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十四話 500日目の死闘③

今回の話を書いていて、多分私自身がこの主人公のことをめっちゃ好きになっています。


高梨緑くんといいます。この主人公。


よく分からない書き方で描写をしているので、あなたばっかで主人公の名前を忘れがちですが、緑というのです、この主人公。


読者に共感してもらえるように・・・と思っていたんですが、気づいたら意外とぐう聖になってしまった。どうしましょう。まあ、それもまたよしですか。

 ――人間は醜い。そして、残虐な生き物だ。


 あなたが瞳を通して得た見識だ。


 幼い頃から、あなたは人の気持ちを理解することが得意だった。


 瞳に映る感情の揺らめき。それがあなたに人の心について教えてくれた。


 それでも、幼少期のあなたは人が醜いだけではないと、残虐なだけではないと知っていた。


 優しいオレンジのような、相手を気遣う暖かな心があった。


 黄色く辺りを照らすような、今を楽しむ心があった。


 広がる自然の緑のような、穏やかに安らぐ心があった。


 ――だが、それでも。人間は醜いのである。


 ずっと感じていたことがある。


 どうして人は分かり合えないのだろうと。


 どうして他の人の気持ちを理解してあげられないのだろうと。


 それはきっと、あなたのような特別な瞳がなくたって。


 誰かを思いやることはできるはずなのに。


 ――ああ。誰かが泣いている。


 悲しみの青。深い海のような、黒い青。


 ――ああ。誰かはそれを指差して、笑っているのだ。


 誰かにとって、それは面白いことだったのだろう。明るい、楽しそうな感情を揺らめかせていた。


 学校で見た一幕。


 それはきっと、どこにでもあることだったのだろう。


 だが、あなたはその場にいる誰よりも激怒した。


 ――なぜ笑える。


 ――何が面白い。


 ――こんなに苦しんでいるのに。


 ――こんな傷ついているのに。


 ――あなたたちだって、同じように傷つくことがある人間なのに。


 自分が特別な人物になることも、優れた人物であることも、あなたは諦めた。


 でも、それが美しいものであることを信じてはいたのだ。


 人に好かれる。認められる。それは良いものであると、無邪気にあなたは信じていたのだ。


 ――でも、違うんだ。違うんだよ。


 人は、醜いのである。


 確かにごく一部の例外はいるのかもしれない。それでも、大半の人は残虐である。


 誰かが命より大事にしているものでも、他人はそれを容易く踏みつけにすることができる。


 笑顔で。


 楽しんで。


 ああ。なんて悲しいことだろうか。


 それは科学的にも実証されていることである。


 ミルグラム実験。アイヒマン実験とも呼ばれる、人間の残虐さを試した実験だ。


 どのような実験か端的に説明すると、別室にいる人物にインターフォンを通じてクイズを出し、外れたら電流を流させる実験だ。


 その電流の強さは徐々に上がっていき、別室にいる人物は悲鳴をあげるようになり、壁を叩いて実験を中止してくれと叫ぶようになり、最終的には電流で気絶したことを想起させるような無言になる。(なお、これらの様子は既に録音したものを流すので、演技であり実際に電流が流されているわけではない)


 この際、人間はどこまで電流を流し続けることができるか。そういう実験である。


 別室の人物の様子に実験を止めようとすると、白衣をきた権威のある博士のような男がこの実験は大丈夫、安心してください。続けてください。あなたの協力が必要ですといったことを説明する。


 結果。40人中26人が最後まで電流を流すことになった。


 これが、人類の特徴である。何かしらの権威にすがれば、人は道徳的におかしいことでも実行してしまう癖がある。


 そんな歪さを、あなたは人の心を正確にモニタリングできる瞳で直視してしまった。


 ならばそれは、ある意味必然なのだろう。


 彼らにも良いところがあるのは知っている。


 だが、例えどれだけ完成された最高のワインがあったとして、そこに一滴だけ泥が入ってしまったら。


 そのワインを飲む気になれるだろうか。


 きっと、そういうことである。


 その汚点を知ってしまったが故に、あなたは人を嫌うことになった。


 普段は優しい人もいるのだ。それでも。そんな人物でも、時におぞましいことをするのを知っている。


 傍観者。ただ、眺めているだけ。目の前で傷ついている人がいるのを知りながら、あえて見て見ぬフリをした。


 ――こわい。こわい。


 普段は優しい人達だったからこそ、一層それが怖かった。


 いざという時、仕方がない。どうしようもないことだから。そんな合理化をして、自分は悪いことをしていないような、素知らぬ顔で残酷な行いをできる人間がこわかった。


 でも、あなたは一度怒ったのだ。


 それは、人生で初めての激昂だった。


 いじめと、それをただ見ていた傍観者。


 怒って、主犯格を殴った。


 ――二度とこんなことをできないように、お前がやってきた苦しみをそのままに味合わせてやる。


 その時は、そんな激情があなたを支配していたのだ。


 でも、ふと周囲の視線に気づいた。




 ――みんなが、あなたを恐ろしいという感情で見ていた。




 あ。


 ああ。


 ああ・・・・・・。


 ――自分も、醜いじゃないか・・・・・・。


 あなたが殴ったことで、傷つけた人がいる。


 あなたの暴力を見て、怯えた人がいる。


 いじめを受けていた人物でさえ、あなたに怯えていた。


 全部、全部、馬鹿らしくなった。


 こんな。


 こんなのって。


 ――どうしようもないじゃないか・・・・・・。


 だから、あなたは逃げるのだ。


 (いびつ)を正すことでさえ、誰かを傷つける。


 だから。あなたは争わない。


 何も告げない。


 ただ、自分だけの【秘密基地(アジト)】に逃げ込むのだ。


 それがあなた魔法の根源。


 戦うことを、関わることさえ厭うあなたの望み。






 ――なるほど。





 男が魔法を放つまでの最期の瞬間。


 あなたは凄まじい速度で思考していた。


 ――魔術【延々】


 それは発想の転換であった。


 AからBの間を長くするのがこの魔術の特徴。


 だから、ふと思いついた。


 退屈な時間が延々と続く。そんな表現があったな、と。


 思いついてしまえば、実行するのは簡単だった。


 今と、男が魔術を放って自分を殺すまでの時間。その間の距離を。


 ――【延々】と、延長する。


 さらに【加速】の魔術で知覚速度を加速し、より時間を多く確保する。


 そして、ひたすらに考える。自分の魔法を。その根源を。


 体を動かすことはしない。少しでも動いて、それに違和感を持たせて今の自分の状態に気づかれれば、あっさりとその速度の上を行かれ、殺されてしまうだろう。


 それから。あなたにとって、長い時間が経過した。


 あなたは自己の見つめ直しを完了させた。


「ん?」


 男はふと、違和感に気づいた。




 ――だが、それはもう遅い。




 ――心象領域【波風なき悠久の湖畔(パシフィック・ラクス)




 それは平穏な世界だった。


 争いも、奪い合いもない、静寂な世界。


 風は吹かず、水面は揺らがない。ただ、凪いだ湖の(ほとり)


 それがあなたの心象であった。


 それがあなたの望む世界であった。


「んなっっ!?」


 男の心象領域とあなたの心象領域がぶつかり合う。


「急に心象領域だとっ!?天才かてめェっ!!!」


 ――違うよ。


 あなたは否定した。


 これは才能ではない。


 ――ただ手慣れただけ。


 あなたはずっと魔法を使ってきた。


 意識がなく暴走していたとはいえ、前回の遊戯では1000日間魔法に親しみ続け、そして今回の遊戯では500日も実戦を通して魔法を使い続けてきた。


 技は知らなかった。どういう風に使えば魔法の技能が向上するのか、あなたは知らなかった。


 でも、ずっと魔法を使い続けてきた分、しっかりとした土台があなたに出来上がっていたのだ。


 あなたと男の心象領域がぶつかり合っているが、少しずつ、あなたの心象は押されていた。


 心象と心象のぶつかり合いは、純粋に意思の強さを比べる戦いだ。


 そこに魔法の効果は何も関係ない。いくら男が勝利の魔法を使えたとして、心象同士のぶつかり合いを魔法の効果で制することはできない。


 比べられるのは、心のステータスとあなたの意思。徐々に押されている現状において、どちらが負けているのかは知らないが、これからのステータス成長ではもっと心のステータスにも、数値を割り振ろうとあなたは心に決めた。


「へっ、めっちゃ内気な魔法を使う割には、結構粘るじゃねぇか坊主っ!」


 男が叫ぶ。


「だが、俺の勝ちは揺らがねぇ!!!」


 ――ッッ


 あなたの心象がより押される。


 平穏な湖の世界は、血湧き肉躍る地獄のような世界に塗りつぶされていく。


 ――やっぱり、ダメかな・・・。


 あなたは今、どうしようもないくらい慣れないことをしていた。


 心象領域とは、己の心を世界に投影し、世界を塗りつぶす魔法の使い方の一種だ。


 そしてそれは自分を何よりも曝け出し、己の心を世界に叫ぶ非常に開示的な行為だ。


 あなたはとても内気である。そもそもの魔法の成り立ちが、争いたくないから異次元に逃げるというくらいの生粋の引きこもりだ。


 だから自己主張の極みのような、心象領域を展開するということは、まさに陰キャがはっちゃけて人前で思っていることを大声で叫ぶくらい不慣れな行為なのだ。


 あなたは自分が非常に慣れないことをしているのは分かっている。


 でも、仕方がないことでもあった。逃げても謎の恐ろしい攻撃にやられる。


 ならば、慣れなくても己を叫ぶしかないのだ。


 そして何よりもあなたは認めたくなかったのだ。


 ――こんなおぞましい世界なんて、認めたくない。


 心象領域【歓迎する等活地獄】


 それが男の心象領域の名称だ。


 等活地獄とは殺生を犯した罪人が落とされるという、罪人同士で無限に殺し合いをすることを強いられる地獄だ。


 ああ。あなたにとってそれはとても恐ろしい地獄なのだろう。


 だが、男にとってそれは歓迎するべき世界なのだ。


 あなたはそれが怖かった。


 そして、そんな世界が許せなかったのだ。


 ――こんな世界、何が楽しい。


 ――認めない。


 ――例えそれが誰かを否定する(傷つける)ことになっても、こんな世界だけ認めたくないんだ。


 だから。




 だからっ。




『ようやく、少しはまともになったようだな』


 声が聞こえた。


『良い叫びだ。いたいけで、可愛らしい欲望じゃないか』


 その声は不思議とあなたの心に心地よく響く。


 今まで聞いた中で一番、可憐で妖艶で、美しい声。


『良いだろう。少しだけ力を貸してやる』




 ――【至高断片一時解放・心象強化(強欲)】




 想いが溢れた。


 ――咆哮。


 それは物心ついてから。あなたの人生で二度目の叫びだった。


「なっ??!」


 あなたの心象領域が世界を塗りつぶした。


 平穏な世界の中。男の中にある闘争心が洗い流されていく。


 それは、戦意無き世界。


 醜い心の感情を、その全てを洗い流すあなたが望んだ美しい世界。


 男の戦意が削がれていく中。


 最後に。




 男は笑みをこぼした。




「悪いな」


 男の手に、槍が現われる。


「手加減してたんだよ」


 その槍は、存在しているだけで全てを呑み込んでいった。


 世界が揺れる。


 世界に亀裂が入る。


 あなたの心象領域が崩れ去っていく。


「チャージはとっくの昔に終わっていたんだ」


 それはあなたが予感した、魔法を使っていようが殺されると感じた必殺の一撃。


 恐ろしい。


 全身に鳥肌が立ち、震えが止まらない。


「冥土の土産だ。じっくり目に焼き付けろ」


 ――これが魔法使いの最終到達点。


 男は槍を構えて。




 ――深淵魔法【栄光もたらす勝利の槍アブソリュート・グングニル




 ただ、力一杯投擲した。

















 あなたは敗北した。


 それは絶対である。


 それが真理であり、覆しようのない事実であった。


 飛翔した槍は、全ての事象を、法則を、因果を貫いてあの男に勝利をもたらす。


 深淵魔法とは、そういうものだった。


 それが放たれれば、もしあなたが【秘密基地(アジト)】の魔法を使っていてもなお、敗北を免れることはできなかっただろう。


 あなたは敗北した。


 それだけは変えようのない真実なのである。











 ――だがしかし。


 瞬時の思考。


 ふと、思いついた、咄嗟の機転。


 あなたは魔術を使った。


 ――魔術【誤認】


 使う対象はあの男ではない。


 使うのは、自分。


 認識を変える。


 そして――。






 ――あなたは心の底から敗北を認め、降参を宣言した。






 グサリ。槍があなたの腹に突き刺さった。


 だが、それだけ。槍の一撃はそれ以上の被害をもたらさなかった。


 だって、既にあなたは敗北しているのだから。


 本来、全てを無視してあなたの肉体を滅ぼし尽くし、あの男に勝利をもたらすはずだったその槍は、既に役目を終えていた。


 その攻撃はもはや、ただの投げ槍と化していたのだ。


 【誤認】の魔術の効果が切れる。


 あなたは戦意を取り戻した。


 ――さあ、第三ラウンド――






 斬ッッ






 あなたは首を切られていた。


「中々良い発想だったが・・・」


 あなたの体は粒子となる。


「ちっと、詰めが甘かったな」


 油断。


 少しの悔しさと共に、あなたは今回の遊戯を終了した。







 粒子となって消えたあなたの跡を見つめながら、男は呟く。


「全く、ボクは凡人でーすみたいな諦めた顔してる割に、とんでもねぇやつだ」


 ――俺の深淵魔法をあんな風に対処する奴は、初めてだったぜ。


 ガシガシと、男は頭をかいた。


「クソつまんねぇ死後のおつとめかと思ったが・・・」


 ――案外楽しめるじゃねぇか。もっと強くなれよ?坊主。


ここまでハイペースで書き上げたので、少し疲れました。そろそろため込んだ別の作業をしなければ。


あ。良かったらお気に入りと評価と感想をください(欲張り)。頑張りますので。


次からは日常(?)編です。現実世界ではゾンビが主人公くんの帰還を待ち望んでいますね。


最後にリザルトを下記に掲載しておきます。


この主人公は無気力系だと想定していたのに、予想外の粘りを見せたのでビビりました。最近の2面ダイスは、1ばっかりでて、性別判定が男で溢れかえっていたのですが、こういうところで1連打で粘れられるとは・・・。



第三フェイズ判定(1d2)

結果【1】まだだッ

1.まだだッ 2.死亡


第四フェイズ判定(1d10)

結果【3】死亡

1~9.死亡 10.!!?





≪???≫


○性別(1d2)

結果【2】女性

1.男性 2.女性


○関係(1d100)

好感度【10】とても悪い

相性 【31】少し悪い

関心 【51】普通




<ボーナス!>

今回、???に好印象なところがあったので好感度及び関心が上昇。


好感度上昇(1d30)

結果【30】


30×0.31(相性)=9.3≒9(四捨五入)


<???の好感度が9上昇した!>


関心上昇(1d15)

結果【11】


<???の関心が11上昇した!>




<NEW>

≪???≫

名前:???

種族:???

性別:女性

外見:???


○関係

好感度【19】悪い

相性 【31】少し悪い

関心 【62】普通




名前【Mr.ヴィクトリー】

種族:人間

性別:男性

外見:ムキムキマッチョのおっさん


○関係

好感度【59】普通

相性 【32】少し悪い

関心 【10】ほとんどない




<ボーナス!>

今回、Mr.ヴィクトリーに好印象なところがあったので好感度及び関心が上昇。



好感度上昇(1d30)

結果【28】


28×0.32(相性)=8.96≒9(四捨五入)


<Mr.ヴィクトリーの好感度が9上昇した!>


関心上昇(1d15)

結果【7】


<Mr.ヴィクトリーの関心が7上昇した!>




<NEW>

名前【Mr.ヴィクトリー】

種族:人間

性別:男性

外見:ムキムキマッチョのおっさん


○関係

好感度【68】少し良い

相性 【32】少し悪い

関心 【17】ない



好感度上昇のダイスの目がめっちゃいい!?(驚愕)

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