだろう。
だが、それは容易にはなされない。少女がこの世界に存在する限り、プレイヤーたちに関する一定の歯止めは存在するのだ。
これは神々の娯楽である。プレイヤーは神々の娯楽のために生み出されたが、もとから存在した人類が神々から見放されたというわけではない。
どちらも、等しく神々の娯楽を満たす存在だ。
故に、人間が一方的に減るのはバランス調整としては不適切であると、少女は役割を担うことになった。
少女の瞳は見逃さない。
今日も地道に、プレイヤー達を監視し続ける。
鳴動。
深い地の底で、彼は目を覚ました。
撒き散らすわけではない。だが、感じる。
強大な、星をも滅ぼし得る魔力。
じーっと、彼はその魔力の持ち主を見定める。
一日、二日と経ち、彼は目を閉じた。
裁定は終わった。あの魔力の持ち主は、確かに星を滅ぼす力を持つが、それを無闇に振るうことはまずないだろう。
故に彼は再び眠りにつく。
彼は地球意志。星の存在を守護する者。
もしプレイヤーが星を壊そうとするのなら。彼はその牙を剥くだろう。
≪リザルト≫
○主人公の居住地(1d47)
結果【18】福井
≪植物判定≫
○特徴(1d4)
結果【1】美味しい
1.美味しい 2.綺麗 3.実用的 4.DANGER
≪人類意志≫
○性別(1d2)
結果【2】女性
1.男性 2.女性
○外見(1d7)
結果【2】少女
1.幼少
2.少年(小中学生)
3.青年(高校生)
4.若者(大学生から20代前半)
5.大人(20代後半から30代前半くらい)
6.中年
7.老人
○関係(1d100)
好感度【65】少し良い
相性 【8】 とても悪い
関心 【10】なし
≪地球意志≫
○性別(1d2)
結果【1】男性
1.男性 2.女性
○外見(1d7)
結果【5】大人
1.幼少
2.少年(小中学生)
3.青年(高校生)
4.若者(大学生から20代前半)
5.大人(20代後半から30代前半くらい)
6.中年
7.老人
○関係(1d100)
好感度【71】少し良い
相性 【41】普通
関心 【17】あまりない
≪プレイヤー状況≫
ある程度立ち振る舞いを考えている状況。発覚から最初の週は、あまり派手に動かない。なぜかというと、上位ランキングに入る人達でさえ、本気で軍隊とやり合ったらまだ勝てないレベルだから。
だがしかし、逆に考えると思い切りの良いサイコパスなどは人類の科学などの力が通じる内に国や組織の力を借りて、自分よりも上位のプレイヤーを全員抹殺したくもなる。
よって、確率的には10分の1程度でプレイヤーが暴れるということにした。
暴れなければ、ある程度秩序だった行動をする。
プレイヤー暴発ダイス(1d10)
結果【7】
※10が出るとイベント
話を書いてから、植物の種が観賞用であることを思い出しました。許してください。
人類意志さんと地球意志さんは…うん、Fateっぽいけど許してください(二度目)。神々の運営としての合理性を考えると、プレイヤーの動きを掣肘する存在は不可欠で、そういったことを特に望む存在は、やっぱりそういったものになるのかなという発想が。
彼らは滅茶苦茶強いです。実力的には、遊戯世界1000日目に登場するやばいやつと同レベルの存在です。今の主人公が挑むと、人類意志さんはともかく、地球意志には瞬殺されます。
人類意志さんは、人類全体に恨まれるようなことをすればするほど、やばい強さになっていきます。みんなの恨みというか……因果応報的な?そういう能力の持ち主です。