プロローグ 二話 後
大剣骨Bとフレイル骨はまっすぐと俺に向かってきている。
この状況だと回復はもちろんのこと、退くこともできない。
遠距離武器の弓と投げ鎗が敵にいる以上、背を向けての逃走は、格好の獲物で後ろから射抜かれることは間違いない。
回復もできず、退くこともできない。
(安定を捨てて賭けに出るしかないな!)
【零れ出た雉の鳴】。
鞭を自分から離れた床に強く振るう。
鞭が床にぶつかるとクッラカーが弾けるようなうるさい音が高らかになる。
するとオレに向かってきていた、骨たちの視線、骸骨なので目はないけど視線が俺じゃなくて音が鳴ったほうに向けられた。
(これで少しの間ヘイトをそらせて時間を稼げる!)
できたほんの少しの隙に割り込ませるように技を選択して鞭を刀の居合いかのように中腰で構える。
選択したのは俺が今つかえる技の中でもっとも高い威力を持つ技。
しかしこの技は発動するとHPがすこし削られる。
しかも選択してから実際に発動するまでに少しのためが必要である。
【零れ出た雉の鳴】は発動した場所に敵の注目を向ける、ヘイト逸らしの技だがほんの少しの間しか効果が続かない、すでに骨たちの視線は俺に向き直っていた。
だけども稼げたほんのすこしの時間でなんとか技の発動に間に合うはずだ。
ための間にいくつもの矢が飛来する、そして骨が先ほどの投げやりを行おうとするのが見えていた。
技の発動をキャンセルして矢を迎撃しようと思うが、それを堪える。
この攻撃をなんとかしても、じり貧となり勝ちの目はない。
矢が体に突き刺さりHPが減る。
今での経験により残りのHPを予測する。
詳しくはステータスを見ないと分からないが、今のHPだと技の発動による自傷ダメージで死ぬかもしれない。
(それでもギリギリに足りはずだ!)
骨たちの大剣がフレイルが眼前に迫る。
この攻撃をくらったら確実の俺のHPは削りきられる。
削りきられたら、このダンジョン【オジジャーナの墓】の入り口に戻され、俺の三時間半がすべて無駄になる。
「――くらったらな!!」
大剣骨Bの攻撃があと数十センチで届く間一髪のところで、技が発動する。
ためた力を一気に開放し、腕を振るう。
――己が身を喰らい、敵を喰らい尽くせ。
【蛇両喰】。
鞭は俺の身を蛇のように這い削り取りながら、現前の獲物向かっていく。
放たれた鞭は抑えがなくなった荒れ狂う悶え狂う蛇が如く、大きくうなりをあげ骨たちを薙ぎ払う。
一閃、ただそれだけで骨たちの骨は砕けた。
肋骨、鎖骨、肩甲骨、上腕骨、頭蓋骨などが砂糖菓子かのように砕け散っていく。
とてつもなく強力なこの技だが、攻撃の範囲には向かってきていた大剣骨Bとフレイル骨しかおらず、この2体は倒したが、弓骨と鎗骨は範囲外であるためダメージを与えられていない。
だからこそ、次の技につなげる。
【一鞭打尽】。
荒れ狂う鞭を抑え込み、鞭で砕け散った骨を一纏めにする。
「いけええ!!」
【ウィップスロー】
そして一纏めにした骨を鞭で放り投げる。
それとほとんど同時に矢と投げやりが飛んでくる。
俺と骨の間で互いの攻撃がぶつかり合う。
放り投げた砕けた骨は、いくつか撃墜されたが、それでも数が多いためかなりの数が残った。
矢と投げやりは撃墜されなかったが、それでもかなり勢いは落ちていた。
だったら十分に避けられる。
俺は身を屈め前のめりになり走り出す。
頭上を矢と鎗がかすめていく。
放り投げた砕けた骨は敵の骨にダメージを与えるだけではなく、目くらましにもなっており、俺の姿を見失っていた。
(そこだ!)
振るわれた鞭は鎗骨の足首を掴む。
そして掴んだ敵を横に振る【ハンマースイング】を発動する。
鎗骨は弓骨を巻き込んで壁にたたきつける。
(よしこのまま!)
掴みを解き、追い打ちをしかけようとした俺だったが、何回目かの『カチッ』という音を聞いた。
瞬時に俺は情けないヘッドスライディングをするかのように飛びのいた。
次の瞬間、俺の後方で爆発音が鳴り、爆炎が起こった。
動画を撮っていたら、映画とかでよく見るシーンみたいになっていたと思う。
この戦闘二回目の【爆裂罠】が起動した。
爆炎が俺に襲い掛かってくる。
ただでさえ少ないHPがさらに削れる。
正直やり直すことを覚悟した。
しかし、爆炎が収まった後も俺は生きていた。
俺はすぐには気を抜かず周りの安全を確認を行った。
残りの骨は爆炎によりとどめを刺されたようだ。
「……大丈夫か」
安全を確認した俺は張り詰めた緊張を解き、床に座り込んだ。
そしてすぐさま、自分のステータスを確認した。
「うわっ……めっちゃギリギリじゃねえか」
ステータスウィンドウを呼び出してみると、SPは4分の1ほど残っていたが、満タンで五桁あったHPは二桁しか残っていなかった。
追加で矢を一撃でも受けていたら、また最後の【爆裂罠】で飛びのくのが遅く爆炎の中心にもう少し近かったらHPはなくなっていたであろう。
「俺はナチュラルハチマキ持ちだったか、なんてな。なんにしても勝てばOKだよ……」
所持ウィンドウから回復アイテムを取り出し、HPとSPを回復することに専念した。
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