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十三話 500日目の死闘②

この物語の主人公は、端から見ると不思議系な雰囲気を纏っていることはあっても、基本的には読者のみなさんに共感してもらえるような設計です。


だから、この物語の主人公は基本的に凡人です。幸運でチートはあっても、それだけでは最強にはなれません。


主人公の緑くんは、牛丼を食べてうまい!ってなったり、ガチャの結果に一喜一憂したり、少年漫画やラノベを読んだりする普通の高校生です。自己肯定感が低いということも、現代日本人の非常に大きな特徴でしょう。


なので、彼がヒーローになるにはそれ相応の改心イベントが必要です。それをテーマにしたのがこのお話の一章となります(二章があるかは知らない)。

 自分が凡人であると実感したのは、いつからだっただろうか。


 小さい頃は、自分が特別であると思っていた。


 それは何かに優れていたからと、根拠があってそう思っていたわけではない。


 自分に個性的な才能があると思うこととも、少し違う。


 物事を主観的に見ることしかできないからこそ、ある種世界は自分を中心に回っているような感覚を得ていた。


 きっと、自分を物語の主人公のように思っていたのだ。


 何か特別な才能があるわけではない。勉強で一番を取れなくても、徒競走で一位が取れなくても。


 将来、自分の人生は、最終的にはハッピーエンドを迎えることができるのだと、物語のお約束のように、根拠なく信じることができていたのだ。


 ――自分を認めて欲しい。


 幼い頃の自分は単純であった。


 母親の言いつけを守って、あまり自分の表情を変えることはしなかったけど。


 でも、いつだって自分を認めて欲しいと、そういった強い承認欲求が確かに存在したのだ。


 『はい』


 小学校の授業ではピシッと手を挙げて、自分の答えをハッキリと発言していた。


 今とは全く違う態度だ。今では答えを知っていても挙手などしないくせに。


 でも、きっとその頃の自分は、できる自分を認めて欲しかったのだ。


 すごいと言って欲しかったのだ。


 褒めてもらいたかったのだ。


 ――自分に特別な才能がないと実感したのは、中学生の初めの頃だった。


 特別な才能といえば、自分には人の感情を見ることができる目があったが、それがすごいものだとは考えていなかった。むしろコンプレックスのように感じてすらいた。


 だって、それを誰かに告げることはできなかったから。


 今は亡き母親に、この瞳のことはだけは秘密にするようにと、幼少期からずっと刷り込み続けられたのだ。


 もはやそれは呪縛のように自分の行動を制限した。


 だから、こんな才能があると告げることができないものは、自分にとって誇れるものではなかったのだ。


 誰もすごいと言ってくれないのだから。


 ――そして中学生になって。自分の人生はより難易度が向上した。


 小学校の頃は、授業を真面目に聞いていれば100点を取ることができたテストは、いつの間にかしっかり勉強をしなければ7、8割を取ることすら難しくなっていた。


 部活動で始めたスポーツでは、努力を重ねても県大会にすら出ることは叶わなかった。


 ああ。自分には物語の主人公のような特別さはないのだ。


 はっきりと実感してしまった。


 だがしかし。それでもだ。


 ――自分が優秀な人間になれることは疑わなかったのだ。


 今はきっと努力が足りないだけ。


 確かに特別な才能はないのかもしれない。でも、地道な努力を続ければきっと自分だってすごい人になれるのだ。


 だから、努力をしよう。


 頑張ればきっと、報われる。


 そんなことを考えた。


 そして。


 ――努力を続けることすら一つの才能であると、実感することになった。


 自分を鍛え続けることは難しい。


 長時間勉強を続けるのは辛かった。


 毎日厳しいトレーニングをするのは辛かった。


 自分の娯楽を削って辛い時間を続けるのは、どうしようもなく辛いことだった。


 気づけば、ペンを持つのを止めていた。


 気づけば、走ることを止めていた。


 ああ。


 ああ。


 自分は……。




 ――凡人だ。優秀でさえ、自分には烏滸がましい。




 そこが、人生の一つの転機だったのだろう。


 自分は特別であることを。


 優秀であることさえも。


 全て、諦めてしまったのだ。













 ごぼっ。


 あなたは血を吐く。


 凄まじい激痛。今までの人生で一度も味わったことがない痛み。


 腹から下の感覚がない。そして、ただひたすらにお腹が痛い。


 下半身は、あなたの視線の先に転がっていた。


 上下真っ二つ。まるで過激なバトル漫画のようだ。


 薄れゆく意識の中であなたはそんなことを考えた。


 今の状況は、差し詰めゲームの負けイベントに遭遇したのようなものだろうか。


 きっと自分は、ここに至るまでの道筋を間違えた。


 おそらく、100日目の時点でボスとしっかり戦って、経験を積むべきだったのだ。


 仕方ない。今の自分では勝てない。


 あなたの心は諦観で満たされた。


 ゆっくりと、瞼が落ちていく。


 世界は徐々に光を失い。


 あなたの目の前は真っ黒に染まった。






















 ――ふと、気づいた。


 痛いけど。


 痛いけど。


 ものすごく、痛いけど。




 ――苦しくは、ないんだ。




 不思議だった。


 あなたは思わず笑ってしまった。


 こんなに痛いのに、苦しくないんだ。


 きっと、心のステータスがあなたの苦痛を和らげているのだろう。


 笑う。笑えてしまう。


 あの時、思い知った一つの強さ。とても尊くて、自分にはなかったもの。


 苦しみを乗り越える力。


 自分には存在しなくて、絶望したそれが。


 ――こんな幸運で、自分は手に入れてしまっていた。


 【心:2149】


 それがあなたのステータスだ。


 悲しいのか、嬉しいのか。よく分からない。それはもっと混沌とした気持ちで、やるせないような、簡単に言語化できない複雑な心情だ。


 だけど。


 だけど、だ。


 はっきりと分かるのはただ一つ。あなたは感謝していた。


 ――だって、さっきまで自分は諦めようとしていたから。


 この心のステータスは苦痛を和らげるステータスであって、自分の心の在り方をねじ曲げてまで正しい道を進めるようなステータスではないのだ。


 心が弱い自分だったのなら、今回の選択は諦める一択だった。


 なぜなら、痛くて、苦しいから。


 でも、心のステータスがそれを取り除いてくれたから。


 選択肢ができた。


 ――ありがとう。


 心の中で、あなたは呟く。


 幼い頃のあなたは、きっと消えていない。


 優れた人間でありたいという欲望は、心の奥底に眠っていたのかもしれない。


 だって、今もあなたはゲームが好きなのだから。漫画好きなのだから。小説が好きなのだから。


 子どもの頃から、格好良い英雄(彼ら)に憧れていたのだ。


 でも、折れた。


 彼らのように努力を積み重ねる強さを、強い心を持つことができなかったから。


 だけど、今ならいける。頑張ることができる。立ち上がることができる。


 ありがとう。


 ちょっと、頑張ってみるよ。


 ――まだだッ


 呟いてみた。少し、心が熱くなった。


 ――複合魔術【木精転身】


 体を木の精霊に作り替える。


 精霊。あなた自身がその概念を深く理解しているわけではないが、ただその肉体の多くを魔力で構成しているという特性だけは知っていた。


 ――魔力充填。魔力形成。肉体転化。再構成。


 ついでに魔力製の衣服も再構成して。


 もう一度。大地に足をつけて、立ち上がる。


「…良い目をするようになったじゃねぇか」


 ――待ってくれて、ありがとうございます。


 のんびりと再生を待ってくれた男にあなたは礼を言った。


「いや。雑魚に勝っても楽しくないからな。構わんぜ」


 息を吐く。


 神経を研ぎ澄ます。


 さあ。


 ――第二ラウンドの開始だ。















 ――魔法【秘密基地(アジト)


 あなたは構成した魔術を複数展開する。


 ――魔法【秘密基地(アジト)


 あなたは再び異次元へ逃げ込んだ。


「おいゴラァ! ちょっとそれは卑怯臭くねぇか!?」


 現在、あなたが取っているのは徹底的なヒットアンドアウェイ戦法。


 魔法で異次元へ逃げ込み、異次元で魔術式を複数構築して、魔法で現実世界に帰還すると同時に構成した魔術式を展開。それと同時にすぐさま魔法を使うことにより、相手に攻撃される機会を徹底的に減らす戦法だ。


 少々卑怯な戦法かもしれないが、それは非常に有効に機能していた。


 あの男は、おそらく魔法で異次元に逃げ込んだあなたに攻撃を当てる手段は一つしか持たない。


 それは最初に男がやろうとしていた、よく分からない恐ろしい攻撃。


 おそらくだが、その攻撃を放つのには大きなタメが必要なのだろう。だからそれをやらせないために、あなたはチクチクと男性に攻撃を続ける。


 先ほどの【多重加速電磁砲】の魔術を謎の能力で回避されて以降、あなたはあの男の能力の正体に薄々と気づいていた。




『だが、俺の方が賢い(・・・・・・)


『――俺の方が速い(・・・・・・)




 おそらくあの男の能力…たぶん魔法だが、それは相手を上回る力なのだろう。


 それであなた以上の知のステータスを得たり、放たれた【多重加速電磁砲】の魔術よりも速く動いたりしたのだ。


 だからこそ、現在あなたが牽制として放っている無数の魔術は威力を抑え気味であり、上回る力を利用されても、あまり強くなりすぎないような破壊力に調整していた。


「チッ、かなり便利な魔法だな…それ。超、面倒くせぇ」


 言葉とは裏腹に、男はとても楽しそうな顔をしていた。


 それはまるで、解き甲斐のある難しい問題を前にした子どものようだ。


「だがまあ、魔法使いとしては三流もいいとこだぜ。坊主は魔法の使い方ってやつを全く分かっちゃいねぇ」


 ゆらりと、男は構えを取った。


「だから、先達の魔法使いとして、真の魔法の使い方ってやつをみせてやるよ」




 ――【心象領域・歓迎する等活地獄】




 世界が変わった。


 真っ白の世界は、荒々しい闘争が跋扈する地獄の様相へ変貌する。


 それはまさに、絵巻物に描かれるような地獄の再現。


 荒れた大地が広がり、ところどころから灼熱の炎が吹き荒れ、鬼が跋扈する。


 おぞましい。


 恐ろしい世界だ。


 あなたは魔法によって異次元にいるので、それの影響を受けることはなかった。


 魔法を使い再び現世に戻ると、この世界に足を踏み入れなければならなくなる。


 嫌だ。


 どうしようもなく闘争に満ちたその世界は、あなたに非常に大きな嫌悪感を抱かせた。


「おいおい、いつまで引きこもっているんだ坊主。撃っちゃうぜ? 俺の必殺技、チャージが完了しちゃうぜ」


 男はこれ見よがしに魔力を集中させて、いかにも攻撃を溜めていますといわんばかりの姿勢を作る。


 あなたは覚悟を決めて、その世界に足を踏み入れた。


「ようこそッ!」


 刹那。




 ――あなたは四肢を全て切断された。




 全く、反応できなかった。


 完全に、知覚速度を上回る攻撃だった。


 あ。


 知覚速度を…上回る? 


 あなたは倒れながら、この空間の効果を考察する。


「多分察していると思うがよお、坊主に見せた魔法は、基本俺が見たものに対して勝るような効果しか得られないが…」


 男は両手を広げて、この広がる残虐な世界を指し示しながら言う。


「心象で世界を塗りつぶしたこの世界なら、様々なものを見なくても参照できる。だから俺は瞬時に坊主の知覚速度に勝る攻撃をできたわけだ」


 勝る…。


 若干認識の違いがあったようだ。おそらく、この男の魔法の効果は勝つということ。


 そしてただ単純に勝つというだけでなく、この男は勝つという概念を使いこなしている。


 なるほど…これが、魔法使いとしての成長の方向性。


「そもそも、坊主は全く魔法の使い方がなっていねぇぜ。魔法に重要なのは【解釈】と【深化】だ。坊主の場合は最も初歩的な、自分の魔法がどういう願望をもとにしているのかを知ることすら、おろそかにしているっぽいしな」


 解釈、深化。


 願望を、知る? 


「修行のし直しだな。次はもっと強くなってから来いよ?」


 男は再び魔法を発動させ――。


第二フェイズ判定(1d2)

結果【1】立ち上がる

1.立ち上がる 2.諦める


第三フェイズ判定(1d2)

結果【?】

1.まだだッ 2.死亡


○心象領域って?

詳しくはいずれ本編で解説しますが、端的に言うとFateの固有結果と呪術の領域展開を混ぜた感じでしょうか?

効果としては個人差がありますが、主に空間掌握、魔法深度増加です。

魔法使い同士がこれを展開し合ったら、基本的に心のステータスによって優位が決まります。対抗して領域を展開するだけである程度相手の効果を中和できるので、主人公が魔法をしっかり習熟していれば、ここまで一方的に嬲られることはなかったですね。

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